小説『織斑一夏の無限の可能性』
作者:赤鬼()

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Episode20:激突!セシリアVSラウラ



【一夏side】


金曜日の放課後、セシリアとラウラの決闘の日。―――第三アリーナAピットにはセシリアを囲むように、俺、箒、鈴、シャルロットがいた。

決闘が決まってから前日まで四人でセシリアを特訓したのだが、結局、BT兵器使用時でもライフル射撃を行うための思考制御はうまく出来なかった。これがよくある物語なら決闘の前日にものにする事もできたのだろうが、現実はそう甘くはなかったって事だ。


「絶対に勝ちなさいよ、セシリア」


「ええ、鈴さん」


鈴の激励にセシリアは首を縦に振る。そして箒にシャルロットもセシリアに声を掛けていくのを俺は黙って見ていた。

俺の存在を否定してきたラウラに真っ向からぶつかっていったセシリア。


「一夏様......」


「......セシリア、お前なら大丈夫。勝てるさ」


セシリアが俺に視線を向けてくる。

相手はあのラウラ・ボーデヴィッヒ。その実力は未知数ではあるが、ドイツ代表候補生でもあり、専用ISまでも所持している。恐らく強敵だろう事は容易に想像できる。

しかし、セシリアの目は自信があるかのように、その視線は強い。

今のセシリアには、俺がいる。

箒が、鈴が、シャルロットが、セシリアの勝利を信じている。

初めて対峙した日は、女尊男卑を地で行くような高飛車な性格をした女の子だった。

クラス代表決定戦の時までは―――。

俺の勝利で終わったクラス代表決定戦の後は、何かと俺に構ってくるようになり、旦那様発言まで飛び出す始末。

それでも、セシリアが傍にいる事を迷惑に思った事はないし、俺に想いを寄せてくれる大事な存在の一人だ。まぁ、箒も鈴もシャルロットもそうなんだけどな。

だから俺はセシリアを信じる。

そう、セシリアの勝利を。


「セシリアなら勝てる。俺はそう信じてる」


「―――はいっ!」


俺の言葉が嬉しかったのか、抱き着いてくるセシリア。

うむ、今日も美麗(エレガント)。ISスーツだからおっぱいの感触がいつもよりダイレクトに伝わるわ、セシリアの甘い香りに俺の心臓は高鳴っていく。

しかし、このままでは俺が暴走してしまう。名残惜しいがこのままでいたら殺意の波動に身を包む三人に殺される......。


「わたくし、一夏様の信頼に絶対に応えてみせますわ。だから、その......確実に勝てる為にも勇気をくださいまし」


そう言いながら目を閉じ、顔を近づけてくるセシリア。

えっと......? ん? これって......?

あの、セシリアさん。ここに箒も鈴もシャルロットもいる事を忘れてませんか?


「「「い ち か ?」」」


そして俺とセシリアを離すかのように差し込まれる〈双天牙月〉。ISを部分展開させた鈴に表情はなかった。そう無表情というやつだ。

そして俺の首筋にあてられる箒の刀。

あれぇー、それって銃刀法違反じゃ......って、ここがIS学園という治外法権だから帯刀が許されるというのか!?

シャルロットはシャルロットで笑顔だけど目が笑ってない。しかも俺を見る目が「アトデオ話ガアルカラ」と物語っているように感じる......。っていうか、男装してるんだから女だってばれる様なことは控えないといけないんじゃないか?


「もう! 今日くらい、いいじゃありませんかっ!」


「ダメに決まってるっ!」


「早く行きなさいよね!」


セシリアの抗議に箒が声を上げ、鈴は早くアリーナへ向かえと急かす。シャルロットは未だに笑顔でした......。

セシリアはそのままブツブツ文句を言いながらもISを展開装着し、ピットから飛び立っていく。

残されたのは、殺意の波動に身を包む箒に鈴、そしてシャルロットだ。


「と、と、と、取り合えず、管制室にでも、い、行こうぜ? あそこからの方がよく見えるし、な......」


冷や汗が止まらない。

だって、誰も俺の言葉に返事しないどころか、俺ににじり寄ってくるその様が恐いんだ。


「......え、冤罪を、主張する......」


「「却下」」


そのまま俺は箒と鈴に両腕を取られ、引きずられていく。何も悪い事していないのに......。そして俺を見るシャルロットの目が......恐かった......。




【セシリアside】


アリーナには既にラウラ・ボーデヴィッヒが専用ISである『シュヴァルツェア・レーゲン』を展開・装着して待っていた。ドイツの開発した第三世代型であり、近接から遠距離射撃までこなす万能型
である事は知っている。


「―――来たか。先ずはセシリア・オルコット。貴様を血祭に上げてやる」


不敵な笑みでわたくしを挑発してくる。その表情は自分の勝利を微塵も疑っていない。


「わたくしにそう簡単に勝てると思わないでくださいな。勝利を手にするのは、このわたくし、セシリア・オルコットですわ」


「いいだろう。夢見心地な貴様に現実を―――教えてやるっ!」


試合開始の合図とばかりに、ラウラ・ボーデヴィッヒは一夏様と同じ瞬時加速(イグニッション・ブースト)を行い、突撃を仕掛けてくる。


「そう簡単にやらせませんわっ」


三次元躍動旋回(クロス・グリッド・ターン)を使い、突撃を躱し、一夏様に教わった瞬時加速(イグニッション・ブースト)で即座に距離を取る。

わたくしの得意分野である遠距離からの射撃という利点を生かすために距離を取るしかない。

サイド・バインダーに装備している4基の射撃ビットを展開し、相手が回避するであろう先を予想しながら、連続でビットによる視界外射撃を行っていく。

しかし流石はドイツ代表候補生といったところか、なかなか当たらない。


「ふん、理論値最大稼働のブルー・ティアーズならいざ知らず、この程度の仕上がりで第三世代型兵器とは笑わせる」


「くっ!」


そしてラウラ・ボーデヴィッヒは腕を左右同時に突き出し、交差させた腕の先で目に見えない何かに掴まれたかのようにビットがその動きを停止させられる。

AIC。シュヴァルツェア・レーゲンの第三世代型兵器、アクティブ・イナーシャル・キャンセラーの略称であり、慣性停止能力を有する停止結界がわたくしの攻撃を阻む。

厄介なものを開発したものですわ、でも―――


「動きが止まりましたわね!」


好機と見たわたくしは六七口径特殊レーザーライフル〈スターライト.mk?〉でラウラ・ボーデヴィッヒをロックオンする。


「貴様もな」


そのまま狙い澄ました狙撃を、事もあろうにラウラ・ボーデヴィッヒは大型カノンによる砲撃で相殺する。


「っ!? なんて非常識なっ!」


射撃を射撃で相殺する、なんてそうそうできるものではない。しかし、目の前のラウラ・ボーデヴィッヒは苦も無く実行するだけの力がある。

認めざるを得ない、かなりの実力者である事を。

目の前で対峙する強者に畏怖の念を抱き生まれた―――そう、一瞬の油断―――。

ブルー・ティアーズの思考制御が中断されてしまった一瞬の隙をラウラ・ボーデヴィッヒは見逃す筈もなく、瞬時加速(イグニッション・ブースト)により、一瞬のうちに距離を詰めてくる。


「―――っ!!」


ブルー・ティアーズの唯一の近接武器である〈インターセプター〉を展開しようにも未だに慣れない近接武器の展開が遅れてしまった。


「遅い―――」


両手に展開されたプラズマ手刀、そしてワイヤーブレードによる波状攻撃に襲われる。連続で切り刻むその衝撃にわたくしは為す術もなくブルー・ティアーズの装甲を切り刻まれ、そのまま右足を2本のワイヤーブレードが拘束し、回転を加えながら、壁へと叩き付けた。




【一夏side】


「セシリアっ!」


管制室にあるリアルタイムモニターで試合の様子を見ていた俺は思わず声を張り上げてしまう。

俺の為にその身を挺して、俺という存在を肯定してくれたセシリアが、傷付いていく。その様子を見ているだけというのは本当に辛い。

でも、俺は信じている。セシリアなら、今のセシリアなら―――と。

確証があるわけでもないし、対峙するラウラの技量は高い。

恐らく技量だけで言えば、ラウラに軍配が上がるのも事実だ。

でも、それだけじゃないんだ。技量だけで勝ち負けが決まる訳ではない。

箒も鈴もシャルロットも、ただモニターを凝視している。しかし、その胸の内はセシリアの勝利を信じてる。セシリアは決して俺達の信頼を裏切らない。

だから俺が今すべき事はセシリアを信じて、この決闘の行く末を見守るだけなんだから。


「強いですね、ボーデヴィッヒさん......」


管制を担当している山田先生も認めるラウラの能力。しかし千冬姉は違う事を考えているようで、山田先生とは違った見解をしていた。


「ふん......。あいつは変わらない......。ドイツであいつを特訓した頃からずっと......。強さを攻撃力と同一とだけ見ている。......一夏はどう見る?」


「今のあいつになら簡単には負けないさ―――今、あそこで対峙しているセシリアが本当の強さを教えてくれる」


「ふむ、そうだな。オルコットも大分強くなったみたいだしな......」


千冬姉は俺の答えに納得したのか、その視線をモニターに向ける。




【セシリアside】


壁に叩きつけられた衝撃は相殺しきれず、体を突き抜け、意識が一瞬遮断された。


「くぅっ!」


わたくしの想い人でもある一夏様が見守る前で無様な醜態を晒してしまった。でも、ここで挫けるわけにはいかない。

ラウラ・ボーデヴィッヒはわたくしの想い人でもある織斑一夏という存在を穢したのだから。―――許せる筈がない。それにこのまま倒れては特訓に付き合ってくれた箒さん、鈴さん、デュノアさんにも申し訳が立たない。

だから、わたくしは震える脚を両手で押さえ、立ち上がる。


「ふん、やはりお前では私の敵にもならんな」


「......黙りなさい」


声を出すのも辛い。でも、ここで倒れるわけにはいかない。


「お前がその程度では織斑一夏も底が知れるな」


今、この女は何を言った?


「下らん種馬に現を抜かすような雌に、この私が負けるものか」


この女は言ってはならない事を言った。

わたくしの大事な存在を侮辱した。

大事な存在を穢される事を許すのか、セシリア・オルコット。

いいえ、許せるものではありませんわ。


「もうこのような茶番は終わりにしてやる。―――止めを刺してやろう」


―――敵ISの大型レール砲(カノン)の安全装置解除を確認、初弾装填―――


―――警告! ロックオンを確認―――


巨大なリボルバーの回転音が轟き、照準がこちらに向けられ、その砲口から対ISアーマー用特殊徹甲弾が打ち出される。一発でも命中すれば、それだけで勝負の決着が付いてしまう程の威力を有する砲撃。

だが、不思議と焦りはない。あるのは冷えた感情と愛する者を穢したラウラ・ボーデヴィッヒに対する敵意だけ。


―――応えなさい、ブルー・ティアーズ!


その想いに応えるようにスラスターによる全開出力(フルバースト)による回避行動で空中を舞う。


「なんだとっ!」


避けられるとは思っていなかったのだろう、ラウラの表情に驚きの色が出る。


「ラウラ・ボーデヴィッヒっ! あなただけは、許すわけにはいきませんわっ! 行きなさい、ブルー・ティアーズ!」


腰に備えてあった二つの円筒状パーツから一発ずつ、2基のミサイルビットを射出する。


「無駄だっ!」


右手を突き出し、AIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)を展開させ、2基のミサイルビットの動きを停止させる。


「何度やっても結果は―――」


もちろん、わたくもAIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)を展開される事は予想済み。


「もちろん、その行動も予想済みですわ」


〈スターライト.mk?〉の照準を2基のミサイルビットに合わせる。


「でも、爆発の衝撃までは防げないでしょう?」


そのまま停止させられた2基のミサイルビット目掛けて、レーザー射撃を行い、ラウラの目の前で爆発させる。


「―――くぅぅぅぅっ!」


そのまま四方から4基のレーザービットを展開、AIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)の展開を解いたラウラにビット射撃を連続で畳み掛ける。


「調子に乗るなぁぁぁーーー!」


そのままワイヤーブレードを展開し、4基のレーザービットを切り払おうとするも、思考制御を駆使し、斬撃を躱していく。


「わたくしの誇りを、一夏様を、......穢した罪は重いですわ」


そのままビットを展開させながら、ライフル射撃でラウラを的確に射抜いていく。


「き、貴様ぁぁぁっ!」


今までになかったブルー・ティアーズとの一体感をその身に感じる。わたくしの勝ちたいという想いにブルー・ティアーズが応えてくれる。

例え、この状況でAIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)を展開させたとしても三次元という攻撃を両の手だけでは捌き切れない。

ワイヤーブレードを展開しても、レーザービット、ミサイルビットに撃ち落とされてしまう。

ビット射撃だけではなくライフル射撃による同時攻撃にラウラのシールドエネルギーは確実に奪われていく。

このままでは負ける。

そう、ラウラが確信した瞬間、異変が起きた。




【ラウラside】


確かにセシリア・オルコットは強かった。力を見誤ったのは私のミスだ。

しかし、負けたくない。

私は最強でいなければならないのだ。

存在を認めさせるために最強でいるしかなかった私は強さだけを求めた。

だからこそ、負けるわけにはいかなかった。

だから、私は求める。

私が最強でいられる力を―――。

誰も負けない最強の力を―――。

そのためには力が欲しい―――!

そう願った瞬間、私の中で何かがうごめくのを感じた。そしてソレは私に問いかけてくる。


『―――願うか......? 汝、自らの変革を望むか......? より強い力を欲するか......?』


その問いかけに私は肯定する。

―――比類なき最強を、唯一無二の絶対を―――私によこせ、と。

次の瞬間、私の意識は闇に支配された。

―――Valkyrie Trance System......boot―――

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