小説『誠の時代に』
作者:真田尚孝()

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「だから山崎の奴、あんな状態なわけだ……」

「勇作……取り敢えず謝っといた方がいいんじゃ ねぇか?」

ぱっつぁんが、広間の隅に横たわる烝の屍へと哀 れむ様な視線を送った。 何をされたらあんな魂が抜けたようになるんだ か……さっきから誰が話しかけても答えないし、反 応すらしない。

ちょっと冷た過ぎたかな……? 左之さんの言う通り取り敢えず謝っておいた方が いいかな?

色々と考えていると、今までピクリともしなかっ た烝が突然起き上がり、何処かへフラフラと歩い ていった。

よし、着いていこう。 俺が立ち上がると、4人共頑張れよーと声をかけ てくる。 総司は明らかにそんな気持ちはなさそ気だった が。

……

ここは烝の部屋の前。 ……なんか入りづらいな……普段通りのノリで入っ てみるか。

「烝ー?いるか?入るぞー」

スーッと抵抗なく開いた障子戸。 部屋の中は真っ暗で、部屋の中央には布団の上で 体育座りをして何やらブツブツ言っている烝の姿 が……。

……これは一体どうすれば? 話しかけにく過ぎる。 取り敢えず部屋の中に入り、行灯に火を付けて明 るくしてから烝の隣に座った。

隣に座った俺を光りのない虚ろな目で見上げてく る。……なんかちょっと罪悪感。

「大丈夫か……?」

「……これが大丈夫に見えるか?三刻弱も斉藤さん に捕まっとったんやぞ……わいやなかったらとっく に精神崩壊しとるぞ?」

精神崩壊って……一体何をしたの一君。 烝は「あかん、斉藤さんと聞いただけであれが 甦ってくる!!」と言って頭を掻きむしった。え?そ んなに? 烝の取り乱し様に、俺は一君に再度恐怖を感じ た。

「……悪かったな。置いてって……俺も少しやり過 ぎた気がする」

ポリポリと頬を掻いてちょっと誤魔化す。 烝は最初黙っていたが、体育座りを解除して俺の 脚の上に座り直した。 今回はまぁ何も言わないでおこう。

「……気にせんといて。今回はわいにも見捨てられ るだけの落ち度があったわけやし。勇作が落ち込 んどるとなんや知らん……わいまで気持ちが暗うな るわ」

そう言うと、俺の顔へとクルリと向いて心配そう に見上げている。 ふふっ……何だ?かわいい奴。 ホント……弟みたいな奴だなぁ。

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