小説『魔法少女リリカルなのは 悪魔も泣き出す転生者』
作者:トンボ()

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7、始まりの夢と朝

「おかえりなさい」

家に帰ってきた俺とガイアにイリスがそう声をかけてきた。

「ただいま」

「ただいまイリス。ミネルバは居ないのか?」

イリスはテレビを見ていたが、ミネルバの姿が見えないのでそう尋ねた。
ミネルバなら大抵のことには対応できると思っているが、それでもやはり少しは心配だ。

「ミネルバならあの子の家に行ってるよ」

「ああ、そういえば今日はミネルバが行くって言っていたな」

そうだ、今日はミネルバが彼女の家に行く日だった。朝、そう言っていたのにすっかり忘れていた。

「お兄ちゃんも優しいよね〜」

「なんでだ?」

「ミネルバに原作のことを教えてもらった時にあの子のことも考えていたからね」

「確かにそうだが、俺の頼みを引き受けてくれたのはみんなだ。俺は大したことはしていない」

「そうかもしれないけど……」

「ねぇ、克也はあの子に会おうと思わないの?」

今まで黙って俺たちの話を聞いていたガイアがそう尋ねた。

「思わないな」

「どうして?あの子に克也のことを話したら会いたがっていたわよ」

俺のことは話さないでくれと言ったのにな……と思い、苦笑いを浮かべながら言った。

「何度も言ったが、俺がこの世界でやるべきことは悪魔を退治することと悪魔がこの世界に来るためのゲートを閉じることだ。こんなことをやってるんだから当然、悪魔の恨みを買う。だからあの子には会えない。この世界にはゲートが確認できないとはいえ巻き込んでしまうかもしれないからな」

「じゃあ、お兄ちゃんはなんで学校に行こうと思ったの?私たちが行くように言った時にそう言って断ればよかったのに」

「奴らもさすがに街中で人間を襲撃なんて目立つことはしないだろう。それに魔力もない一般人を襲うよりも魔力を持った人間を襲う可能性のほうが高いと思ってな」

この町のどこで悪魔が現れようと間に合う自信はあるが、やはり巻き込んでしまう人間をわざわざ作る必要はないだろう。

「なるほどね〜私たちであなたが学校に行っても問題がないようにするつもりだったけど、いろいろ考えていたんだ」

「でもお兄ちゃんも、もっといろんな人と仲良くした方がいいんじゃない?」

「……そうかもな」

結局この後、今日は泊まるというミネルバからの電話を受けたのちに食事を取り、俺たちは眠りにつくことにした。





「……朝か」

翠屋でのやり取りから数日がたった朝、俺は眼を覚ましてそう呟いた。
いつもなら朝食を食べた後に学校に行くのだが、今朝はベットから上半身だけを起こした状態で俺が見た夢について考えていた。

(俺が見たフェレットが助けを求めてくる夢はミネルバが前に言っていた夢に似ていた。ということは今日が原作の始まりか……)

今日が『原作』の始まりだと悟り、俺はとりあえず朝食の席に向かうことにした。

「おはよう」

「おはよう、克也」

「おはよう、お兄ちゃん」

挨拶をした後に席についた俺はさっそくこう切り出した。

「今日が原作の始まりか?」

「うん。おそらくお兄ちゃんの言う通りだと思うよ」

「フェレットからの助けを求める声に加えて時期的に見ても間違いないわ。それにさっきミネルバから連絡があったし、その時に聞いたからまず間違いないわ」

「そうか」

ミネルバが連絡をくれたのなら間違いないなと思い、朝食を続けた。

「……やっぱりなのはちゃんの手伝いはしないの?」

「ああ。いつまでも俺に頼るようになっては困るし、俺が関わることによってよりひどいことになるかもしれないからな」

ガイアにそう答えて朝食を終えた俺は学校に向かった。





「おはよう、克也くん」

「おはよう、黒崎くん」

「おはよう、克也」

「おはようさん、高町、月村、バーニング」

スクールバスに乗り込んだ俺にいつも通りに高町たちが挨拶をしてきたので、俺もまたいつも通りに返す。

「ちょっとアンタ!!アタシの名前はバーニングじゃないって何度言えばわかるのよ!!」

そして、またいつも通りバニングスが怒鳴り、高町と月村はその様子を見て苦笑いをしている。

「わかってるさ。お前の名前がアリサ・バニングスだってことぐらい」

「だったら何で毎回アタシのことをバーニングていうのよ!!」

「バニングスの反応が毎回違っていて面白いから」

「ア・ン・タね〜!!」 

しかし、バニングスは本当に面白い。
反応が毎回違うからかいがいがある。
こんないつも通りのやり取りをしながらスクールバスは学校に向かっていった。





「ねぇ克也くん」

「なんだ?」

昼休みになりさっきまでバニングスとじゃれあっていた高町が話しかけてきた。
何故俺が高町たちと一緒に学校の屋上で昼食をとっているのかというと、転校初日に高町に誘われたからだ。
当然最初は断ったのだが、高町が離れずこのままでは昼休みが終わると判断した俺が折れることになり月村とバニングスを交えて四人で昼食をとることになった。
ちなみにこれが一つのキッカケになり三人とはそれなりに仲良くなったのだが、おかげで男子からは敵意や嫉妬が混ざった視線を受けるようになりクラスの男子と打ち解けるまでにかなり苦労したということを三人は知らない。

「克也くんはどう?将来のこと決まってるの?」

何の用かと思ったが、今日授業で言われた将来のことについての質問のようだ。さっきバニングスと月村はかなり決まっているということを言っていたから俺にも聞いてみたくなったのだろう。
それにしてもこいつらはまだ9歳なのにずいぶんと考えているんだな、俺が前世で9歳だったときなんか何も考えていなかったぞ。

「……大体決まっているかもな。もっともそれは将来やりたいことじゃなくて、やらなくちゃいけないことなんだがな」

「え?」

「どういうこと黒崎くん?」

「アンタいったいどうしたのよ?」

後半の呟きは聞こえない大きさで呟いたつもりだったんだが聞こえてしまったらしい。

「なんてな。本当は家族と普通に過ごしたいってくらいしか考えてねぇよ」

「な、なんだ」

「黒崎くんがあんなことを言うからビックリしちゃった」

「変な心配かけるんじゃないの」

「へぇ〜バニングスが俺の心配をしてくれるなんて明日は雪が降るな」

「なんですって〜!!」

「あれ?聞こえたのか?」

「聞こえたわよ!!」

バニングスが騒ぎだし、またいつも通りの俺たちのじゃれあいが始まる。
よかった。空気を変えることが出来て。
俺の戦いはこいつらが知る必要のないことなのだから。


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更新が遅れてしまい申し訳ありませんでした。
やっと原作が始まりましたが長くなりすぎたので今回はここで切りました。
なので次回はもう少し早く更新できると思います。







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