小説『Realheart+Reader』
作者:藍堂イト()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

「こらぁ!私は心の広い主。お前の心の穢れを許してやってるのだぁ!だから、早く動くのだぁ!私のために!」

「畏まりました!仰せのとおりに!……って雪乃ちゃんはこんな酷い性格ではなかったはず……」

「口ではなく手を動くして!手を!」

「ひぅう……」


俺は前述のとおり酷い酷い奴隷被害を受けています。こんなになるはずは……。

悠太はこの雪乃のアパートに来るまでにあったことを思い浮かべてみる。


二人は、本屋を出る。


「あのさ……なんで、俺が雪乃ちゃんの本をかわなくちゃ……」

「そりゃぁ」

「そりゃぁ?」

「悠太クンだから」

「うっ……。そんなのあんまりだぁあああああああ!」

「あっ!こら!逃がさないよぉ!」


雪乃は泣きながら逃げようとした悠太の手をガシッと掴む。そして、手馴れた手つきで腕を捻る。

結局逃亡虚しく、悠太は合気道とか言う護身術のせいで拘束されてしまう。


本当に、いつこんな物騒なものを覚えたのだろうか?


「そう言えば、雪乃ちゃん料理うまいよね?それなのになんで俺を?」

「えっ!?う、うーんとね……」

「???」


と、俺の疑問にさっきまでの拘束を解いて、顔を真っ赤にする。

どうしたってんだろ?


「理由聞いてわ、わらわない?」

「???何かわかんないけどたぶん笑わないよ!」

「たぶんじゃだめ!」

「ぐっぎゃ!わ、わかった!わかったから!だから腕を放して!!」

「実はね……」

「うん」

「そ、その……。私男子にチョコ渡したことないんだよね……

「それだけ?」

「それだけじゃないぃいいいい!」

「ひぃいい!わかった悪かった!撤回する!で、それで何で俺が必要なんだよ?」

「だから、どんなのだったら喜んでくれるかなって。そ、その誰かさんがさ……」

「まぁ雪乃ちゃんの隣の席の誰かさんの好みをばっちりレクチャーしてあげよう!」

「っ!?よ、余計なこといわないでぇえええ!」

「ってぎゃぁああああ!」


雪乃は再び腕をつかんで、さっきよりもきつく捻る。怒りを込めて捻る。


こうして俺は、雪乃のアパートに行くまでに何度も三途の川を見ながらもこうして今まで、ぎりぎりの線で生

きているわけである。

と、そんな過去の出来事の記憶をたどっていると、雪乃は既に手際よく調理をして、仕上げに入っていた。



「粉砂糖をかけて、これをかぶせて……。よしっ!完成!ささ、味見して!」

「お、おう……。もぐもぐ」

「ど、どう?」

「んんっ!?」

「ひぃぅう」

「う、うまぁああーいっ!この絶妙な口どけと、ちょっぴりビターな感じが大人な感じでうまい!これは男子

が大好物な感じだ!」

「そ、そう?」


雪乃は顔を赤らめて、俺との視線をそらす。ん?俺まずいこと言ったか?

そして俺は、糖分で頭が冴えたのかあることを思い出す。


「そういやこれいつ渡すの?」

「っ!?それは決めてない……」

「んじゃ俺が一肌脱いで、雪乃ちゃんのバレンタインをプロデュースしてあげちゃおうかな?」

「ホントにっ!?」

「っ!?」


俺は驚きで、口から心臓が出そうになる。

雪乃は悠太の手を取って、にこっと初めて見るような満面の笑みをしたのだ!

それに対して悠太は、つい顔が火照ってくる。そんなばかなっ!?このプレイボーイ悠太たる俺が、こんなこ

とで恥ずかしくて言葉も出なくなってしまうのか!そんなのありえない!断じてありえない!


「そ、その……ありがとねっ!」

「ぶっ!」



そう言って雪乃はさらに満面の笑みでズイッと近づいてくる。そして、その笑顔の威力で悠太は頭が真っ白

に。顔は真っ赤になる。

そうだったのか。あの、朴念仁男楓がこんなに雪乃ちゃんにアタックする理由がわかった。



こんな笑顔を見せられたら、どんな男でも雪乃ちゃんを放っておくわけない!



その日、悠太は雪乃の笑顔が、目を瞑っても鮮明に浮かんできた。

そして、雪乃の笑顔を想像するたびに、そんな雪乃を虜にした楓に苛立ちを感じて、『お前がいるから、雪乃

ちゃんが!』とか言う意味不明な迷惑メールを大量に送る、哀れな悠太がいた……

-23-
Copyright ©藍堂イト All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える