第62話
俺がギターで活躍(?)し、数日後の朝になった。
紬の願いは『亀の為の水槽を運んで欲しい』という事で山中先生は『いいわよ』と快く引き受けた。
「ねぇ、お姉ちゃん。一つ聞きたい事があるんだけど・・・」
「んー?何?」
俺は台所に立ち朝食を作っている。憂は俺の横に立ち、フォローする形をとっていた為、このように雑談を交わせるのだ。
「お姉ちゃんって、クーラー苦手なんでしょ?どうするの?そろそろ、クーラー設置されると思うんだけど・・・」
「あ・・・」
俺はクーラーが苦手だった事を忘れていた。クーラーが起動すると、具合が悪くなるのだ。不思議な事に両親や憂はクーラーが苦手という事は無い。どうやら遺伝では無いらしい。何で俺だけ・・・
「う、うん。どうしよっか?憂」
「みんなに相談してみようよ!」
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放課後。見事にクーラーが設置され、ガンガン冷やしていく律達は『涼しいー♪』と安らぎな表情で楽しんでいる。
亀も新しい水槽になって嬉しいのか、優雅に泳いでいる。
「う、うぷ・・・具合が・・・」
やはり俺はクーラーが苦手で、具合が悪くなっていく中、憂は『だ、大丈夫?お姉ちゃん』と心配してくれる。優しすぎて涙が出るほどだ。
「ええ!?唯ってクーラー苦手なのか!?」
「・・・ええ。御覧の通りですよ。律ちゃん・・・」
弱々しく俺は具合が悪いとアピールする。澪は仕方なくクーラーを消してくれ、だんだん蒸し暑くなってくる。
「・・・あぢゅい・・・」
「いや、どうしろと・・・」
澪はジト目で俺を見てくる。そんな事言ったってしょうがないかー。
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音楽室のクーラーがただのオブジェとなり、また時は流れ、まだクソ暑いある日のHR。
山中先生はチョークを持ち、黒板に何やら文字を書いていた。この時期になるとやはり・・・
『夏期休暇』
まぁ、夏休みである。だが、俺達はもうすぐ受験なので、その受験対策の為に、長い時間をかけて頭に叩き込むのだ。
律、澪、紬は既に志望校を決めて『私立翔南(しょうなん)女子大学』という大学へと進むそうだ。
和は『国立明星(めいせい)女子大学』だそうだ。ていうか、女子大ばかりだな。(※注 これらは空想の大学名です。実際にありません。)
「夏期休暇だからって、羽をあまり伸ばさないように。あなた達は受験生だからね」
『はーい』
夏期講習もあるのにそんなにも伸ばす羽がないのだがな。
そんな事よりも、夏期休暇でやるべき事がある。それは、合宿だ。受験生なのにいいのか?と思われがちなのだが、『受験生だからこその合宿』なのだ。
故に、思い出作りに励む事をしたいのだ。
先生の目線を気にしながら憂、梓にメールを送る。その内容は『今年も合宿するよ。賛成なら写メールを送ってね♪』だ。
何故写メールを強制するかというと憂、梓は音楽室に来るのが遅いので早めに律、澪、紬に合宿の提案をし、賛成した憂、梓の写メールを見せることによって、合宿の参加へと導き出せるという作戦だ。うむ、完璧だ。
しばらくするとポッケに入れていた携帯が震え、メールが来た事の合図だと分かり、携帯を開きメールを確認する。
そこにはしっかりと、憂はにこやかに挙手を、梓はおずおずとしながらも、挙手をしたツーショットの写真が送られてきた。
これは賛成の意思だと分かり、俺は『よしっ!』と内心でガッツポーズをとる。後は、律達だな。
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昼休み。
教室にて、俺は律達に合宿の提案をする。律、紬は輝く笑顔で
『賛成♪』
だそうで、澪は受験生だからまずいのでは?と聞いてくるので、俺は考えていた事を澪に伝える。
「受験生だからこそだよ。勉強ばかりでストレスが蓄まるでしょ?」
澪は、『それはそうかもしれないけど・・・憂ちゃんと梓に何て言うのか?』と疑問があるので、俺はニヤリと笑い先程送って貰った憂と梓のツーショット写真を見せる。
「この通りっ!憂と梓ちゃんは賛成だってさ〜」
澪は渋々納得してくれた。まぁ、いいじゃないか。思い出作りと思えば。
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休日。みんなを我が家へと誘う。ミーティングをどこでやるかを相談していたが、俺は我先に『私の家に集合ね!』と気合いを入れて提案をし、みんなは少し驚いたが結局、我が家へと集合となった訳だな。
我が家に集合とした理由については、まだクソ暑い道を歩きたくないからだ。こんな理由を言ってしまったら友達を失いかねんので、適当にごまかす。
で、我が家の二階にある俺の部屋にて、ミーティングをする。
「で、どこに合宿行く?海は行ったから、山がいい?」
「澪ちゃん。もう一度海に行ってバーベキューをしたいわ〜」
「遊ぶ気満々ですね・・・」
澪、紬、梓はどこにすべきか悩んでいるようだが、遊びに行く感じがびんびんと伝わる。
「なぁ、憂ちゃん。梓。どこがいいとか無いか?」
「私は楽しければどこでもいいですよ。律さん。梓ちゃんは?」
梓は提案したい事を思いついたのか『はっ!』と閃き
「山は山でも、野外フェスに行きませんか?」
「も、もしかして、夏フェスか!?」
梓の提案に澪は目を輝かせる。
夏フェスというものは、色んなバンドが集い、演奏していく。謂わば祭みたいなものだ。その祭に何万人も観客が集まるという熱気溢れた祭である。
憂は意味が分からず、こてん、と首を傾げ、澪に意味を教えて貰い理解したようだ。
「私、夏フェス行ってみたかったんだよなー!」
「私もです!プロの演奏も聞けますから、演奏の勉強になりますし!」
『へぇ、夏フェスってそんなにすごいんだ・・・』
紬、憂は夏フェスの凄さを思い知らせられた。
合宿の場所が決まり、ぎゃーぎゃーと興奮している律達をぼけっと見ていると、山中先生を発見した。山中先生は俺が発見した事に気付き、人差し指を立ててから口元に近づけ『しーっ・・・』と言いながらウインクしてきた。俺は多少、それにイラつき山中先生を『ギロッ』と睨みつけたのだが、効果は無かった。
そんな山中先生の存在に気づかないで、律達はまだ合宿の話に夢中だ。
「で、チケットどうしょっか?今からバイトしてお金貯めてからじゃ遅いし・・・」
山中先生は俺に夏フェスのチケットの数枚をヒラヒラ見せびらかせ、アイコンタクトでチケットが欲しい演技をしろと言っているみたいなので、仕方なく、渋々と乗ってあげる事にした。
「あー。誰か。都合良く。六枚チケットを。持っていないかなー。(棒読み)」
「仕方ないわね〜♪」
待っていました!と言わんばかりに弾ける笑顔で俺達の目の前にチケットをヒラヒラ見せびらかせる。律達はチケットに目を釘付け。山中先生には一向に気づかない。哀れだな山中先生。
こうして俺達は夏期休暇の中で、夏フェスでの合宿を決めて、俺達の演奏の勉強し、俺達はもっと演奏が上手くなるようにと願いながらも、俺は『最後の合宿』になるべき、合宿へと突き進むのであったーーーーーー