小説『織斑一夏の無限の可能性』
作者:赤鬼()

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Episode19:シャルルの告白





【シャルルside】


一夏に僕の素性が明らかになってしまった。決定的だ。一糸纏わぬ姿を見られたのだから。

一夏の鼻血は暫くして止まったのだが、未だに意識は戻らない。

一夏にバレたというのに、一夏が僕の姿を見て鼻血を出してくれたというのは女の子として見てくれた、という事なのか、一夏に女の子として見られた事を嬉しく思ったりした。

でも、一夏に僕が女である事がバレた以上、学園から出て行かなきゃいけない。だから一夏とは今日を最後に永遠のお別れ。

ただ、せめて一夏が目を覚ますまでは此処にいさせて下さい。

―――僕の最後の我儘。

―――気になってた男の子、織斑一夏の顔をずっと覚えておきたいから。

―――僕の膝で寝息を立てる一夏の顔を時間が許す限り、見ていたかった。

一夏が目を覚ましたら、全てを話して、学園を去るだけだ。

一夏を欺いていた事、一夏は僕を許してくれないかもしれない。当然だ。一夏に嫌われる、というのは胸が引き裂かれそうになる位に辛いものだけど、一夏を騙していたのだ。当然の報いとして受け入れるんだ。

例え、一夏に嫌われても......想いを寄せるのだけは許してほしいかな。そう僕が勝手に恋焦がれるだけだから。

この恋は報われないのだから。一夏を膝枕しながら、その髪を優しく撫でる。一時の幸せに包まれながら。

僕を唯一愛してくれたのは亡くなった母だけ。

父に会った事も二回しかない。一度目は引き取られた際に。二度目は唯一の男性IS操縦者と白式のデータを盗むために日本に行くように命じられた日のたった二回だけ。

父の本妻にあたる人と父の間には子供がいないらしく、本妻の人には頬をぶたれ、憎々しい視線を向けられた。

所詮、僕は妾の子として、誰からも愛されない存在なのだ、と知った。

たった数日間だけだったけど、一夏の傍にいられたこの数日間、本当に幸せだった。

学園生活に、気になる男の子。夢にまで見た生活が確かにここにはあったのだから。

一夏、騙しててゴメンナサイ。

一夏、好きになり始めてゴメンナサイ。

一夏、こんな僕に優しくしてくれてアリガトウ。


「う......ぐす......ひっく......」


ダメだ。止まらない。涙がとめどなく流れてくる。


「......シャルル?」


「え? ......あ、ごめん、ごめんね。起こしちゃった?」


「......泣いてたのか?」


「............」


一夏が体を起こし、僕の顔をじっと見てくる。ダメだ。泣くな、シャルル・デュノア。

必死に涙を止めようとするも、僕の目からはとめどなく涙が流れる。


「あはは、ごめん、ごめんね。なんでもないんだよ。目にゴミが入っただけだから、ね。」


我ながらどうしようもない嘘だ。でも、一夏に僕が泣いてる姿を見せるわけにはいかない。

僕に泣く権利なんかないんだ。だから涙を早く止めなきゃ。


「............」


一夏は何も言わず、ただ、ただ、僕を優しく包んでくれた。

不意に香る一夏の優しい香り。それが僕の体を優しく包んでくれる。


「シャルル......俺は事情を知らないから無責任な事は言えない。でもな、お前が泣いてるのを黙って見てられるほど、俺は情けない男じゃない」


僕の頭を優しく撫でながら、突然の出来事に困惑している僕にも理解できるように、ゆっくりと一言一言優しく語りかけてくる。


「お前が女の子でも、俺にとってはシャルルであって、シャルル以外の何物でもない」


「............うぅ......うぇ......ひっく......ぐす......」


「泣きたければ、いつでも俺の胸を貸してやるさ。だから今は泣いていいんだぞ?」


「ぐすっ......ひっく......うわぁぁぁぁぁぁーーーん」


一夏の言葉に、僕の抑えてた感情が爆発した。

母が亡くなった日を最後にもう泣かないって決めていたのに。


............


.........


......


...



「ぐすっ......」


あれからどれくらい泣いてただろう? 一夏に抱かれながら、一夏の胸で、思い切り泣いた。


「落ち着いたか?」


一夏の言葉に首を縦に振って肯定する。

落ち着いてくると、今の状況がとんでもない状況である事が分かる。今の状況を軽く言葉にすると、一夏に抱き締められているのだ。

その事を理解すると、顔がかぁーっと熱くなるのを感じる。多分、耳まで真っ赤な筈だ。でも、悪くない。寧ろいつまでもこうして抱き締められていたい。

でも、一夏には全ての事情を話さなきゃいけない。

今まで騙してた償いをしなきゃいけない。こんな僕にでも優しくしてくれた一夏のためにも。例え、嫌われると分かっていても。

―――もう学園を去る決意をしたのだから。


「一夏、あのね。一夏に話さなきゃいけない事があるんだ......」




【一夏side】


俺の胸で一頻り泣いたシャルルは落ち着いたのか、全ての事情を話してくれた。

何で男の格好をしていたのか? も含めて。

シャルルはデュノア社社長と愛人の子供であり、引き取られる二年前までは母と二人だけで生活していたらしい。

一応、生活資金などはデュノア社社長が振り込んでくれていたらしいが、その生活も母が亡くなった事で引き取られたらしい。

その過程で色々と検査をする中、IS適応が高い事が分かり、非公式であるもののデュノア社専属のテストパイロットを務める事になった。

それから暫くしてデュノア社は経営危機に陥る。いくら世界第三位のデュノア社でも主力ISは第二世代型。

世界は既に第三世代型の開発に取り掛かっており、欧州ではイギリス・ドイツ・イタリアがトライアルの段階にまで進んでいる。

フランスは未だに第三世代型の開発の目途も経っていない状況であり、一歩も二歩も後れを取っているとの事らしい。

デュノア社でも第三世代型の開発に取り組むものの圧倒的にデータも時間も不足している状況であり、なかなか形にならない。そして遂に政府からの通達で予算が大幅にカットされる事態にまで落ち込んだ。

そして次のトライアルで選ばれなかった場合は援助を全面カット、その上でIS開発許可も剥奪されるって流れになったらしい。

焦ったデュノア社社長はシャルルを男装させ、先ずは注目を集めるための広告塔に仕立て上げた。そして同じ男子なら日本で登場した特異ケース、つまり俺と接触しやすい。可能ならその使用機体と本人のデータを取ってこい、というつまりスパイの真似事を実の娘にさせようとしたのだ。

その余りの身勝手な大人の思想とやらに、俺は苛立ちを覚えた。

俺も千冬姉も親に捨てられた。

大人の理不尽な都合に振り回されたのだ。

今までのシャルルの話し振りから、シャルル自身も父親に対して、いい感情を持っていないのだろう。あれは父親ではなく、他人なのだと、自らの中で区別するために。


「まぁ、こんなところかな。でも、一夏にばれちゃったし、きっと僕は本国に呼び戻されるだろうね。デュノア社は、まぁ、......潰れるか他企業の傘下に入るか、どのみち今までのようにはいかないだろうけど、僕にはどうでもいい事かな」


「............」


「一夏、今まで騙してて、ごめんね。でも安心して。今日で僕はいなくなる、から......」


「......のか?」


「え?」


「それでいいのか? いい筈ないだろ。親は関係ない。シャルル・デュノア。お前はどうしたいんだ?」


「え......い、一夏」


「俺はお前に聞いてるんだ。どんな事情があれ、俺はシャルルの味方だ。俺はシャルルのしたい事を心から応援する。親とか関係ない。親が何を言おうが子供の将来まで奪う、そんな事は認められないっ!」


シャルルは俺の言葉を咄嗟に理解できなかったのだろう。困惑した表情を浮かべる。

でも、俺も自分の感情を抑えきれない。

親だから? 親だから子供の未来を奪っていい? そんな事あってたまるかっ!

親には親の、子供には子供の、未来を決める権利は自分にしかないのだから。


「親がいなけりゃ子供は生まれない。だけどな、親が子供に何をしてもいいなんて、そんな馬鹿な事が許されてたまるか! 生き方を選ぶ権利は誰にだってあるんだ。それを親に邪魔されていいなんて事はないんだ!」


俺も親に捨てられたから、シャルルの境遇は理解できる。だからこそ、シャルルには自分で自分の生き方を選んでほしかった。


「い、いち、か......?」


「俺もさ、俺と千冬姉なんだけど―――両親に捨てられたから」


この世界では両親に捨てられ、前の世界では親は幼い頃に事故死している。でも、誰からも愛されなかったわけじゃない。

この世界では千冬姉に、前の世界では俺の剣術の師匠でも祖父に、愛を注がれ育った。だから、自分が不幸だなんて思った事はないし、幸せだと感じていた。


「シャルル、お前はどうしたいんだ?」


「でも、どうしようもないよ。フランス政府がこの真相を知ったら黙ってないだろうし、僕は代表候補生を降ろされて、よくて牢屋とかじゃないかな」


「なら、ここにいろ」


「え?」


IS学園には日本国内にある学園だが、何処の国の法律も干渉できない特記事項というものがある。それを利用すれば、三年間は大丈夫なはずだ。


「―――つまり、この学園にいれば、少なくとも三年間は大丈夫なはずだ。それだけ時間があれば、何とかする方法だって見付けられる。それに学園を卒業してもシャルルは俺が守るさ」


「えっ!?」


「ん? 何かおかしい事言ったか、俺」


「そ、その......僕を守るって......」


「あぁ、当たり前だろ。誰もシャルルの存在を認めてくれないなら俺が認める。シャルル・デュノアの存在を織斑一夏が認める。だから、ここにいろ」


「............」


シャルルが固まってる。あれ? 俺、変な事言ったか? 言ってないよな?

おっ、ぷるぷる震え始めた。


「一夏ぁぁぁーーーっ!」


「へぶぅぅぅーーーっ!」


シャルルが体当たりしてきた。しかも諸に鳩尾に入り、俺はガクブルですよ。


「へ? あぁーーー、ごめん、ごめんね。一夏。あまりに嬉しくて、つい......」


「い、いや、まぁ、気にするな......」


「えへへへ」


ぎゅーっと俺を抱く腕の力が強くなる。離れない、といった感じに強く強く。く、苦しい......。


「あのぉ、シャルル? ちょっと腕の力を弱めてくれるかな?」


「シャルロット」


「へ?」


「シャルロット・デュノア。僕の本当の名前。二人きりの時はシャルロットって呼んでほしいな。ダメ?」


「いや、構わないけど」


「じゃあ、呼んで」


「? シャルロット?」


「もう一度」


「シャルロット」


「えへへへ〜」


ギュー――。

さらに強くなる腕の力。く、苦しい。しかも尻餅をついた状態の俺に覆いかぶさるように抱き締めてくるシャルロット。まるで襲われてるような状況だな、これ......。

猫のように頭をすりすりしながら甘えてくるようなシャルロットの頭を撫でてると、不意に襟元からわずかに見えた胸の谷間に一瞬意識が飛びそうになってしまう。


ヤバいヤバいヤバいヤバい。


ヤバいってェェェェェェーーーっ!!


こんな体が密着してる状態で......俺の暴れん坊将軍が覚醒してしまったら......。

主人公という立場から一転、ただの変態キャラという不名誉な烙印が押されてしまうだろう。

それだけは避けねばならない!

主人公という立場だけは守らねばっ!!

さりげなく、そう、さりげなくだ。シャルロットにばれないように体の位置をズラせば大丈夫だ。俺ならやれる。やってやるんだっ!!


「一夏? どうしたの?」


はい、バレたぁぁぁぁぁぁーーーっ!!


「いや、ちょっと......」


そんな俺の視線を追うようにシャルロットは自分のはだけた胸元を見下ろす。

一瞬の静寂。

かぁっと頬を赤らめるシャルロット。

いたたまれない空気に俺は明日から変態という名の汚名を被らされる事を覚悟した。


「一夏の......えっち」


「はぅあ!!」


グサッと来ました。会心の一撃です。えぇ、もう瀕死ですよ、俺。


「えっと......見たいの?」


「はぁ〜終わった、終わったよ、俺の平和な学園生活......って、へ?」


「一夏は僕の、その、胸......見たいの?」


最初、シャルロットが何を言っているのか理解できなかった。


「一夏ならいいよ......僕の全てを、一夏に捧げても......」


「シャル、ロッ、ト......?」


上着のジッパーをゆっくり下していく。

え? え? 何この状況?

しかもブラしてねぇぇぇーーー。見えそうで見えないこのチラリズムに俺の本能が刺激される。

そして、そのまま上着に手を掛け―――


ドンドン。


「「!?」」


「一夏ぁ、いるんでしょ? ご飯まだなんでしょ? 一緒に行くわよ」


ヤバい、鈴だ。このままでは有無を言わさず部屋に突入してくる。今この状況を見られたらシャルロットが女だってバレるだけでなく、間違いなく俺の命もヤバい。確実に殺られる。


「シャルロット、隠れろ!」


「う、うん!」


小声でシャルロットをベッドの中に押し込めたと同時にドアが開く音がした。


「何やってんの、あんた」


「いや、シャルロッ......、じゃなくシャルルが体調が悪いらしくてな、看病してたんだよ」


部屋の中に入ってきたのは鈴、それにセシリアに箒までもいた。うん、確実にあの場面を見られてたら死んでたな、俺。間一髪だ。


「大丈夫なんですの?」


「あぁ、大丈夫大丈夫。熱はないみたいだし、軽い貧血だと思うからさ。暫く横になってれば直ると思うってさ。だから今日の夕食はいらないみたいなんだ」


「う、うん、ごめんね」


セシリアの心配の声に俺が嘘を並べ立てると、布団の中からシャルロットがくぐもった声で謝罪する。


「それなら仕方あるまい。私達も夕食はまだだから一夏だけでも一緒に行くか?」


箒はそう言うと、俺の腕に自分の腕を絡めてくる。逃がさないぞ、というような感じだ。しかし、さっきのシャルロットのおっぱいの事もあって、箒の核弾頭級(ダイナマイト)おっぱいの感触が直に伝わってくるのは色んな意味でいつもより刺激が強い。


「何をやっていますの、箒さん?」


そう言いながら箒とは逆の腕にセシリアは自分の腕を絡ませてくる。今度は美麗(エレガント)おっぱいの感触が―――以下省略。


「あんた等! 何してんのよ!」


今度は鈴が背中から覆いかぶさってくる。鈴は鈴で大きくはないが確かに主張してくるおっぱいの弾力が俺の背中を刺激する。

つまり今の状況―――とてつもなく歩きにくい。


「それではデュノアさん、お大事に」




【シャルロットside】


バタン。ドアの閉まる音が聞こえる。


「ふぅ」


ガバッと布団を押しのけ、体を起こす。ふと視線を降ろすと、ジッパー全開の上着。


はわわわわわわわわ。


僕、もしかして、物凄く、恥ずかしい事をしたんじゃ。―――思い出すのは、ついさっきまでの光景。一夏に、僕の存在を認めてくれた一夏がとても愛おしくて、全てを捧げようと思ってしまった。

今までの人生で僕を愛してくれたのは母だけ。それ以外の人達からは道具としてしか見られた事がなかった。

だから僕の存在を肯定してくれた一夏がとても愛おしく思えた。

この学園に来てから今日まで一夏の事を異性としていいな、と思った事はあった。でも、ここまで強く愛おしいと思ったのは今日が初めてだ。


「一夏、一夏......、一夏......」


今まで性別を偽って騙していたようなものなのに、それでも受け入れてくれる一夏。

嬉しかった―――。

誰かに必要とされる事が。

長らく忘れていた感覚。

今この瞬間、シャルロット・デュノアの全てが織斑一夏という存在に染められた。

そこでハッと気付く。咄嗟に隠れた場所が一夏のベッドであるという事に。

一夏の匂いがするベッドにいる。―――つまり、一夏に抱き締められてるかのような錯覚を覚える。だから少しでも一夏に包まれていたい気分になり、ベッドに潜り込む。


「えへへへへへ......一夏、一夏ぁ。好き。大好き......」


もぞもぞと一夏の匂いのする布団にくるまれながら僕は決心する。

如何なる事があっても一夏が望む限り、傍にいたい。ううん、寧ろ傍にいてやるんだ。

僕の中で織斑一夏という存在が大きくなっていく。僕の全て―――かけがえのない愛おしい人。

一夏へ想いを馳せながら、僕は夢の中へと落ちていく―――。

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