小説『織斑一夏の無限の可能性』
作者:赤鬼()

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Episode15:山田真耶は強い!?





【一夏side】


俺に敵意を剥き出しにしていたラウラの暴言に、セシリアがキレて、決闘を申し込んだ。俺のために怒ってくれた―――それが純粋に嬉しかった。

クラスメイトは事態が飲み込めず、ぽかんと口を開けていたりもするが。箒は箒で「出遅れた......」とかブツブツ言ってたりしてるが。

セシリアも箒も、それに鈴も、純粋に俺に想いを寄せてくれている。

女の子から好きと言われて、嬉しくない奴なんていないだろ。いつかは答えを出さなきゃいけない。

しかし前世の頃から今の今まで、俺は誰とも付き合った記憶がない。一人だけならまだしも現状で三人.....三人には三人のいいところがある。

うむぅ、童貞には酷な問題だ......。


「あー......ゴホンゴホン! ではホームルームを終わる。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。解散!」


既にラウラとセシリアの件は片付いたというかのように、ぱんぱんと手を叩いて千冬姉が行動を促す。

さて、次の授業はIS実習か。このまま女性と一緒に教室で着替える事を頭の中では良しと判断するが、常識的に考えればアウトである。さて、急いで更衣室に行かないとな。


「おい、織斑。デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろう」


元からそのつもりだ。IS学園で初めてできた男子のクラスメイトなんだからな。


「君が織斑君? 初めまして。僕は―――」


「あぁ、自己紹介は後にしよう。とにかく移動が先だ。俺達がいちゃ女子も着替えられないだろうしな」


説明すると同時に行動に移す。転校してきたばかりで勝手も分からないであろう、シャルルの手を取り、そのまま教室を出た。


「取り合えず男子は開いているアリーナ更衣室で着替える事になる。これから実習の度にこの移動だから、早めに慣れてくれ」


「う、うん......」


何だ? 妙に顔が赤い気がするが気のせいだろうか?

取り合えず階段を下って一階へ。急がなければならない。何故か? ここはIS学園。俺以外、女子しかいない学園。そう女の園である。

その中にシャルルのような存在が投げ入れられたようなものだ。例えるなら、ライオンの檻の中に餌を放り投げた状態?


「あぁーっ! 転校生発見!」


「しかも織斑君と一緒!」


しまった、見付かったっ!

ホームルームが終わった。つまり噂の転校生の情報を得ようと各クラスから情報先取のための尖兵が駈け出してきているのだ。あの波に飲み込まれたら最後、質問攻めの挙句、授業に遅刻―――鬼教官の特別カリキュラムが待っているのだ。あの姉は例え弟だろうが容赦しない。


「いたっ! こっちよ!」


「者ども出会え出会えい!」


次から次へと集まってくる女生徒の数に冷や汗しか出ない。思春期女子のこの行動力には本当に恐れ入る。


「織斑君の黒髪もいいけど、金髪っていうのもいいわね」


「しかも瞳はエメラルド!」


「きゃああっ! 見て見て! ふたり! 手! 手繋いでる!」


「え? って事は、織斑君がタチでデュノア君がウケ?」


本当にとんでもない事を口走ってるな......。俺は女にしか興味のない至ってノーマルで健全な男子であるのだ!


「な、なに? 何でみんな騒いでるの?」


状況が分からないといった感じでシャルルが訊いてくる。


「そりゃ男子が俺達だけだからだろ?」


「......?」


まだ状況が飲み込めていないシャルルは困惑顔のままだ。


「いや、普通に珍しいだろ。ISを操縦できる男って、今のところ俺達しかいないんだし」


「あっ! ―――あぁ、うん。そうだね」


「それにこの学園の女子は男子と極端に接触が少ないから注目を集めやすいしな」


「あぁ〜、なるほど」


漸く事態を飲み込めたシャルル。さて、この包囲網を突破するためには―――そこで視界を左右にまわし、脱出口を探す。

おっ、一つ先の廊下が極端に数が薄いな。あそこならイケルっ!


「新聞部副部長、黛薫子、只今参上っ! さぁ、噂の転校生君。インタビューさせてもらうわよ」


しまったっ! 最も見付かりたくないであろう人に見付かってしまったっ!


「......全くセシリアちゃんももっと早く情報をよこしてくれれば......」


どうやら黛先輩に情報をリークしたのはセシリアのようだ。全く俺を庇ってくれた事は純粋に嬉しかったのに。これは後で説教してやらねば。

まぁ、先ずは状況の打開が優先。


「いくぞ?」


「あ、う、うん」


シャルルの返答を確認してから、一つ先の廊下目掛けてダッシュする。そしてそのまま、追い付かれないようにさらに急ぐ。


「あぁーっ! 逃げられたーっ!」


「待ってーっ!」


後ろから女子の声が聞こえるが、取り合えず振り切らねば。


「しかし、まぁ助かったよ」


「え? 何が?」


「いや、やっぱ学園に男一人はつらいからなぁ。何かと気を遣うし。一人でも男がいてくれるっていうのは心強いもんだ」


「そうなの?」


そうなのって......シャルルは女子ばかりの集団に慣れているんだろうか?


「ま、これからよろしくな。俺は織斑一夏。一夏って呼んでくれ」


「うん、よろしく一夏。僕の事もシャルルでいいよ」


さて、群衆に捕まる前に脱出する事には成功した模様だ。そのまま更衣室にたどり着いたのはいいが、時間はぎりぎりだった。


「うわ! 時間ヤバいな! 直ぐに着替えちまおうぜ」


そのまま俺は制服のボタンを外し、Tシャツまで脱ぎ捨て上半身、裸になった。


「わぁっ!」


いきなり着替え始めた俺を見て、シャルルが素っ頓狂な声を上げる。えっと、俺の体って何かおかしかったっけ? 何気に鍛えてるから引き締まってるとは思うんだが。


「どうした? っていうか、なんで着替えないんだ? 早く着替えないと次の授業に遅れるぞ。シャルルは知らないかもしれないが、うちの担任はそりゃあ時間にうるさい人で―――」


「う、うんっ? き、着替えるよ? でも、その、あの、あっち向いてて......ね?」


「??? いや、まぁ別に着替えをジロジロ見る気はないが......」


そう、俺は女体にしか興味ないからな。男の着替えなんて見てもつまらないだけだ。


「......って、シャルルはジロジロ見てるな」


不意に視線を関したので、視線を感じる方へ目を向けると、シャルルはぼーっと俺の裸を見ていた。頬を赤く染めながら。えっと......?


「み、見てない! 別に見てないよ!?」


まぁ、気にしないでおこう。うん、気にしたらダメだ。

んで、着替えを再開させたわけだが、また視線を感じる......。気になって視線を向けると、シャルルはこっちに向けてた視線を慌てて壁の方にやって、ISスーツを着終わっていた。


「......着替えるの超早いな。なんかコツでもあるのか?」


「い、いや、別に......って一夏はまだ着てないの?」


「これさ、着る時に裸っていうのが着づらいんだよなぁ。引っかかって」


ふふん、俺のムスコはビッグなんだ♪ ......まぁ、まだ使った事ありませんけどねー。......悲しくなってくる......。


「ひ、引っかかって?」


「おう」


シャルルは何故か顔をカァーッと赤くしている。シャルルもだろう? 変な奴だな。


「ところでそのスーツ、なんか着やすそうだな。どこのやつ?」


「あ、うん。デュノア社製のオリジナルだよ。ベースはふぁらんくすだけど、ほとんどフルオーダー品」


「デュノア? デュノアって......」


「うん。僕の家だよ。父がね、会社の社長をしてるんだ。一応フランスで一番大きいIS関係の企業だと思う」


「へぇ! じゃあ、シャルルは社長の息子なんだな。道理でなあ、シャルルって気品っていうか、いいところの育ち! って感じがするし、納得だわ」


「いいところ......ね」


シャルルが視線を逸らす。表情にも陰りがあるように思える。何か触れられたくないところだったんだろうか。


「それより一夏の方が凄いよ。あの織斑千冬さんの弟だなんて」


「......まぁ、第三者から見たらそうなのかなぁ」


学園や外にいる時の千冬姉しか知らない人間はそう思うだろうが、家では脱いだ服もそのままに下着姿で酒ばっかり飲んでるわ、かなりズボラな姉だ。どうしても素直に凄いと認められない。まぁ、凄いとは思うが。


「どうしたの、一夏?」


「?」といった感じに首を傾げるシャルル。


「まぁ、世の中には知らない事実もあるという事だよ、シャルル君」


「? 変な一夏」


そんな事をしていたら当然―――


「遅い!」


ですよねー。

第二グラウンドに到着したのは俺とシャルルが一番最後だったらしい。

ははは、千冬姉が腕を組んで佇む様は、まるで鬼が金棒を持って待ち構えているかのような、そんな錯覚が見えてくるから不思議だ。

さて、IS実習の授業は本当に男にとっては酷なものがある。だって、ボディーラインがくっきり分かるISスーツを着ている女の子は、その、まぁ何だ。エロス。

さらに今日は二組の子も合同で一緒なため、破壊力は倍増だ。

さて、いつまでも俺達のせいで授業を遅らせるわけにはいかないからな。俺とシャルルは一組が整列している一番端に加わる。


「随分ゆっくりでしたわね」


隣にいたのはセシリアだった。俺のためにラウラに決闘を申し込んだのだ。


「いや、まぁ、更衣室にたどり着くまでが大変でな......」


そう、普通に更衣室に向かっていれば、何の問題もなかった。他のクラスの女子に囲まれさえしなければ、な。


「それよりも本当にラウラと決闘するつもりなのか?」


「当然ですわ」


「あんた、転校生に叩かれそうになったんだってね?」


ふと後ろを見ると鈴がいた。


「あんたの事だから何かやったんじゃないの?」


「何もやってない」


「―――織斑、オルコット、凰。お前等、私の授業で無駄話とは度胸があるな」


小声で話してた筈なんだが......千冬姉にはばっちり聞こえてたらしい。まさにデビルイヤー。


バシーンッ!




*◇*◇*◇*◇*◇*◇*



「では、本日から格闘および射撃の実戦訓練を開始する」


「はい!」


ズキズキと痛む頭をさする三人。俺にセシリアに鈴だ。無駄話をしていた俺達に容赦なく出席簿アタックが炸裂したのである。


「さて、今日は戦闘を実演してもらおう。授業に遅れたのと無駄話をしていた活力があふれんばかりの―――織斑!」


「お、俺!?」


まだIS操縦を始めて間もない俺がやるのか? ここには専用機持ちが俺以外にもいるのに?


「頑張って下さいまし、一夏様」


「一夏、骨は拾ってあげるわ」


一人、不用意な発言をしてるが無視しておこう。


「ちふ―――織斑先生? 何で俺なんですか? 俺よりIS操縦に長けた専用機持ちが他にいますよね?」


「いやな、これまでの戦闘で大分、昔の勘が取り戻せてきているんだろう? 現時点でお前の実力がどれほどのものか確認しておきたい」


昔の勘―――つまり、前世の頃の事だな。いくら経験と記憶を継承していても、器であるこの体は未成熟な十代の身体。御剣一刀流の技も再現するにはまだ身体がついてこれていない現状だ。

最近は模擬戦の甲斐もあって、前よりも大分勘は戻ってきている。それでもまだ前世の頃に比べれば、半分くらいなんだが。


「それで相手は?」


「対戦相手か、対戦相手はだな―――」


キィィィン......。


空気を切り裂くような音が聞こえる。嫌な予感がするな......。


「あぁぁぁーーーっ! ど、どいてください〜っ!」


嫌な予感的中かよぉぉぉっ!


ドカーーーン!


声の方を向くが時すでに遅し。謎の飛行物体の突進を受け、俺は数メートル吹っ飛ばされた後、ゴロゴロと地面を転がった。

危ない危ない。百式の展開が間に合ったおかげで大事に至らなかった。しかし、何が起き―――


むにゅ。


「ん......」


むにゅむにゅ。


「ひゃんっ」


むにゅむにゅむにゅ。


「あ、はぁ......あ、あのう、織斑くん......あんっ!」


え、えーっと......。恐る恐る俺は自分の手の先に視線をやる。


「そ、その、ですね。困ります......。こんな場所で......。いえ! 場所だけじゃなくてですね! 私と織斑くんは仮にも教師と生徒で、ですね! あぁ、でもこのまま行けば織斑先生がお義姉さんって事で、それはとても魅力的な―――」


俺が手に掴んでいたのは、なんと山田先生の宇宙規模(ビッグバン)おっぱいだった。この感触、この感度、まさに天国(ヘブン)っ!

許されるのであれば、ずっと揉んでいたい。しかし今は授業中であり、つまり今の俺のこの状態はクラスメイトの視線の的になる。

しかも姿勢がマズイっ! 何がマズイって、さっき吹き飛ばされた時にゴロゴロと一緒になって転がった結果、俺が山田先生を押し倒しているような状態なのである。

しかも俺の右手は山田先生の宇宙規模(ビッグバン)おっぱいを鷲掴みである。うん、そろそろ離さないと俺の命に関わる問題になると思うんだ。それは分かってる。でも、よく考えてみろ。

おっぱいを揉む事は童貞男からすれば、至高の夢である。その夢が思いもかけぬ状況で叶ったのだ。

一刻も早く手をどけなければいけないのに、俺の思考に反して、俺の体は反応してくれない。


―――ハッ!?


身の危険を感じて、即座に俺は体を離す。そして恐る恐る後ろを振り返ると四匹の悪魔がいた。

身の毛もよだつほどの黒いオーラをその身に包んだ千冬姉、箒、セシリア、鈴だ。

あっ、死んだ―――




*◇*◇*◇*◇*◇*◇*


【真耶side】


あぅぅぅ、嫁入り前なのに男性に胸を揉まれてしまいました。まだ男性には揉まれた事がなかったのに〜。

チラッと視線を向けると、ボロ雑巾のようにされた織斑くんの屍が地面に転がってました。

しかも織斑くんをボロ雑巾のようにした四人からの視線が私を突き刺すように睨んでる。ひぃぃぃ〜っ。あれは事故、事故なんですから。勘弁してください〜。

でも、織斑くん、大丈夫かな? ここは副担任として彼をちゃんと介護してあげなくちゃ、うん。


「織斑っ! いつまで寝ている。時間が惜しいっ。早く起きろっ!」


私の尊敬する織斑先生の凛とした声がグラウンドに響き渡る。気のせいなのだろうか、その声には怒りも含まれてるように感じるのは。


「は、はぃぃぃーーーっ!」


あっ、復活した。

よかった。大した怪我がなくて。


「さて、今から織斑と山田先生には模擬戦を行ってもらう。山田先生はああ見えて元代表候補生だからな。強いぞ」


「む、昔の事ですよ。それに候補生止まりでしたし......」


代表候補生の頃は目標であった織斑先生に少しでも追い付きたくて、必死に必死に頑張った。おかげで代表候補生にまではなる事ができたが、それまでだった。

でも、あの頃の努力が無駄になった、とは思ってない。

あの頃の努力があったから、私はこうしてIS学園で先生をやっていられるんだし、私が培った知識や技術を教え子に教える事が何よりも楽しい。

それに目の前で対峙する織斑くんにはセンスがある。

自身の専用IS初出撃時に初期化(フォーマット)と最適化処理(フィッティング)を実戦で行い、単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)の発動どころか進化までさせたのだ。

正直、私が知るIS操縦者でこんな事をしたのは彼以外にはいない。

いつかはあのブリュンヒルデすらをも凌ぐIS操縦者に育つ可能性があるのが織斑くんだ。

だから油断はしない。全力を持ってぶつかる。それが私の今の役目だ。




【一夏side】


山田先生の雰囲気が変わった。臨戦態勢に入ったようだ。

とても入学試験の時に勝手に突っ込んで動かかなくなった人と同一人物には見えない。

もちろん、今の山田先生の雰囲気に驚きを感じているのは俺だけじゃないみたいだ。箒もセシリアも鈴も、それに他のクラスメイトも唖然としたままだ。


―――面白い。


山田先生は現時点でセシリアや鈴よりも実力は上のようだ。

強い人と戦うのは血が滾るというのだろうか、胸から湧き出る高揚感が抑えられない。

今の俺がどれほど通用するか分からないが全力でぶつからなければ、あっという間に俺が負けるだろう。

気を引き締めなきゃな。今、目の前にいるのはいつもの朗らかな山田先生じゃない。IS操縦者、山田真耶だ。


「織斑、この試合。零迅雷光(れいじんらいこう)の使用は禁ずる。お前の実力だけで戦ってみろ」


「―――分かった」


山田先生の駆るISは第二世代最後期の量産型機体『ラファール・リヴァイヴ』。量産型とはいえ、そのスペックは初期第三世代型にも劣らないものだ。

雪片弐型を正面に構える。山田先生も武器をコールし、構える。それを確認した千冬姉が戦闘開始の合図を告げる。


「では、はじめ!」


俺の戦闘スタイルは武装が近接特化ブレードである雪片弐型しかないため、相手に近付かない事には何も始まらない。対する山田先生の『ラファール・リヴァイヴ』は装備によって、格闘・射撃・防御といった全タイプに切り替え可能な万能型だ。

取り合えず、考えてもやる事は変わらない。勝つためには近付くしかしない。

瞬時加速(イグニッション・ブースト)で突撃を仕掛ける―――もちろん、これは読まれてるようで山田先生はショットガンの照準を俺に狙いを定める。

もちろん、俺も馬鹿正直に突撃するだけじゃない。加速中にもかかわらず、スラスターを左に吹かし、右に避ける。

うぉっ、さすがにGが凄い。さらにスラスターを全開にし、山田先生に迫る。


「っ! 二段加速っ!?」


そのまま横薙ぎの一閃―――山田先生のショットガンを切り裂く。


「まだまだぁっ!」


勢いをそのままに上段からの袈裟斬りで斬りかかるも即座に展開されたシールドにその斬撃は阻まれる。


「簡単にはやらせませんよ」


そのまま体勢を直しながら距離を取り、二丁の機関銃が俺を狙ってくる。銃撃を掻い潜るように回避行動に移るが―――さすが山田先生、射撃の腕は相当なものだ。的確に俺が避けるであろう先を読んで、銃弾をばら撒く。

ははは、冗談抜きで本当に強い。

―――その後も何度か隙を伺い、攻撃を仕掛けていくが悉く防御される。そのまま正確無比な銃撃が少しずつ俺のシールド・エネルギーを奪っていく。

なら、相手の虚をつき、迅速な攻撃を持って斬る。雪片弐型を鞘に収めるような形で左後方で構え、そのまま突撃を仕掛ける。


「っ!」


ここまで接近を許してしまった事に対してなのか―――山田先生の表情が強張る。このスピードと迅速な斬撃をもってすれば、―――勝てる!


「そこまでだ!」


千冬姉の静止の声を合図に、俺も山田先生も動きを止める。俺の太刀は山田先生の首筋に、山田先生の銃口は真正面から俺を捉えていた。

うわぁ〜、絶対に勝てると思った斬撃はよくて相打ち程度のものだった。


「流石ですね、山田先生。絶対に勝てると思ったのに......」


「あ、あはは。運が良かっただけですってぇ〜」


運も実力の内というが、咄嗟の判断で虚をついた筈の俺の斬撃に対処してくるんだ。これが山田先生の実力か。いつもの朗らかな雰囲気からは想像もできないくらいの強さだ。


「よかったらまた仕合ってもらえますか?」


「時間がある時は、いいですよ〜」


強い人とやるのは、勉強になるし、前世の勘を取り戻すにも最適な練習になる。


「......放課後、二人きりで......いやん、そんな......」


「何か言いました?」


「ひゃうっ!? な、な、な、何でもありません!」


頬を赤らめ、ぶつぶつ言ってたかと思うと身をよじらせてた山田先生が気になって、訊いてみるが、首をブンブン横に激しく振って、何でもない事を強調された。しかし、戦闘中はあれだけキリッとしてるのに、今はいつもの山田先生だ。普段もあれだけ凛としてれば、生徒から尊敬されるかもしれないのに......無理だろうなぁ〜。


「さて、これで諸君にもIS学園教員の実力がどれほどのものなのか理解できただろう。以後は敬意をもって接するように」


まぁ、今回の模擬戦は山田先生の実力を生徒に理解してもらう事も目的だったらしい。多くの生徒は山田先生の事を尊敬の眼差しで見つめている。

箒やセシリアに鈴は、信じられないものを見たかのように目を丸くしてるが。

そりゃ普段の山田先生の行動を知ってれば、戦闘時の山田先生は想像もつかないからな。

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