俺らは言うまでもなく、開園と同時に一番乗りに飛騨Qに入園した。
「うーん。改めてみてみるとここ広いねぇ!なんか迷っちゃうなぁ〜」
「雪乃よ。そりゃ人が誰も来ないような時間帯に、来ているのだから、広く見えるに決まってる」
無理やり俺を起こした恨みを込めて、皮肉を言ったがガン無視。
「今日朝食抜きだったから、おなかへったぁ!まさに、腹が減っては戦はできぬっ!」
「おいおい。今日は戦をしに着たのかよ!……ま、おれにとっちゃ今日は戦と言っても過言じゃないか。」
「よっし。んじゃブレークファストと行きましょー!楓クンもなんか食べる?」
「いや俺は朝飯は食ってきた……」
「えっえぇ〜?楓クンつまらんなぁ」
雪乃はそう言って片目瞑って、白くてスラッとした人差し指でツンツンしてきた。う、なんかこの嫌味な仕草
が堪らなく……可愛らしい。
俺は雪乃の誘いを断ることができず、おしゃれな感じの洋食屋さんに入った。
雪乃は率先して店内を突き進み、しゃこんとバーカウンターに座った。
俺は「カップルじゃないんだからといって」ちょっと距離を開けて座った。が、雪乃はそんなことお構いなし
にいすをガッと俺のところに近づけた。まったく人前でこんなに密着して辱めというものがないのだろうか?
そして、俺らは二人同じ『サンドウイッチセット』を頼んだ。うっ、サンドウイッチというと、あの翠特製、
『これはサンドウイッチ。否これは暗黒兵器(ダークマター)である。(食品≠兵器)』を思い出す……
と、俺は朝食が既に納まっている俺の腹に、おいしいサンドウイッチ押し込んでいると、ふと雪乃が俺を覗き
込んできた。
まさか、こんな無様な俺のことを心配してくれているのか?
その予想に反して雪乃は、追い討ちを掛けるようにサンドウイッチを俺の口に押し付けてきた。
「はい、あーんっ♪」
「……え?」
「ふふっ、もし楓クンが手が使えなかった、こうして毎日毎回、『あーん』ってしてあげるねぇ〜」
「ちょ、ちょい!待てっ!待つんだぁ!……please wait」
たぶん、その『手が使えない』原因要素は、雪乃当本人にあるのではないだろうか?
俺はその雪乃に、かみ終わってないにも拘らず、口を両手でこじ開けて、サンドウイッチを詰め込まれて行く。
ごもごも。ごもごもごも。ごもごも……。ぶふっ。ごほっごほっ。……げろげろげろ。(食事中の皆様。大変
申し訳ございません。これが今の、『一方通行の思いやり』の現状でございます)
俺は店員さんや周りの心優しいお客さんの助けも合って、なんとか大事に至らず済んだ。
本当に俺は今日、ちっさい子供の大好きな場所、『遊園地』に来ているのだろうか?
これのどこが楽しいというのだ?こんな臨死体験が。こんな一方的な爆撃が。
俺は雪乃にずるずると引っ張られて、洋食屋さんを出た。
俺が店を出るときに、店員さんやお客さんに、「がんばれぇ〜!」とか「あの高校生に比べたら、俺の悩みな
んて最早みじんこだ……」
などと声を掛けられた。まったく不思議な気分である。
そして雪乃は俺の状態なんてお構いなしに、アトラクションへ向かっていく。
「おい、どこいくんだよ?」と聞いてみると、良くぞ聞いたと言わんばかりのニッカニカな表情で教えてくれた。
「ふふふ。私はこれから『お化け屋敷』に行こうと思ってるのだよ!」
「へ、おまえ怖いの嫌いじゃなかったっけ?」
「ふふふ。楓少年よ。よく考えてみろ。お化け屋敷にでるのは?」
「お化けです」
「そう、お化け。ただし偽者のなっ!」
「はぁ」
「だから、偽者だって分かっていればお化け屋敷『ごとき』余裕なのだよっ!」
「……」
「では早速、貧弱で脆弱なお化け屋敷。ならぬ泡沫の役者の館に向かおうか?……くくく。見ておれ。貴様ら
の偽り、暴いて見せようっ!」
こうして雪乃は勇み足で『飛騨Qアイランドのお化け屋敷』に向かう。
そういや、ここのお化け屋敷、なんかの雑誌で載ってた気がすんな……