小説『Realheart+Reader』
作者:藍堂イト()

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「ひぃい!目玉が床を転がってるよぉ〜!こわぁあっ!ひゃいぃぃ、本物のお化けだよぉ!楓クンこわいよ

ぉ!お、おうちに帰りたいよぉ」

「おいおい、さっきの威勢の良さはどうしたー?」

「ひいぅう!見て、楓クンが鬼のようっ!」

「俺は、子供の獅子を崖から突き落とす親獅子だっ!まさに『愛の鞭』なのだよっ!ハハハッ!さっきまで威

張り放題の雪乃が、嘘のようだ!」


俺はさっきまで調子に乗っていた雪乃に、仕返しのように酷い対応の仕方をした。

どうやら雪乃は心の中でも怖がっているようだ。……まったく、心の声でも雪乃は愛しいくらいに可愛いなぁ。


って、俺は朝からのハードスケジュールの疲れとストレスで、頭がイカレちまったか?


俺らは悪戦苦闘しながらも、お化け屋敷を進んでいく。今更なのだが、ここ『飛騨Qアイランドのお化け屋敷』

は無駄にクオリィティーが高い。お化け屋敷の内装は、細部にまでしっかりと手間隙掛けてあり、本当のお化

けのいる古い洋館を思わせる。また、順路を進むに従ってどんどん怖さが深まっていく。


そんな人口魔窟を進んでいくと、今までとのある違いに、雪乃が機敏に反応した。


「うぅ。なんかお化け屋敷だけで、かなりの疲労がのしかかってきている。……ん、まさか?あ、あれは!」

「そうだ。あの一筋の光が、俺らを出口に誘う救いの御光だ。どうだ?本当に神々しいだろう?」

「はいっ!このお化けの巣食う魔窟から、やっと抜け出せるのですねっ!本当に長かった……」


まったくもって大袈裟である。ここのフレーズだけ見ると、ファンタジー物の物語の、巻末みたいな感じである。

ここだけ見るとだが……


その後も一般的な遊園地にあるような、アトラクションを巡っていく。ジェットコースターやらコーヒーカップなど……

午前中のような、グダグダはあまりなく、午後の時間はあっという間に進んでいった。


そして、俺らはラストのアトラクションとして観覧車に乗ることにした。

ちなみに余談だがこの観覧車の名前は『黄昏色を望む観覧車』と言うらしい。ま、正直に言えば名前など、ど

うでもよいのだが……


この観覧車の特徴というと、観覧車の中から周りの外は見えるけど、外から中は見えないという構造になっている。


要するに観覧車の中で何をやっても、外からはまったく何も見えないというわけである。


……本当に、この後に何が起こるのか想像がつかなくて困る。


「いやいやぁ!最後のシメはやっぱしこれしょぉ〜〜!」

「ふぅ。今まではみんな疲れるアトラクションばっかりだった……。最後の最後はゆっくりめな奴でよかっ
た」

「ふっふ〜ん!観覧車のゆっくりってイメージは今日ここで覆されるっ!」

「ホントそんな酷いことを自身ありげに、言わんでほしい……」

「これが、私の下僕に成るということよっ!」

「いつ、俺は雪乃の下僕になったんだよ……」



その時に雪乃から『楓クンを下僕にしたら楓クンは、一生私のもの……フフフッ』という、不気味な心の声が

聞こえてきた。

俺は雪乃の、疲れ知らずな悪ノリに感嘆する。俺は朝とは違いハキハキと『!』を付けてツッコむ気力はすで

に残っていなかった。


そして俺らはついに行列に並んだ末にようやく、全身ミラー張りの怪しい観覧車の前に来た。

雪乃はまだまだ有り余る元気でキャハキャハはしゃぎながら、俺を超不安要素に引きずり込んでいく。


その顔はまさに悪魔のような顔だった。本当に怖すぎる。


「へぇ〜!意外と景色きれいだねぇ!ねぇ楓クン?」

「あぁ。本当に。だが、お前のその真面目なフリはいったいなんだって言うんだ?」

「ふんっ。私がまじめなこと言って悪いの?」

「まま、そう怒るなって!この先五分間も『2人』きりなんだからさ……」


俺が言った『2人きり』という言葉のせいで、観覧車の空気は一瞬で沈黙してしまう。

そして、恥ずかしそうに顔を真っ赤にして、雪乃は切り出してきた。


「そ、その。ふ、2人きり……だね」

「あぁ。そだな。……お前んちに始めていったとき以来か……」

「そ、そだね。なんか改めてこうやって、落ち着いて向き合うのは新鮮な感じだね。……不思議」

「本当にな。そうだ。せっかくだし何か一つだけわがままを聞いてやるよ。……あ、俺が到底できそうにない

事は、だめだかんな」

「う、うーん」


雪乃は赤くしながら考えている。ま、さっきから顔は真っ赤だったんだけれどな。

そして、思い出したらしく、小さな声で「はっ」と呟いた。そして……



「観覧車……下まで、行ったら……起こして、ね……」



雪乃はそういい残して、俺の肩でことんと眠ってしまった。

そして俺は思わず、「はぁ」っとため息をついてしまう。


心の中で、「雪乃となにか起こるといいな」と思っていた……のだろう。

そういう馴れ合いの理想に反して、雪乃は休眠に入ってしまう。



俺は奥手で切り出せない自分の無力さと、雪乃の暖かくてやわらかい、絶品な感覚。


その両方が入り混じった不思議な状態で、観覧車の中の時間は刻まれていく……

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