小説『魔法先生ネギま! 【R−18】』
作者:上平 英(小説家になろう)

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【 第8話 桜通りの吸血鬼 】






 期末試験で最下位から2−Aを脱出させるという課題をクリアしたネギは正式に教師と採用される事になり、現在、中学3年生始めのHRを行っていた。

「えと……、改めまして3年A組担任になりましたネギ・スプリングフィールドです。これから来年の3月までの一年間よろしくお願いします」

「「「「はーい! よろしくーー!」」」」

 教壇で挨拶をするネギにあわせてショタコンお嬢様の雪広あやかを始めとする頭のネジが緩いメンバーが元気よく返事をする。

『はぁ……、ほんまにネギ君教師になってしもうたなぁ』

 がやがやと湧くクラスを遠めに眺めながら木乃香はため息まじりの念話でクラウスに呟いた。

『まあ、仕方ないさ。ここでは「普通」が「普通」と通用しない場所にしているんだし、労働基準法とかもういまさらだろ?』

 クラウスが影の中で呟いた。

『でも、なぁ……』

 木乃香は怪しまれないようにいつもの笑顔を崩さないまま隣に座っている明日菜に視線を向けた。

 クラウスが木乃香の思いを察して呟く。

『そうだな。アスナちゃんがこれ以上魔法に関わるのは心配だよな』

『うん……、アスナの|魔法完全無効化(マジックキャンセル)能力は魔法世界にバレると物凄くマズいんやろ……?』

『ああ、魔法完全無効化能力は魔法世界ではレア中のレア能力で、魔法世界で兵器として使用していた記録もあるからな。アスナちゃんの能力が魔法世界に広まれば狙う者も出てくるだろう』

『どないしたらええんやろ……、ネギ君と一緒にいれば確実にアスナが巻き込まれそうやし……』

「どうしたのこのか?」

 木乃香に視線に気づいた明日菜が声をかける。

「なんでもないよ」

 木乃香は笑顔のまま応えて視線を教壇に立つネギへ向けて、気づいた。

『ん? ネギ君に誰かが殺気を向けてる? えーと……、うしろ……、エヴァンジェリンさん?』

『ああ。確かにエヴァンジェリンだ』

 木乃香の呟きにクラウスが肯定する。

『またなんか厄介事なんかなー?』












「あれー? 今日まきちゃんは?」

 中学3年生始めての授業で身体測定をしながら佐々木まき絵が不在であることに気づいたハルナが呟いた。

「……さあ?」

「まき絵は今日身体測定アルからズル休みしたと違うか?」

「まき絵、胸ぺったんこだからねー」

「お姉ちゃん言ってて悲しくないですか? ブラもしてないのですのに……」

 ハルナの呟きにのどかが首を傾げ、中国人少女で褐色肌の古 菲(クー・フェイ)が呟き、さらに幼児体系で双子の姉、鳴滝 風香(なるたき ふうか)が呟き、その姉に妹の鳴滝 史伽(なるたき ふみか)がツッコミを入れる。

「まあ、それよりも……」

 ハルナは呟きながら服を脱いで身体測定の順番を待っていた木乃香の後ろに回り胸を鷲づかみにした。

「んんっ! ハ、ハルナ!? 」

「このか〜、これはどういう事?」

「どういう事って?」

「あんた胸大きくなってるじゃん! Aカップだったのに今はBカップはあるんじゃないの!?」

 ハルナの呟きに貧乳組みで親友ののどかと夕映が恨めしそうな視線を木乃香に送り、木乃香は顔を真っ赤にして恥ずかしがりながらハルナから距離をとった。

「もっ、もうハルナっ!」

「ゴメンゴメン」

 木乃香は頬を膨らませてハルナを睨み、ハルナはさすがに悪い事をしたと反省して謝った。

「ねえねえそう言えばさ、最近寮で流行っている……、あの噂どう思う?」

 話題はチア部の|柿崎 美砂(かきざき みさ)の言葉で次へと移る。

「しばらく前からある噂なんだけどね。満月の夜に出るんだって寮の桜並木に……、真っ黒なボロ布につつまれた……、血まみれの吸血鬼が……」

 柿崎が持ち込んだ桜通りに現れる吸血鬼の話でクラスが盛り上がっている時、木乃香は窓側で笑みを浮かべながら自分の影をジト目で見下ろしていた。

『クラウス君? ウチだけじゃ我慢できへんかったん?』

『えっ!? ちょっ? なんで俺が疑われてるの!?』

『ヴァンパイアって言ったらクラウス君やん?』

『いやいやいや! 前にも説明したけどこの地球の吸血鬼と俺の種族名であるバンパイアとヴァンパイアは別物だからな!? そりゃあ大昔の名残で牙は生えているけど、吸血衝動もないし、太陽光以外の弱点もないから! 桜通りに現れる吸血鬼とは関係ないから!?』

『そうなん?』

『あたりまえだ! そんな人を襲って血を飲むわけないだろ』

『ふふっ、始めからわかっとるよ。クラウス君がそんなことする分けないって』

 木乃香は笑い声を漏らして影をつついた。

『からかったなこのか……』

 クラウスが呟く。

『気づかん方が悪いやろー? 夜も昼も関係なしにずーっと一緒におるんやから』

『ぐぬぬ……』

『ふふふっ』

 それはそうだとクラウスは唸り、木乃香はイタズラの成功した子共のような笑みを浮かべた。











『まき絵ちゃん、生気が吸われ取ったみたいやね』

 木乃香は帰り道を明日菜達と帰りながら【念話】でクラウスに向かって呟いた。

『ああ、それに魔法の残り香もあった』

『うん……』

 木乃香とクラウスが相談していると、帰り道でのどかだけが先に一人別れて帰る事になった。

「じゃあ先帰っててねのどかー」

「はいー」

 ハルナが手を振り、のどかが別れた。

「……。本屋ちゃん一人で大丈夫かな?」

「…………」

 明日菜の呟きに木乃香は無言でのどかの背を見た。

『クラウス君、のどかの護衛してくれへん?』

『ん? ああ、分かった。とりあえずのどかの影に分体を入れとくよ』

 それから数分後、のどかの影に潜ませた分体が反応した。

『このか!』

『のどかになんかあったんやね!』

「ちょっ!? このか!? どこいくのよ!」

 のどかの元へと駆け出した木乃香に明日菜は驚いた。

『クラウス君、桜通りでええんやろ!?』

『ああ、このまま真っ直ぐだ!』

「ちょっ、このかー!?」

 後から明日菜が追いつき隣に並び木乃香に声をかける。

「いったいどうしたのよこのか!?」

 木乃香が呼びかけに応えようとした瞬間――、前方で爆発音が響いた。

「さっきの音は!? って本屋ちゃん!?」

 明日菜が爆発音がした場所に視線を向け、のどかを発見する。

「のどか!」

 制服と下着が消し飛びほとんど全裸でネギにかかえられているのどかに木乃香が近寄り怪我がないか調べる。

『大丈夫だこのか。外傷は一切ない、ただよう冷気といい、おそらく西洋魔法の|氷結・武装解除(フリーゲランス・エクサルマティオー)で服を脱がされたんだろう』

 クラウスの言葉を聞いて木乃香はほっと胸を撫で下ろした。

「ア、アスナさん、このかさん!」

 そんな時にネギが二人に声をかけた。

「宮崎さんを頼みます! 僕はこれから犯人を追いますので! 心配ないですから帰っていてくださいねー!」

「え、ちょっとネギ君……!?」

 生徒ほっといて犯人おいに行くん!? っていうか一人でなにが出来るん!? と続けて叫ぼうとした木乃香だったが、ネギは犯人を追うことに夢中ですでに走り出していた。

『……一応、のどかちゃんの影から分体をネギに潜ませてある』

 不機嫌そうな木乃香にクラウスはゆっくりと呟いた。

『うん。ありがとう』

 木乃香はそう呟くと明日菜に向き直り呟く。

「とりあえずアスナ、のどかをこのままにするわけにいかんから、はよ寮に運ぼう」

「あ、う、うん……」

 長年の付き合いから木乃香が現在機嫌が悪い事を察した明日菜は素直に頷いてのどかを寮へと運ぶための準備を開始した。

『まったく……、ほんまにネギ君は困った子やねー……。犯人の顔を見たなら、まずは被害者の安否確保に、学園に連絡せなあかんのに、それをほっぽって犯人の方を追うなんて……』

『あ、ま、そうだな……』












 そして、のどかを女子寮まで運んだ後、すぐに明日菜がネギを追うと言って女子寮から出て行った。

『止めたんに……』

 制止の声も聞かずに部屋を飛び出して行った明日菜に向かって木乃香は愚痴った。

『まあまあ、このか。アスナちゃんはいい子だからネギ君が心配なんだよ』

『それは分かってるけど、アスナの能力が広まれば……!』

 木乃香は体の前で腕を組んだ。

 明日菜の身を案じて、心配で震えた。

『とりあえず、視界をリンクさせるから様子を見よう』

『……うん』

 木乃香が頷いた瞬間、木乃香の左目にネギと犯人が映った。

『やっぱり、エヴァンジェリンさんやったんやね』

『ああ、まさかヴァンパイア似た、バンパイアと呼ばれる種族がこんなに近くに居たとは思わなかったな』

『それに茶々丸さんってエヴァンジェリンさんの従者やったんやね』

『ああ、|魔法使いの従者(ミニステル・マギ)だったなんてな。だけど……』

『それにしても……』

 クラウスの呟きに重ねて木乃香は首を傾げて呟く。

『これって学園側は気づいていて無視しとるよね……?』

『ああ……、あの学園長が事態を把握していないはずもないし、エヴァンジェリンにも殺気はないし、わざわざ魔法使いのパートナーの重要さまで説いているからな』

『パートナーの重要性をネギ君に教えてどうするつもりなんや……ろ?』

 ネギの首筋に噛み付いたエヴァンジェリンに蹴りを放った明日菜と、素直に身を退いたエヴァンジェリンと茶々丸を見て木乃香は気づいた。

 そして、今までの疑問が自分の中で整理されていく感覚を感じた。

 |魔法使いの従者(ミニステル・マギ)……、パートナー……、クラス担任……、個性豊かで、裏に通じる人間ばかり集めたクラス……、アスナとウチと同居させた理由……、図書館島での「魔法の書」探し……、今回の事件の静観……。

『ああ……、わかった……』

 木乃香は完全に気づいた。

『ウチのクラスってネギ君のパートナー候補を集めとるんやね。ウチとアスナと同居させた理由も、高確率で「魔法側」に巻き込むためやったんか……。始めからネギ君の修行って麻帆良でパートナーを探すのが目的で、今回のエヴァンジェリンさんを黙認したんは、ネギ君に経験を積ませるためか、エヴァンジェリンさんも始めからグルか……』

 木乃香は呟きながら|金槌(トンカチ)を取り出した。

『ウチの親友を危険な目に巻き込むつもりなんやね……』

 取り出したトンカチを撫でる木乃香。

『このか……?』

 木乃香からにじみ出る黒いオーラにクラウスは恐る恐る声をかけた。

『クラウス君』

『なっ、なんだ?』

『お爺ちゃんの思惑通りに進むのも嫌やし協力してくれへん?』

『な、なにをするつもりだ?』

『お爺ちゃんの邪魔と……、もう嫌やねん』

『……なにが?』

『そりゃあ、毎回毎回お見合い勧めてくるし、いい加減もうウンザリなんよ。ウチにはクラウス君がおることをもう言ったほうがいいと思うんよ。どうせ修学旅行で京都に行く事になってるんやし、修学旅行でお爺ちゃんはウチに「魔法」の存在をバラすつもりなんやろしなー』

『それもそうだな……』

 クラウスも学園長の思惑通りに進ませるのは嫌だったので木乃香の考えに乗る事に決めた。

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