小説『織斑一夏の無限の可能性』
作者:赤鬼()

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Episode3:一夏の実力




【一夏side】


千冬姉が教室に入ってきて、そのまま教壇に立った。


「これより再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決める。クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけでなく、生徒会の会議や委員会などへの出席…まあ、クラス長だな。ちなみにクラス対抗戦は入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点では大した差はないが競争は向上心を生む。一度決まると何か大事が無い限り一年間変更はないからそのつもりで」


めんどくさそうな役職だが、幸いこのクラスには代表候補生がいる。オルコットさんだっけ?


「はいっ!織斑君を推薦しますっ!」


机にダイブした。


「私もそれがいいと思います」


チクショー、他のクラスメートも賛同の意思を示していく。


「では候補者は織斑一夏……他にはいないか?自薦他薦は問わないぞ」


「待って下さいっ!納得がいきませんわ!」


バン!っと机を叩いて立ち上がり甲高い声で異論を出したのは先ほどのオルコットさんだった。いいぞ、もっと言ってやれ。


「そのような選出は認められません!実力から行けばわたくしが代表に選出されるのは必然ですが、物珍しいという理由で運だけの男が選ばれるなど論外ですわ!ここはサーカス団ではございませんのよ!」


よし、ここで俺からも付け足しておこう。


「はい」


挙手。発言を許可された事を千冬姉の目線で感じ取る。クラスメートの注目の視線が背中に刺さる。


「俺が男だからって物珍しい環境で俺を担ぎ上げたくなる気持ちはよく分かる。でも、よく考えてほしい。このクラスにはせっかく代表候補生っていうエリート中のエリートがいるんだ。対して、俺はISを操縦出来ると言ってもまだ稼働時間も1時間も満たない初心者だ。クラス代表者という、いわばクラスの顔とも取れるポジションはクラスでも一番優秀な奴が務めるのが普通だろう? だから俺はセシリア・オルコットが適任だと思います」



「でも、織斑君も入試で教官を倒したんでしょ?」


俺の右隣にいる一人の女生徒、確か名前は......相川さんだっけ?

相川さんが放った一言が、オルコットさんの気に障ったらしい。


「―――決闘ですわ」


あー、俺は平和に第二の学園生活を満喫したかっただけなのに。

見れば、クラスメイトも俺とオルコットさんのやり取りの行く末を気にしてるみたいで俺とオルコットさんに集中している。


「千冬ね......じゃなかった、織斑先生。辞退は......」


「男が売られた喧嘩を買わずに逃げるのか?」


ふふん、と口端を吊り上げ、千冬姉は俺を挑発してくる。

ダメだ。逃げられないらしい。あぁ、めんどくさい。


「分かった、受けるよ」


「ハンデはどれくらい必要かしら?」


「いや、ハンデではいらない」


シーーーン。俺の言葉にクラス中が静まり返る。

その後にクラスメイトが全員笑い出す。


「織斑君、それ本気で言ってるの?」


「相手は代表候補生なんだよ。織斑君ってIS初心者なんだよね? ここはハンデを貰うべきだと思うよ」


確かに相手は代表候補生に選ばれるくらいのエリートなんだろうが、俺も男だ。男として戦う以上はお互い全力を持って戦いたい。手加減されるなんて真っ平ごめんだ。


「代表候補生であるわたくしに対してハンデが必要ないだなんて、日本の男性はジョークセンスがあるのね」


「織斑君、セシリアはイギリス代表候補生なんだよ?今からでも遅くはないよ。ハンデをつけてもらった方がいいよぉ」


俺の後ろの席の子がハンデを付けた方がいい、と助言してきてくれたが、これでも前世では負け無しだったんだ。ここでハンデを付けてもらっては男が廃るというものだ。


「もう一度言うが、ハンデはいらない」


「話はまとまったな。それでは勝負は次の月曜、第三アリーナで行う。織斑とオルコットはそれぞれ準備をしておくように」


俺とオルコットさんの話を千冬姉がまとめる。


「織斑、お前のISだが予備がない。だから学園で専用機を用意するそうだ」


専用機を用意する。

その言葉にクラス中が騒然となる。

そりゃそうだろう。世界に現存するISは全部で467機。その中の一つが俺の専用機になるわけだから。

すかさずオルコットさんが俺の前に颯爽と現れる。


「それを聞いて安心しましたわ。クラス代表を決める決定戦、わたくしと貴方では勝負が見えていますけど、さすがにわたくしが専用機、貴方が訓練機ではフェアではありませんものね」


そして俺をビシッ!! と指さしながら自分が負ける事は有り得ないと自信ありげなオルコットさんは世界にある467機あるISの中でも専用機を持ってるらしい。

まぁ、俺にも専用機というものが用意されるみたいだが。


「本来ならIS専用機は国家、或いは企業に所属する人間にしか与えられない。......が、お前の場合は状況が状況なのでデータ収集をも目的として専用機が用意される」


千冬姉の説明で専用機が用意される事をクラスメイトの子達が羨ましがってる。


「あの、織斑先生? 篠ノ之さんって篠ノ之束博士の関係者なんでしょうか?」


「そうだ。篠ノ之はあいつの妹だ」


その返答にクラス中が騒然となる。

それもそうだろう、世界の常識を変えたISを開発した人だ。

そんな有名人の関係者が同じクラスにいるんだ。騒ぐのは当然だな。

しかし、束さんか......子供の頃は家も近かった事もあってよく会ってたな。

箒とは違って、破天荒な人でよく実験台にされてたっけ......ははは、あまり思い出がないや。涙で視界が霞む......

箒の家族が引っ越してから会う機会はなくなったが、ちょこちょこ束さんから連絡はあった。

普通に、元気してるー? とかの何気ない日常会話だけだったが。


「―――あの人は関係ないっ!!」


箒の一喝で騒いでたクラスメイト達は静まり返る。

箒と束さん、昔からそんなに仲は悪くはなかった筈なんだけど......離れてた6年の間で何かあったんだろうか?



そして昼食休憩、三人の女生徒が俺に話しかけてきた。


「ねぇねぇ、おりむー。ご飯、まだでしょ?学食に一緒に行こう〜よ」


「へっ? おりむー?」


「うん! 織斑君よりあだ名あった方が仲良くなれるでしょ?」


話しかけてきたのは制服を改造して袖をダボダボにしてる癒しオーラ全開の布仏本音、通称のほほんさん。そののほほんさんと仲のいい女生徒二人。

いい! 何がいいって前の高校生活じゃ考えられなかった女生徒とのご飯っ!!


「あぁ、構わないよ。そうだ、一人誘ってもいいかな?」


さっきの一件で箒はクラスで浮きかけてる。昔からそうなんだが、真面目で堅い性格が災いして、俺以外とはあまり仲良くしなかった。束さんも箒に俺や千冬姉以外とは仲良くしてなかったみたいだが、篠ノ之姉妹は人付き合いが下手だ。

せっかく6年振りに会えたんだ。お節介くらい焼いても構わないよな。


「箒。一緒に学食行かないか?」


「―――私はいい」


ジト目で睨まれた後、そっぽむく箒。何故か箒は昨晩から機嫌が悪い。

まだお風呂上がりの事を怒っているんだろうか? でも、あの後、一悶着はあったけど、許してくれたよな? だったら何で怒ってるんだ?

ただ、さっきの件もある。このままじゃ本当にクラスから孤立しちまうな。無理矢理にでも連れて行こう。

そう思って箒の手を取ったら箒は手を振り払おうとしたみたいだが......させなかった。


「―――っ! ......私はいいと言っただろうっ」


「いいじゃないか。せっかく同じクラスになれたんだ。仲良くしようぜ? な?」


漸く観念したのか、顔を赤面させながらも渋々といった感じだが、学食に行く事を同意してくれた。全く世話が焼ける幼馴染だな。



【箒side】


「いいじゃないか。せっかく同じクラスになれたんだ。仲良くしようぜ? な?」

一夏に笑顔を向けられ、優しく諭された事もあって、つい学食に行く事を了承してしまった。

頬が熱くなるのを感じる。

なのに、一夏は平然と何事もなかったかのように学食に誘いに来た三人と私を連れ、学食に向かう。

一夏は私の事をどう想ってるんだろう?

こうして世話を焼いてくれるのは、幼馴染だから?

分からない。

ただ、はっきりとした感情がある。一夏が他の女生徒と仲良くしてるのを見るのは苛々してしまう。

さっきのあの人の事もあるが、一夏が私以外の誰かと仲良くしてるのを見ると、つい冷たく当たってしまう。

これではいけないって分かってるのに、どうしようもなく変える事が出来ない私の性格。

はぁ〜、素直になりたい。素直に一夏にこの想い全てをぶつけたい。

でも、拒絶されるかもしれない。もし、一夏に拒絶されたら、私はきっと立ち直れない。

学食に着いて、三人の女生徒は一夏に興味あるのか色々と質問をしてる。

そして話題は先程のクラス代表決定戦の事になった。


「織斑君、クラス代表決定戦は大丈夫なの?」


「うーーーん、まぁなるようにしかならないかなぁ」


「ISに乗ったのって〜、入試の時だけなんだよね〜?」


「そうだよ」


「相手はイギリスの代表候補生なんだよ。今からでもハンデは付けてもらった方が―――」


一夏とクラスメイトが話している最中に上級生と思われる女生徒が一夏に話しかけてきた。


「ねぇ、君って噂の子でしょ?」


「多分、そうだと思いますけど?」


「代表候補生の子と勝負するって聞いたけど、君、素人だよね?よかったら私が教えてあげようか?ISについて」


「結構です。私が教える事になっていますので」


気が付いたら私は口を挟んでいた。

一夏を誰にも取られたくなかった。そう、これは嫉妬だ。でも、この気持ちを止める事は出来ない。

尚も上級生は食い下がろうとしてきたが、私があの人の妹だ、と話したら、引き下がってくれた。

あれだけ憎いと思ってたあの人の名前に助けられるのは癪だったが、それよりも一夏をこれ以上、誰かに取られるような真似は見過ごせなかった。


「箒が教えてくれるのか?」


思わぬ誤算だったが、これで放課後は二人っきりだっ!!



放課後、剣道着に防具を付け、一夏と対峙していた。

昔、一夏は強かった。でも、実力はそう離れていなかった。

それに中学では全国優勝もした。自信もあったのだが、その差は縮まるどころか圧倒的に開いていたのだ。

せっかくの二人きりだと思っていたら、昼間の三人以外にも多くの女生徒が見学をしに来ていた。

それに関して残念に思う気持ちがあったのが、気持ちを切り替え、対峙して分かったのだが、一夏は強い。竹刀を構えた姿勢に隙がなかったのだ。何度、打ち込んでもいなされ、返す刀で一本を取られる。


「ほわぁーー、おりむー、つよ〜い」


「―――す、凄い.....」


「織斑君って、こんなに強かったの?」


周りの見学者も一夏の強さに驚いてる。


「一夏、それだけ強いなら全国優勝してもおかしくないのに、これまでの試合で一夏の名前を耳にした事はなかった。中学では何部に所属していた?」


「え? 帰宅部だけど。三年間」


「剣道部には?」


「入部してない」


あれだけ一生懸命に取り組んでいた剣道、一夏も絶対に続けてると信じて疑わなかった。剣の修業自体は怠っていなかったみたいだが......。

剣道とは違う異質な剣筋。

剣道とも千冬さんにもない剣筋。

一体、何なのだ?



【一夏side】


俺の今の剣の腕は前世の記憶によるものだ。

剣道とは違う。前世、つまり俺が織斑一夏じゃなかった時に祖父から習った人殺しの術”御剣一刀流”の技だ。箒が驚くのも無理はない。

俺は前世の記憶を記憶だけじゃなく、経験まで継承してるみたいだ。

でも、さすがは全国大会優勝者でもある。

この記憶の継承がなければ、きっと負けてた。

なにしろ、中学の三年間は千冬姉の世話になりっ放しになるのに気が引けて、剣道部には入部せず、アルバイト三昧だったのだ。

その間、剣道の鍛錬は一切やっていなかったから腕が鈍るのは当たり前。

本来、ここで膝を付いていたのは俺だったかもしれない。


「しかし、流石に全国大会優勝者だよな」


「―――心にもない事を言うなっ」


箒の表情は暗い。

差は縮まってるどころか広がっていた......この事実が箒の表情を暗くさせていた。

箒は昔から思い詰めたら、そのままひきずっちゃう性格だし、要領もよくない。不器用なのだ。

だから、このままにしてはおけない。


「ほら、立てよ。俺の訓練、付き合ってくれるんだろ?」


箒は俺の手を取り、渋々立ち上がるが、未だに表情は暗い。


「剣の腕は今見た通りだけど、ISに関しちゃ素人なんだ。だから、な......俺にISの事いろいろ教えてくれよ」


せっかく再開した幼馴染との絆も深めていきたいしな。

そんな風にかっこよく決めていた俺もいました......

俺の手を取り立ち上がった箒の道着が着崩れていたのだ......!

そう、つまり箒の、あの暴力的なたゆんたゆんな胸の谷間が見えてしまった......ヤバい、視線が外せない。

っていうか、目の前の幼馴染は本当に十五歳なのか?

体つきは本当十五歳とは思えない、ナイスプロポーションなのだ!!

ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅ〜〜〜、キツい。



【箒side】


一夏は強い。

純粋に悔しかった......追い付けたと思った背中はまだ遥かに遠かったのだから。

でも、悔しいと思う反面、一夏という目標が出来た事に嬉しさを覚えたのも事実だった。


「ほら、立てよ。俺の訓練、付き合ってくれるんだろ?」


一夏の手を取り、立ち上がる。


「剣の腕は今見た通りだけど、ISに関しちゃ素人なんだ。だから、な......俺にISの事いろいろ教えてくれよ」


そうだ、一夏はISに関しては素人なのだ。

今の時代、ISは女性しか扱えないという観点から女性は早いうちからISに触れる機会がある。

IS適性があるかどうか調べたりするために早い段階でカリキュラムが組まれたりもするのだが、男にはそれがない。

だから私が知っているISの知識も一夏は知らない。


「あぁ、分かった。これから放課後三時間、ISに関していろいろ教えてやる。その代わり、剣の修業に......付き合ってもらっても......構わないだろうか......?」


想い人でもあり、目標にもなった存在、一夏に剣の鍛錬にも付き合ってほしいと告げてみる。

断られたらって思うと怖くて一夏の顔が見れなかったが、一夏は私の提案を受け入れてくれた。

その言葉で俯き加減であった私は顔を上げる。

すると妙に顔を赤くしてる一夏の顔があった。

視線は下を見てる。何だ?何を見ているんだ?とその視線を追っていくと、私のはだけた胸元が視界に入る。


ぷちっ!

ぷるぷるぷるぷる肩が震える。

一夏は確かにかっこよくなった。でもっ!!スケベに成り下がっていたっ!!

気が付けば、竹刀を一夏に振るっていた。


「ひゃぁぁぁぁ、ごめんなさぁーーーーいっ」


「まてぇぇぇ!! お前のその腐った根性、私が叩き直してやるっ!!」


周りで見てた女生徒達も笑い声を上げながらも私達を見ていたが、今はそんな事よりもスケベな一夏を修正する事で頭がいっぱいだった。



そして鍛錬を終え、解散となって私達はそれぞれ着替えて部屋に戻る事にした。

ロッカールーム、道着を脱いだ私は自分の胸を見る。

私の胸は家系なのか、母も姉もデカい。私も中学一年の頃から大きくなって、今ではかなりの大きさになっている。しかも未だに成長中だ。

同年代に比べてもかなりあり、私にとってはただのコンプレックスでしかなかったのだが、一夏は大きいおっぱいの子が好きなのだろうか?

やっぱり男は胸なのか? 一夏も大きいのが好きなのだろうか?

しかも、あの食い入るような視線......私も女として見てくれているのだろうか?


―――そうだったら、嬉しいな―――


はっ!!

いかんいかん。私は一体、何を考えてるんだ!!

でも、一夏は大きいのが好き......大きいのが好き......こんな性格の私でも女として見てもらえる。恥ずかしい気持ちもあるのだが、何故か嬉しく思えてしまうのが不思議だ。

初めて胸が大きくて、よかった。

うわぁぁぁぁ〜〜〜〜、私は何を考えてるんだっ。

でも、明日から放課後は二人っきりで特訓だ。

ISの事を私が教え、剣の鍛錬にも付き合ってもらえる。

二人きり......二人きり......二人きり......

ぬぁぁぁぁ〜〜〜〜、さっきから私はどうしたのだ?!

顔が自然と緩んでしまうっ!!

くぅぅぅぅ〜〜〜〜、気を引き締めねば!!

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