「悔いなき人生を」 XIV 最終話
俺と妻は揃って孝之の結婚式に臨んだ。披露宴の同じテーブルに座った娘が微笑んでいた。
そして香織の隣に腹違いの次男、大輔が居る。妻も暖かく迎えてくれた。孝之も香織も弟が出来た事を喜び
全てのわだかまりが消えた。大輔は野球の才能があるらしく、なんでも大学はスポーツ推薦で奨学金が出る
そうだ。我が子ながら三人共たいしたものだ。近い将来、大輔はプロ野球選手になれるかも知れない。
夢のような話だが、野球の素質があるからスポーツ推薦で入れたのだ。
もしかしたら将来、東京ドームに家族で大輔の活躍を応援する事になるかも知れない。
香織は兄の結婚はもちろん嬉しいだろうが、俺達が再び一緒に暮らし始めたことを誰もよりも喜んでいる。
弟が出来て余程嬉しかったのだろう、最近は大輔に対して姉貴風を吹かせている。
俺達は娘に感謝しなくてはならない。そのお礼は娘が結婚する時は盛大にやってあげようと思う。
家を売ってしまったから、あのスカイツリーが見えるボロアパートで暫らく暮らすことにした。
妻には悪いと思ったが、それが大違いだった。狭いから貴方がいつも側に居て話し合えるし、そして憧れの
東京スカイツリーが毎日見渡せる。これ以上の幸せが何処にあるのと云う。
俺は妻に提案を出した。君の故郷である八戸で暮らさないかと。それなら君のお母さんの面倒も見れるし、俺
だって幸造さんと云う友達と会える事が嬉しいと。
「本当? 貴方は東京生まれの江戸っ子よ。都会を捨てて田舎で暮らせるの?」
「別に捨てるとか大袈裟なものじゃないさ。娘の香織も居るし時々東京に帰り娘の処に転がり込むさ」
「それも良いわね。でも香織が嫌がるんじゃないかしら」
「その時は孝之の処へ行くさ」
「駄目よ。新婚さんの邪魔をするつもり?」
数ヵ月後、俺達は幸造の紹介で中古の家を買った。俺達が八戸で暮らすといったら飛び上がって喜んだそうだ。
その前に妻と二人で北海道への旅に出た。二人揃っての旅は新婚旅行以来である。
俺は旅先で幸造夫婦へのお土産を買った。すると妻が口を出して来た。
「貴方そんなに帆立貝を買ってどうするの」
「決まってんだろう。君の実家と幸造さんとこへの土産だよ」
「ばかねぇ、八戸は帆立でも有名な所なのよ」
妻は腹を抱えて笑った。妻があんなに笑う女だとは知らなかった。
これは楽しい旅になりそうだ。俺はレンタカーの運転席に座り「次の目的地は」と妻に聞いた。
完