小説『誠の時代に』
作者:真田尚孝()

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…第零話 はじまりのお話…


「……よう……誠太(セイタ)。もう8年経ったよ?お前が失踪してからさ……」


俺はそう言って手を合わせ、閉じていた目をゆっくりと開いた。
微かな春風に揺られた線香の煙の匂いが、鼻腔を刺激した。


俺は鴫原勇作(シギハラ ユウサク)23歳。
そして俺が今いる墓に眠るのが、俺の幼馴染みの……二瓶誠太(ニヘイ セイタ)。


墓に眠ると言っても、遺骨は入っていない。要は魂なしのお墓と言うわけだ。
8年前の春……高校入学直後に失踪した誠太は、未だに見付かっていない。


だが民法の普通失踪の7年間の期間満了を迎えた去年、誠太の両親によって死亡届けが出されることとなった。
よって、ここには誠太はいない。未だに死んだのか生きているのかもわからないが、俺は後者を信じたい。


そう言いながらもこうして誠太の墓に足を運んでいる自分に矛盾を感じている

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