小説『俺は平沢唯に憑依してしまう。【完結済】』
作者:かがみいん()

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第63話

夏フェス当日の早朝。
今回俺達が参加するイベントは
『NATSU ROCK FESTIVAL』
土曜、日曜の二日間続く大規模なロックフェス。
場所は、とある大きな国立公園に開催され、市長やら商店街の人達やら色んなお偉いさん達がスポンサーになっているので、年々人気が上がっているそうだ。
この国立公園は、山など自然に囲まれて遊具など一切無く、周りの景観を見て楽しむ観光客がたくさん来るようだ。

「お姉ちゃん。行こっか」

「は〜い」

まだ早朝なのに行かなければならない。この夏フェスは朝早くから行かないといい場所を取れないというのだ。
我が家の戸締まりを確認し、暑苦しい道をひたすら進む。
今日みたいな暑苦しい日は客を始め、ミュージシャンも果てしなく疲れるだろうな。

ーーーーーーーー


集合場所に到着し律、澪、紬、梓はワイワイとはしゃいでいた。
山中先生は千鳥足でフラフラと歩いていくのが見えて、病気なのか?と不安になってしまった。

「うぷ・・・ひどい二日酔いでね・・・」

山中先生は酒を飲み過ぎて、ひどい頭痛もするそうだ。しっかりしろよ。憂は酔い止めの薬を所持していたので、水筒と一緒に渡す。用意がいいのな。

「あ、バス来たぞ。みんな乗るぞ」

バスに乗り、山中先生は運転手に『安全運転でよろしく・・・』と弱々しく言い、運転手は苦笑い。ダメな大人の見本だな。運転手は客が席に座ったのを確認し、目的地へとバスを走らせる。

ーーーーーー

バスに乗車し、興奮は最高潮まで高まる。

「私、このライブとこのライブ見たいから、分身したい!」

澪は無茶な事を言う。澪は徹夜までして、どんな演奏を聴くかを検討していたそうだ。その証拠に若干、目元にクマが出来ていた。
で、澪が言うには気になるミュージシャンが複数いて、そのミュージシャン達は同時に別々の場所で演奏するのでそれを『同時に』見たいだそうだ。

「澪先輩・・・それは不可能ですよ・・・」

梓の言う通り、分身なんて人間が為せる技では無いのだ。が、澪は負けずと反論を。

「じゃ、身体が二つ欲しい!」


「澪ー・・・どっちかに絞れよ・・・そのミュージシャン達は別々の会場で演奏だから無理だぞ」


「ヤダっ!」

澪はワガママを言っている。ものすごい貴重なシーンだな。
憂は『澪さんがあんなに、はしゃぐなんてきっとスゴいんだろうな〜』とのほほんと言ってくるので俺は適当に『そうみたいだね〜』と相槌をうつ。
全員興奮していく中、山中先生はというと・・・

「う、うぷ・・・酔った・・・飲み過ぎたわね・・・」

顔が真っ青になり、具合が悪そうというのが分かる。ぐだぐだじゃねぇか。

ーーーーーー

バスはサービスエリアに止まり、乗客達は休息をする為次々と降りていく。俺も休息したいので、バスから降りようとしたら、山中先生は俺の腕をがっ、と弱々しく掴み『み、水を・・・』とまるで砂漠へと迷ってしまった人物のように言ってくるので、仕方なく水を買ってあげる事にした。
で、早速店に入りミネラルウォーターを購入し、外に出たら律、澪がいた。

「あ、分かった!瞬間移動したらいいんだ!」

「おー!やってみろよ!見てみたいわっ!」

澪はまだ興奮してワガママを言っていた・・・澪よ。瞬間移動は無理だろうが。
律達の漫才を無視して、バスに乗り山中先生にミネラルウォーターを与えてあげる。

「先生。何故、こんなにキツそうですか?」


「私、このイベントが楽しみでしょうがなくて・・・ついつい、羽を伸ばしすぎたのよ・・・」

夏期休暇が始まる前に羽を伸ばすぎないように、と言った口が何をほざくか。
山中先生は頭を軽く自分で叩き、『てへっ☆』と言って舌を出す。

「・・・先生・・・ソレ年齢的にもキツいので、金輪際二度としないでくださいね・・・」


「・・・唯ちゃん。私はまだ若いのよ・・・そんなに老いてないわ・・・」

山中先生は弱々しくツッコミを入れる。はぁ、教師がこれだし、先が思いやられるよ・・・


ーーーーーーーー

およそ一時間ぐらいバスに乗り続け、会場へと着いた。

「山だー!」

「山ですね・・・」
見渡す限りの山だ。それ以上でもそれ以下でも無い。
澪は憂と何やら話をしているのだが・・・

「憂ちゃん。私はこのバンドとこのバンド。両方聞きたいから身体が二つ欲しいんだけど、どうしたらいいと思う?」


「え、ええ〜・・・お、お姉ちゃ〜ん。助けて〜」

憂は助けを求めているが、どうしょうも無い。ごめんな憂。俺が無力で力になれなくて・・・
紬はというと・・・

「唯ちゃん。私、焼きそば食べたいの」

ズレた発言をする。何で急に焼きそば何かを・・・
紬が言うには、山などの自然いっぱいな所で焼きそばを食べるのが夢だと言うのだ。500円くらいで叶いそうな夢だな。おい。

はしゃぐ澪達を何とか夏フェスの会場入り口まで誘導し、目の前に大きな看板があり、でかでかと 『NATSU ROCK FESTIVAL』と多彩な色で書いてあり、入り口のゲートへと向かうが人、人、人である。家族連れや外国人など様々な観客らしき人達がびっっしりといる訳である。
スタッフが次々と観客を誘導するのだが、あまりにも人が多すぎるのでキリが無い。どんな優秀なスタッフでも人の多さには勝てないようだ。

「ほら。リストバンドよ。これを無くすと、この会場に入れないから注意ね」

山中先生は早くも二日酔いから醒めて溌剌(はつらつ)としていた。
律は『もう大丈夫かよ。さわちゃん』と山中先生は

「昨日の私は脱ぎ捨てたわ」

と凛々しく発言してきたのでイラつき、俺は

「え?脱皮でもしたんですか?」


「唯ちゃん・・・私を何者と思っているのよ・・・」

果てしなく落ち込みながらツッコミを入れる。自分で分からないのか山中め。

『NATSU ROCK FESTIVAL』の入り口へと入り、早速山中先生はキャンプエリアにテントを張ろうと言うので、キャンプエリアに行ったのだが、先客がずらっ、とテントを張っていた。
仕方なく、斜面になっている場所へと山中先生は、テキパキと手馴れているのか、テントを張っていく。

毎年山中先生は、夏フェスに行っているらしいので各会場の細かな説明をしてくれる。

「−−−で、飲み物はスポーツドリンクにしなさいね。あとーーーー」

俺達に次々と夏フェスの極意を教えてもらい、紬が持ってきた虫除けスプレーをそれぞれかけていく。

「よしっ!最初はファイヤーステージに行くわよっ!早く早く!」

山中先生は急いで行こうと促すので、渋々走ってやる事に。
途中、スタッフからレインコートを貰う。山は、天気が不安定なのでいつ雨が降るか分からないので、その為の処置だ。それをありがたく頂く。

ーーーーーーー

「『準備はいいかぁ!』」

ファイヤーステージに着き、最初に演奏するであろうミュージシャンはMCをやり、ドラムの人はそれぞれの準備が出来たのを確認し、高らかにスティックを上げカウントをとり・・・・

〜〜〜♪♪♪♪!!!!

「わっ!音大きい!」

大音量の演奏に憂は驚きの声を隠せない。俺も初めての体験だったので感無量だ。
このミュージシャン達はプロなので、素晴らしい演奏を魅せてくれる。すごい・・・これがプロか・・・

「よーし。次行くわよ!」

山中先生はイチオシの演奏があるらしいので、俺達に勧めるが律は渋っている。澪はサンダーステージに行きたいとワガママを言い、早速走っている。律は澪が不安なので、澪と一緒に行動する事を俺達に伝え、携帯での連絡を定期的に行うという方針を決め、律、澪はサンダーステージへと向かう。

「唯先輩。私達はどうしましょうか?」

「うーん。私はもう少しこの演奏を聴きたいんだけど・・・憂とムギちゃんは?」

「私も、もう少しここに居たいな」

「私はビーチサンダルだから走れないし・・・ここでいいわ〜」

俺、憂、紬、梓は結局このファイヤーステージに留まる事にした。


ーーーーーーー

昼。俺達は空腹になったのでフードエリアに行き、紬は『焼きそば♪焼きそば♪』と大興奮している。ズレているな紬は。
が、焼きそばは大人気になっていて、長い行列が出来ていて途中、売り切れになってしまった。紬は『焼きそば〜・・・』と落ち込んでいる。
律からメールが来て、休憩所の近くにある川がある所に集合という通知が来たので、俺達はその集合場所へと向かう。


「あ、さわちゃんがたこ焼き持ってくるんだってさー」

何とか暑苦しい道中を歩き、着いた。適当にレジャーシートを敷き飯を食べようとして、澪におつかいに行かせたら、飯を買わずにどこかのミュージシャンのグッツであるTシャツを買ってきたようだ。
律、紬、憂は『わー。いいな』と羨ましいように見ていた。
その後、山中先生が首を押さえながらたこ焼きを持ってきた。山中先生は『ヘッドバン』という頭を激しく動かしていたそうで痛めたそうである。


ーーーーーー

夜になり、ミュージシャン達の演奏をファイヤーステージの全体が見える丘に座り、夜空を見る。うむ、俺はロマンチストだな。
梓がやって来て、『どうしたんですか?』と聞いてくるのでここで演奏を聴いていると答えた。遠く離れていても、聞こえる訳である。
律達も俺がいる所に集合し、ゴロンと芝生に倒れて夜空を見る。ちなみに山中先生はテントで
寝ているそうだ。

「プロって、やっぱり演奏が上手いよなー・・・」

律の呟きに俺は・・・本音で

「でも、私達の演奏がすごいと思うんだよねー・・・」
「プロ相手に何を言うか!?」

律の言葉は正しい。俺達はプロでは無いし、演奏もそれほど腕があるとも思えないだろう。

「私達、一体感があると思うんだよ。『絆』で私達が一本一本強く結ばれていて、私達はいい演奏が出来るんだよ」

『絆』。俺は、軽音楽部を信じている。この『絆』はいつまで続くか分からないけど・・・それで俺は・・・

「そうだなっ!『放課後ティータイム』はすごいよっ!」

「澪まで!?」

「私もやる気が出ましたよ!律先輩!」

「あ、梓・・・」

「私も、『放課後ティータイム』は一番のバンドだと思うよ!りっちゃん♪」

「む、ムギまで・・・よーし!私も俄然とやる気が出てきたぞーっ!」

俺はいつか軽音楽部を去らなければならない。俺は軽音楽部に依存している。この『甘え』を断ち切るように・・・

「私達、ずっとこのメンバーで演奏したいです!律さん♪」

憂の願いは叶う事は出来るだろうか・・・・俺は・・・・このまま軽音楽部に居る事が出来るのだろうか・・・もちろん、卒業まで一緒なのだが・・・『その先』が見えない。見たくも無いかも知れない・・・俺は、まずは卒業まで、こいつらと思い出を作って、後悔しないように、俺は努力したいーーー

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