小説『Realheart+Reader』
作者:藍堂イト()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>


俺ら二人は、楓との集合場所の『忠猫パチ公』広場に居た。


……集合時間の30分前に。理由は単純。悠太が計画した題して『待ち伏せてチョコをあげちゃおう♪作戦』

である。ま、実際題名そのまんまなんだが一応説明をする。

まず、待ち合わせ場所で俺と楓は集合する。で、俺が一旦トイレに行く。楓が集合場所で、トイレに行く俺を

待っている隙に、偶々雪乃ちゃんが忠猫パチ公広場前を通ることを装う。で、チョコを楓にプレゼント!とい

うわけである。

ふっ!なんて完璧なんだ!え?何、その作戦でうまく行くと思ってんの?浅薄過ぎだろ。と言いたげだな。

そう思ったお前、見て居ろよ……。必ず成功させてやる!

何?根拠は?そんなのは必要ねぇ!男の勘って奴だ。俺の第六感なめんなよ!

俺は誰かもわからない奴に、独り言で文句を言っていると、雪乃ちゃんは心配そうに覗き込んでくる。


「悠太クン?どうしたの、訳のわかんないことをぶつぶつ言って……男の勘って?」

「な、なんでもないっ!そ、それよりちょっと質問なんだけど……」

「ん?なに?」

「雪乃ちゃん、いつもあんなにベタベタしてるのに、何で今日はそんな緊張してるの?そして、何でデートで

もないのにそんないい服着てるんだ?」

「っ!?き、緊張なんかしてないよぉー!!それにこれは、そ、その……そう。普通の私服だもん!」

「ほう。昨日の書店では、最早パジャマといっても過言ではないようなシンプルジャージを着ていた、雪乃お

嬢さんの口でよくそんなことを言えたものだ?本当は私服はジャージなのでは?」

「う……」


悠太の少し棘のある質問に、雪乃は硬直する。ふっ俺って気障だろ?

こうして、俺ら二人は待ち合わせ時間までの間、どうでもいいような駄弁りをしていると、あっという間に待

ち合わせ時間になった。

すると、俺の携帯に楓からメールが来た。


『道に迷った……助けてくれ』

「……」

「どうしたの、固まって?も、もしかして楓クンからっ!?」

「そうだけど、ほら」

「……道に迷った?そういえば楓クン遊園地の時もそうだったけど、遊園地に着くはずが、何故か中華街に行

こうとしてたっけ……」

「んじゃ、俺は近くのバス停に居る、ターゲットを連れてくるから、見えないとこに隠れてて」

「了解しました。悠太大佐っ!」

「お?歩兵から大佐に成り上がるなんて、我が軍の勲位昇格システムはイカれてるんじゃないか?そんなこと

は、置いといてあの方向音痴のお馬鹿さんを連れてくる。例のタイミングになったら、メールする」

「はっ!それでは隊長、健闘をお祈りいたします!」

「いやあの、今回戦うのは寧ろ雪乃ちゃん本人だろ?ま、いいや。いってるね」


こうして一旦雪乃との会話を断ち切る。切が無さそうだし、向こうで待っている方向音痴さんがオロオロする

のも可哀想だろ?

悠太が駆け足で楓の所に向かうと、案の定バス停の時刻表のポールの周りをグルグル回っている、障害者が居
た。


「おい……。お前何してんだよ?」

「あっ!悠太ぁー!」

「ってちょおい!何で俺に飛び込んでくるんだよ!?って俺の胸で泣くな!」


「うっ……ぐすっ……。現地集合は……ぐすっ……俺の敵だ!」


「……行こうか?」


俺は返す言葉が見つからなかった。

例のターゲットである、楓はKEDOWINのジーンズ(通称けど、WIN=けど、勝つ!)に緑のチェックのパーカ

ー。中には、金色で『IT’S NO MANY!(イッツノーマニー=いつの間にッ!?)』とプリントさ

れた黒地のくだらない、Tシャツを着ている。

この、服装はいつもインドアな楓にしてはお洒落なほうである。


まったく持って、二人とも今日を意識しすぎではないだろうか?

悠太は『歩馬(ぽうま)』と言うメーカーの安い赤と黒のジャージ上下に、お気に入りの紫ダウン。

超ハイカットでこれまた、赤と黒のスニーカーを履いている。これは悠太にとってはいつもの服装だった。


悠太はそんな柄でもない、ファッションチェックを頭の中でしながら、まだ涙と鼻水が止まってない情けない

高校生を現場まで連れて行くのだった。



……が、これが永久に語り継がれし『破滅の殉教日(ルイン・バレンタイン)』の序章である。

ちなみにこれは、ファンタジーではありません。

-24-
Copyright ©藍堂イト All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える