小説『誠の時代に』
作者:真田尚孝()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

あまりの勢いについつい押されてしまった。ふぅ……あの3人は元気の塊、むしろわんぱく小僧だな。
う?でも小僧はないか?みんな20歳はいってたよな?


「……俺は斉藤一……」

「うおっ!?」


いきなり背後でボソリと話し掛けられ、ビックリして飛び上がった。
そんな俺を斉藤さんは不思議そうに見ている。


「さ、斉藤さん……後ろからいきなり話しかけないでくださいよ……。あぁビックリした……」

「……すまない?」


何故疑問系?まぁ斉藤さんに怒る勇気はない、というか怒る気にはならないな。
恐らく無自覚でやってるから。


「さてさて、今度は私かな?私は井上源三郎……副長助勤なんだけど、隊士達の御飯なんかも作っているよ」


なんかお父さんみたいな人だな。誰とでも分け隔てなく接することができる感じだ。


「次は私ですかね。土方君と同じ副長の山南敬介。よろしく頼むよ、鴫原君」


この人も優しそうな雰囲気だけど、俺を見る目の奥が笑ってない……。まだ警戒されてるな。まあ無理もないけどさ。


「おっ!!俺で最後かな?俺がこの壬生浪士組の局長、近藤勇だ。何かわからないことがあれば俺かトシや山南君、そして今いる幹部達に遠慮なく聞 きなさい」

「はい!!ありがとうございます!!」

「近藤さん!!みんなの前でトシはやめてくれって言ってるだろ!?」

「む?そうだったか?すまんすまん……」

土方さんにそう言われ、近藤さんはふにゃっとした笑顔で謝った。

よかった……一時はどうなるかと思ったけど、みんないい人そうだ。
史実にある人斬り集団ってのは何かの間違いじゃないのか?

そんな感じで、この短時間で俺のこの壬生浪士組への第一印象はとてもいいものへと変化した。


浪士組の幹部の自己紹介が終わり、皆で雑談をしていると、廊下をこちらに向かってドタドタと走ってくる音が聞こえてきた。


「お、来たな」


そう言って永倉さんはニヤリと笑った。
確か遅れてもう1人来るって言ってたなぁ。
差ほど気にすることなく構えていると、足音の代わりに今度は幼さが残る声が聞こえてきた。


「すすすすすみません!!遅くなりましたぁぁあ!!二瓶ですぅっ!!」


よほど焦っているのか噛みまくっている。
襖の向こうにいる人のその様子に、土方さんは頭を抱えつつも入れと指示をだした。


スーッと襖が開き、藤堂さんより少し大きいか位の、これまた小さい男の子が入ってきた。
まだ頭を下げているせいで顔は見えないが。


「えっと……遅くなってすみません!!新しくいらした方初めまして。二瓶誠太です!!」

「えっ……?」


その名前とようやく上げた顔を見て、俺の思考が停止した。


そこにいたのは紛れもなく、俺の幼馴染みの二瓶誠太だったからだ。













……なんで失踪した誠太がここに……?それよりも8年も経ってるのになんであの時とほとんど変わってないんだよ!?


固まっている俺に気付いたのか、いつの間にか戻ってきた沖 田さんが声をかけた。


「ん?勇作さんどうしたんですか?」

「勇作?」


俺の名前を聞いた誠太が、沖田さんを見つめた。


「な、なんでお前がここにいるんだよ……誠太……」


俺は混乱する頭を落ち着かせようとしたが、あまりに驚きすぎて落ち着かせることができず、ようやく震える声を絞り出せた。

誠太は俺の顔をしばらく見つめると、ハッとしたような表情になった。


「えっ……勇作……な…の?」

-19-
Copyright ©真田尚孝 All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える