小説『ハイスクールD×D 不屈の翼と英雄龍』
作者:サザンクロス()

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                  『プロローグ』





かつて天使、悪魔、堕天使。世界の命運を懸けた三竦みの戦いが行われていた。そんな中、暴れだすドラゴンが二体。名を赤龍帝ドライグ、白龍皇アルビオン。かの二体は神や魔王に匹敵し得る力を発揮し、戦場を乱しに乱した。その余りに傍若無人な行動に立ち上がる一体のドラゴン。彼女の名は、英雄龍ブレイズハート……











「付き合ってください!」

「悪い。無理」

それが月光夜明、人生初の告白に対しての答えだった。にべも無く告白を断られ呆然とする少女、天野夕麻を残し、夜明は一人暮らしのマンションへと帰宅。着替えた後、夕飯の材料を買いに近くのスーパーへと向かう。その道中にある公園で夜明は再び天野夕麻と遭遇した。

「死んでくれないかな?」

「お〜、これが噂のYANDE〜RE」

現実逃避と分かっていながらも、夜明は呟かずに入られなかった。最初は冗談の類かと思ったが、天野夕麻の目に宿っている殺意が本物だと言う事は容易に理解できる。

「あ〜……俺、お前に何か殺されるほど恨まれるようなことしたっけ? 俺の記憶にはそんな出来事、欠片も無いんだが……」

「別に。貴方は何もしいてないわ。ただ、貴方が私達にとって危険因子だから早めに始末しようと思っただけ?」

(私達? ってぇこたぁこいつ仲間がいやがるのか? オマケに危険因子ってなんやねん)

心の中で突っ込みを入れつつ、夜明はどうすればこの場を切り抜けられるかを考えていた。突破口を探そうと忙しなく視線を走らせる夜明を嘲笑い、天野夕麻はその背から何かを出現させた。黒い羽毛に覆われた、漆黒の翼。

「わぁ〜お、ファンタジー。人外相手か……無理ゲーじゃねぇかどう考えても」

「理解が速くて助かるわ」

内心、自分という人外魔境の存在をすんなり受け入れた夜明の適応力に驚きながらも、天野夕麻は片手を頭上に持ち上げ何かを顕現させた。背中から生えている一対の翼とは真逆の光り輝く槍。

「それじゃ、死んでちょうだい」

躊躇する素振りなど一切見せず、天野夕麻は光の槍を夜明目掛けて投擲する。諦観したような表情を浮かべながら夜明は空気を切り裂いて飛来する光の槍を見据える。無抵抗のまま、串刺しになるかと思いきや、

「だが」

「っ!?」

目にも止まらぬ速さで拳を振りぬき、夜明は光の槍を粉々に打ち砕いた。鮮血が舞い、光の槍を払った右拳からは筋肉と骨が顔を覗かせている。右手に走っているだろう激痛を意に介する様子もなく、夜明はさっきとは打って変わって精悍な表情を作って天野夕麻を睨む。

「例えどんな無理ゲーだったとしても、俺が生きる事を諦める理由にはならない」

流れ落ちる血をそのままに夜明は右拳を突き出す。

「悪いが、抗わせてもらうぞ。天野夕麻(ばけもの)」

「人間の分際でぇ!!」

さっきまで浮かべていた蔑みの表情を憤怒に変え、天野夕麻は再び光の槍を作り出した。脚を前後に開き、重心を落として構える夜明。

(どこまでやれるか分からない。それでもやってやる)

再度、固めていた覚悟を決めてこちらから仕掛けようとするが、それよりも速くこの戦いに第三者が介入した。

「人の身でありながら堕天使に挑むか。素晴らしい、やはり私達化物を倒すのは人間だ」

突如、二人の間に割って入った、燃え上がる日輪のような炎髪を持った美少女は一人で何度も頷いてから天野夕麻へと向き直る。

「この場は退け、堕天使。さもなくばリアス・グレモリーが眷属、夕暮太陽がその命貰い受ける」

「深紅の死神(スカーレット・デスサイズ)!? 何でそんなのがここに……! 良いわ、ここは退いてあげる」

炎髪の美少女、夜明の順に視線を寄越してから天野夕麻は漆黒の翼を羽ばたかせ、公園から去っていった。夕陽に染まった空の彼方へと消えていく天野夕麻を唖然と見ながら夜明は自分の窮地を救ってくれた恩人(?)に礼を言うために歩み寄る。

「いやぁ、どこの誰だか知らないけど助かった。ありがとなぁっ!?」

内臓を打ち砕くような衝撃に貫かれ、夜明はその場に崩れ落ちた。ブラックアウトしていく視界の中、夜明は炎髪の美少女を視界の中に収める。

「暫しの間、さようならだ人の子。近い将来、私達は出会うだろう。それまでの間に化物になってくれるなよ、人間」











「ってな夢を見たよ」

ぼんやりと頬杖を突きながら夜明は悪友二人に昨夜見た夢のことを話した。月光夜明の悪友、松田、元浜の二人は夜明から夢の話を聞いて顎に指を当てて何かを考え込んでいる。

「美少女に殺されそうになったところを別の美少女が助けに来る? 完全にエロゲのシチュエーションじゃねぇか」

「フラグ回収は確実だな」

と、勝手にヒートアップしていく二人をど阿呆が、と夜明は呆れ切った目で見ていた。

(にしても、妙にリアルな夢だったな……いや、本当に夢だったのか?)

傍らで、公衆の面前ではとても話せないようなことで盛り上っている二人を完全に無視し、夜明は右手の甲に視線を落とす。傷一つ無い白い肌だ。しかし、夢の中で天野夕麻が放った光の槍を打ち砕いた時の感触や痛みは鮮明に覚えている。

(それにあの赤髪の奴……何がどうなってんだか)

ため息を吐きつつ、夜明は真横で騒ぐ二人に拳を叩き込むのだった。














「良い夜だ……帰る前に散歩と洒落こむか」

アダルトDVDを一緒に観ようと誘ってくる二人を黙らせるのに放課後の全てを費やした夜明。二人から逃げた時には既に日はとっぷり暮れていた。真っ直ぐマンションに向かえば十分程度で到着するのだが、夜明は気晴らしに周囲を適当にブラブラすることにした。星空を見上げたまま歩き続ける。小一時間ほど歩き続け、首が痛くなってきた頃に夜明は歩みを止め、後ろを振り返った。

「ストーキングされる趣味は無いんだ。用があるなら正面から堂々と来いよ」

険しい表情を作っていると、闇の中からぬっとスーツ姿の男が出てきた。この男が自分に向けている物、それは夢の中に出てきた少女、天野夕麻と同じもの、即ち殺意だった。険しい表情を更に剣呑な物にさせる夜明へ男は歩み寄る。

「ほぅ。こうも容易く目的の人間に出会えるとはな。お前の力はとても危険なものだ。排除させてもらうぞ」

「そう言うと思ったよ」

回れ右して全速力で駆け出す夜明。真後ろの地面が爆発したように吹き飛び、夜明は態勢を崩すが受け身を取って事なきを得る。その際、一瞬だけだが男の姿が見えた。漆黒の翼と光の槍を持ったファンタジー世界の住人。

「天野夕麻と同じかよ……!」

小さく毒づきながらも夜明は脚を止めない。止めれば最期、今度こそあの光の槍に身体を貫かれる事だろう。

(冗談じゃねぇ。訳も分からないまま殺されてたまるかってんだ)

意地でも生き抜いてやると決心すると、何の前触れも無く夜明の走る速度が急上昇した。つんのめりそうになるのを堪え、どうにか倒れずにすんだ夜明は走りながら足下に視線を落とす。何処にでも売ってあるような変哲の無いランニングシューズ、それが蒼銀の輝きを放っていた。

(次から次へと何なんだ!?)

説明を要求したいところだが、この場に夜明の現状を説明出来るものは誰一人としていない。追ってきてるであろうスーツ男に聞くという手段もあるが、引き換えに命を失うだろう。考えるのは後にし、走る速度が上がったのをいいことに夜明は夜の闇を疾走していった。一頻り走り続け、両膝に掌を当てて夜明は荒い呼吸を繰り返す。

「ぜぇ……ぜぇ……ここまで来ればあんし「人間の割には速いな」だと思ったよ」

忌々しそうに吐き捨てながら後ろを振り返る。予想通りというべきか、そこには漆黒の翼を生やしたスーツ男が。よくよく考えてみれば、翼を持った生物から走って逃げ出せるわけが無い。

「体力の無駄使いここに極まれり、だな。よくよく見たらここ、俺があの化物に襲われた公園じゃねぇか……お前、天野夕麻の仲間か?」

「人間風情に答える義理は無い」

そうかよ、と答えながら夜明は目の前の男が天野夕麻と同族であると察した。漆黒の翼に光の槍、そして自分が人間じゃないかのような口ぶり。判断材料は幾つもある。

「夢じゃなかったのか、あれも……」

「何をしようが無駄だ。抵抗せずにさっさと死んでくれ」

顔を片手で覆い、天を仰いでいた夜明は男の言葉に愉快そうに笑い声を上げた。

「抵抗せずにさっさと死んでくれ? ふざけるなよ。お前がどんな化物か知らねぇが、それは俺が生きる事を諦める理由にはならない」

視線を下ろし、目の前の男を見据える。

「人間を舐めるなよ、化物」

「人間の分際で吼えるなぁ!!」

男が放った光の槍を迎え撃とうと構えたその時、夜明の眼前でド派手な爆発が発生した。爆発で光の槍は消し飛び、夜明は爆風に煽られ転がっていく。

「んがぁ! もう何だよ今度は!! ルシファーやサタンが出てきてももう驚かねぇぞごらぁ!!」

ついに堪忍袋の緒が切れた夜明は跳ね起きながら怒声を撒き散らした。爆風で舞い上がった砂塵で視界が制限される中、二つの紅い影が動く。

「堕天使を前にして逃げ出そうとせず、命を諦めもせずに抵抗の意思を見せる。確かに見所がある子ね。伊達に『兵士(ポーン)』を八つ全て消費した訳ではない様ね。時間をかけて育てていけば化けそうだわ。それに、神器(セイグリッド・ギア)も宿しているようだし」

「それもあるがな、リア。私がこいつに最も注目している点は別の部分だよ。さっきのこいつの台詞を聞いたか!? 『人間を舐めるなよ、化物』。やはり人間は素晴らしい! 股座が濡れるというものだ!!」

「太陽。少し下品よ、その言い方」

「あぁ、すまない。私の持論を証明してくれる奴が現れたかと思うとウキウキしてな……私達(バケモノ)を殺すのは何時だって人間だ」

砂煙が晴れ、声の主が現れる。一人は血のような紅、もう一人は炎のような紅。双紅は夜明を護るように男の前に立ちはだかっていた。

「あんたは昨日の」

「覚えていたか。まぁ、一日で忘れると言うのも無理な話ではあるがな」

「紅の髪……グレモリー家とヘルシング家の!」

「リアはともかく、私は当の昔にその名を剥奪されたよ。今の私はリアス・グレモリーが眷属、夕暮太陽だ」

太陽と名乗る炎髪は親指で紅髪を示す。リアと呼ばれた少女は一歩進み出ると、優雅だが凄みを感じさせる笑みを口元に貼り付けながら男を見据えた。

「御機嫌よう、堕ちた天使さん。リアス・グレモリーよ。この子に手を出すと言うなら一切の容赦なしに貴方を叩き潰すわよ」

「序に言うなら私も参加するからな。ミンチにすらならないぞ、お前」

リアスに続き、太陽が愉快気な表情を浮かべながら一歩を踏み出す。男は光の槍を顕現させたまま訝しげな表情を浮かべた。

「どういう風の吹き回しだ? そいつは人間だぞ。何故、悪魔の貴様等が人間を庇う?」

「この子は特例中の特例でね。この子は人の身だけど、私の眷属なのよ。それでどうするの? 退く? それとも私達に消される?」

「……ふん、眷属と言うのなら放し飼いにせぬ事だ。私のような者が散歩がてらに狩ってしまうかもしれないぞ」

「んなこたぁ言われんでも分かってる。とっとと失せろ」

しっしっ、と太陽がジェスチャーすると男は光の槍を消し、漆黒の翼を広げて夜空へと飛翔していった。男が完全に消えた事を確認してから二人は夜明の方を振り返る。困ったように頭を掻きながら夜明は二人の美少女を見比べる。

「あぁ〜っと、命の恩人ってことで良いんだよな?」

「正確に言うなら命の恩魔と言うべきだな」

「恩魔? まぁいいや。どっちでも良いから俺の現状って説明できるか? 正直、色々な事が二日の間に起こりすぎて胃がビックリゲロ吐きそうなんだが……」

夜明の問いにリアスは片目を瞑りながら立てた人差し指を唇に押し当てた。

「それは明日の放課後に説明してあげるわ。それじゃまたね。月光夜明くん」

おい! と夜明が手を伸ばすよりも早く二人は闇へと融けていった。魅力的な微笑を残して。

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