小説『魔法少女リリカルなのは〜心の剣と小さな奇跡〜』
作者:ディアズ・R()

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第十五話・侵入×計画





夜空達がアースラから帰った後。
水無月家たるル・クールに、クロノが来ていた。

「一般人の安全の為とはいえ、こんな泥棒紛いのことをしなくてはいけないとは……」

仕事事情で、夜空の持っているジュエルシードを盗みもとい回収しに来たのだ。

「母さん、監視カメラに映ってた夜空の映像を集めて部屋で何かしてるし……殴られた所がまだ痛いし……今日は最悪だな……はぁ」

裏口に回り、鍵穴を見る。
結界を張って無理矢理押し入れれば楽だが、夜空はもちろんあの猫の使い魔は正攻法ではきっと勝てない。
正攻法以外でいっても勝てない気もするが。
何とか気付かれない様に侵入して、ジュエルシードだけを盗って来れれば完璧だ。

「鍵は……コレなら」

カチャカチャ……ガチャ。

「よし……お邪魔しま〜す」

忍び足で物音を立てない様に、礼儀正しく家内に入るクロノ。
一階は食事とパン屋用で、二階が寝室などだと予想する。
夜空ならジュエルシードを自分の寝室のどこかに隠していると予想して、階段へ向かう。
だが、進むにつれて冷や汗が出始める。
階段へ行くには、パン屋のキッチンを通らなければならない。
ならないのだが……

「……なんだ、この感じ……僕が、怯えている?」

これ以上先に進むな、と本能が告げる。
それでも、行かなくてはいけない。
一歩ずつ前へ進む。
進む毎に嫌な予感が強くなる。
そして、パンを焼く窯を過ぎると、嫌な予感が薄れていった。

「はぁ、はぁ、はぁ……なん、だったんだ?」

荒くなった呼吸を整え、一度振り向くとジュエルシードが目に入った。
ただし、神棚という所に。
クロノの身長では、窯を踏み台にしてやっと届く所だ。
その考えを思い浮かんだ瞬間、背筋に冷たいものが走る。
振り向くが、誰もいない。
窯を見て、もう一度後ろを見る。

「……やるしか、ないのか」

意を決して窯へ近づく。
汗が止まらない。
呼吸が荒い。
普通の家庭から、ジュエルシードを盗って来るだけの筈なのに、なんでこんなに怖いんだ。
自分に「大丈夫だ」「行ける」「死にはしない」などと言いながら窯の前に立つ。
息を呑み、窯へ足をかけた。

「知っているか」
「ッ!?」

窯に足が乗った瞬間、背後から声が聞こえる。
静かに、迷い無い、殺意と一緒に。

「キッチンは、料理をする者にとって、戦場だ」

まるで言い聞かせるように、ゆっくりと紡がれる言葉。
クロノは振り向くことさえできない。
体が殺気に当てられ、一切動かないのだ。

「そして、パン屋にとっての窯とは……」

背後で音が聞こえる。
木と木をぶつけ合った時の独特の音。
呼吸するのすら忘れ、背後の存在に意識を向ける。

「新たな命を作る、光だ」

肩に、パン用のめん棒を乗せられる。
その瞬間、殺気が膨れ上がる。

「君は、光を潰そうとする闇だ。だから、消さないとね」

そして―――


◇◇◇◇◇


時空管理局通信主任兼執務官補佐で、アースラの管制官たるエイミィ・リミエッタは困惑していた。
目の前のクロノを見て。

「えっと、クロノ君?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいもうしませんもうしませんもうしませんもうしませんもうしませんゆるしてゆるしてゆるしてゆるしてゆるして……」
「……」

地球で言う、朝の5時頃に帰ってきたクロノ。
通路の隅で蹲りながら、ブツブツ謝り続けている。
何とかしたいが、何が原因か分からないからどうしようもない。
エイミィがどうしようか悩んでいると、唐突に立ち上がったクロノ。

「あ、クロノく―――」
「うわぁぁあぁぁあぁぁあぁぁあぁぁぁ!!!!!」

エイミィの言葉を最後まで聞かずに、叫びながらどこかに走り出したクロノ。
クロノの叫び声を聞いて、部屋から出てきたリンディ。

「クロノ、どうかしたのかしら?」
「……きっと、怖い事でもあったんじゃないですか?」
「そう。まあ、いいわ。彼、早く来てくれないかしら……」

誰に来て欲しいんだろうか?
そう考えずにはいられないエイミィだった。


◇◇◇◇◇


学校でいつもの五人プラス二人で、はやての誕生日の事について話し合っていた。

「むぅ」
「どうしたんや?」
「いや、初っ端を取られた気がした」
「アンタ、もうダメじゃない」
「アリサちゃん、もっとオブラートに包まなきゃ」
「それを言った時点でアウトなの」
「誕生日の予定について話し合うんじゃないの?」
「えとえと、プレゼント用意した方がいいですよね?」

平和だ。
とにかく平和だ。
と言う訳で、はやての誕生日ははやての家ですることになった。
全員、その日は空けられるようにスケジュール調整だ。
ちなみに、夜空にスケジュールは無い。
常に自由行動だ。
暇なわけではない。
そんな訳で、放課後。

「めっちゃ端折られたわ〜」
「日常なんてそんなもんだろ」
「この二人は、何の話をしてるの?」
「さぁ?大人の事情?」
「夜空君の家によるの〜」
「「「賛成」」」

放課後は帰るか、なのはの家でケーキを食べるか、夜空の家でパンを食べるか、が普通になってしまった小学生達。
少しは遊べ!と言う者はいない。
夜空がはやてを車椅子ごと持ち上げつつなのはを背負い、その横をアリサとすずかが歩いく。
ホタルと姫は、家の用事ですぐに帰って行った。
赤髪はトボトボ何かを考えながら帰って、青髪はニヤニヤしながら教室に残っていた。
赤髪が何に悩んでいるか知らんが、応援しようと思う。
俺がはやての車椅子を持ち上げているのは、学校から家までのルートでは名物化していたりする。
はやてがせんべいを渡されたり、はやてがみかんを渡されたり、はやてが旅行のお土産っぽい羊羹を貰ったり……人気者だな!

「恥ずかしいだけや!」
「だがそこがいい!」
「どんな変態やねん!」

何が気に入らないんだろうか?
タダでいろいろ貰えるんだから、貰っておけばいいものを。
そんな風に騒ぎながら我が家に到着。
四人には何時も通りパンを選ばせ、自分は着替えに行く。
なのは達の所へ行く前に、パンダを持っていく。
動物ではない。

「コレ何に見える?」

そう言って、パンダを見せてみた。
すぐに答えが返ってくる。

「パンなの」
「パンや」
「パンね」
「パンだね」

そう、誰が見てもパンだとしか言えない、見事なパン。
だから、パンダ。
見た目も、パンとしか言えない。
なんとも不思議なパンだったりする。
目の前で手製唐辛子ジャムを塗っても、パンとしか認識されない。
なので、はやてに食わせた。

「djはんf?jbら!?ういぇbふぁえ?んl!fんsぁふいあ!?」
「あ、はやてちゃんが壊れたの」
「ただのパンなのに?」
「わ〜唇真っ赤」

出来は、まあまあと言った所か。
つけるジャムは、普通の物でないと負傷者が出そうだな。
まあ、今回ははやてだからいいか。
翠屋に着いたので、適当な席に座りなのはが着替えてくるのを待つ。
目を見開きながら気絶したはやてに膝枕してやる。
アリサはジト目で、すずかは羨ましそうに俺とはやてを見てくる。
別に、可笑しなことはしてないよな?

「お待、たせ……はやて、ちゃん?」
「ッ!?なんや!?何が起きたにゃ!?」
「はやてちゃん……ちょっと、O☆HA☆NA☆SIしよっか?」
「え?」

ハイライトの消えた目ではやてを見ながら、はやてをキッチンの方に引き摺っていくなのは。
はやては、思考が追いつかず呆然としている間に連れてかれた。
アイツ等、仲良いよな。

「……まあ、そう見えるなら、良いんじゃない?」
「桃子さ〜ん!注文いいですか?」
「はいは〜い。ちょっと待ってね?」

俺は甘い方が好きだから、チョコレートケーキでも頼むかな。
あの二人、遅いな。

「抜け駆けなの!!」
「理不尽過ぎや!?ぎゃぁあぁぁあぁぁあぁ!!!」

なのはの叫びと、はやての悲鳴が聞こえた。
アリサやすずかは、無視を決め込んでいる。
……何をしてるか、気になるな。


◇◇◇◇◇


アリサとすずかは家の用事で帰り、はやては診察をしに行った。
つまり俺は、桃子さんにケーキ作りを教わっている。
パン作りとは違った楽しさがある。

「うむ、こんなもんですか?」
「えぇ、完璧ね。明日から家でバイトしない?」

バイトか……金には困ってない。
まあ、最近株で失敗して手元に数万しかないが。
パン作りは朝だけでいいから、学校帰りの数時間か?

「長くは出来ませんよ。それでいいなら」
「もちろん♪土日は、お昼頃に来てくれれば嬉しいかもしれないわ♪」

美人が嬉しそうな笑顔をすると、照れるな。
それを表に出すことは無いが。

「これでなのはも……ふふ♪」

なのはがどうしたんだろうか?
そういえば、なのははジュエルシードの事どうするんだろうか?
フェイトとの事もあるから、絶対関わると思うけどな。
そろそろ帰るか。

「そろそろ帰ります。なのはが起きたら、味の感想聞いといてください」
「分かったわ〜またね〜」

なのはがいない理由は、ケーキを「あ〜ん」してやったら顔を真っ赤にして倒れた。
その際、士郎さんと恭也さんが襲い掛かってきたが、桃子さんに連れて行かれた。
戦闘力が一番低い筈の桃子さんが、この家では最強だと理解できた瞬間だった。
俺の家では、朧さんが最強だ。
あの動きから、昔殺し屋をやっていた筈だ。
どうでもいいな。

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