小説『ハイスクールD×D 不屈の翼と英雄龍』
作者:サザンクロス()

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               『非日常の始まり』





翌日である。彼、月光夜明は一人悶々としながら一日を過ごしていた。理由は言わずもがな、昨夜の出来事だ。

(昨日のあれはやっぱり夢だった、何て落ちは無いよな? それならそれでホッとするけど、あんなリアルな夢見るなんて寝てる時の俺ってどんなこと考えてんだ!?)

ひたすら思考に没頭していたせいか、教師に指名された事に気付かず、出席名簿を頭に振り下ろされたのも一度や二度ではない。ズキズキする頭を押さえながら呻き声を上げていると、放課後を告げるチャイムが校舎内に鳴り響いた。

(あのグレモリーって人が放課後に説明してくれるって言ってたが、どうなるのやら)

授業が終わって尚、うんうん唸っている夜明に近寄る人影が一つ。

「どうも。ちょっといいかな?」

声をかけられたので顔を上げる。机の横にはこの学園で一番のイケメンと名高い木場裕斗が立っていた。同学年ではあるが、何の接点も無い人物のコンタクトに夜明が困惑していると、察したのか木場は爽やかな微笑を浮かべる。

「グレモリー先輩の使い、って言えば分かるかな」

「あぁ、成る程。お前が説明してくれるのか? 昨日の事とか色々な事?」

「そのことも含めて説明してもらえるだろうから、とりあえずついてきてもらえるかな」

首肯して了解の意を示し、夜明は木場の後に続いて教室から出た。そのまま無言で歩いていくと、木場は夜明を校舎裏へとつれてきた。木々に囲まれたそこには旧校舎と呼ばれる建物がある。旧とは言っても、壊れたりしている訳ではないので、状態は良い。

「ここに部長達がいるんだ」

部長? と首を傾げながらも夜明は木場に続いて旧校舎へと入る。二階建て木造建築の最奥まで進むと目的の場所へとついた。扉についているプレートを見て、夜明は胡散臭そうな表情を作る。

「オカルト研究部……木場、俺をからかってるって訳じゃないんだよな?」

「うん。至って真面目だよ」

「オーライ。なら信じるわ」

扉を開いて中に入る。部長、連れて来ました、と言っている木場の横、夜明は壮絶に顔を引き攣らせていた。室内の至る所に刻まれた謎の文字。床、壁、天井を隙間無く埋め尽くし、中央には極めつけの巨大魔法陣である。Oh……と米国人風にため息をつく。ふと、ソファーに座っている人物と目が合った。一年生の塔城小猫だ。面識は無いがとりあえず頭を下げておく。向こうも眠たそうな表情で会釈を返してきた。

「どうでもいいが木場」

「何だい?」

「この部屋の奥から聞こえてくる音って」

シャーッという水音。そして部屋の奥にある二人分のシルエットを映したカーテン。

「シャワーだね。部長と太陽さんが浴びてるんじゃないかな」

そうか、と夜明は身体を扉のほうへと戻した。

「部長さんがシャワー浴び終わったら呼んでくれ」

「その必要は無いわよ。もう浴び終わったから」

「しかし、態々外に出る必要もあるまいに。初心だねぇ〜」

奥から制服を着込んだリアス・グレモリー、夕暮太陽。そして見知らぬポニーテールの女子が出てきた。

「初めまして。私、姫島朱乃と申します。以後、お見知りおきを」

「ども、月光夜明です。それで、説明してくれるんですよね、グレモリー先輩?」

ポニーテールの女子、姫島朱乃に挨拶をしてから夜明はリアスに説明を要求するのだった。













「まず最初に聞きたいんですが、昨日の晩に俺を襲ってきた男含め、あんた達って人間じゃないんですか?」

朱乃が出してくれたお茶を無視し、ソファーへと腰を座らされた夜明は単刀直入に訊ねた。向かいのソファーに腰を下ろしているリアスは特に言い淀むでもなく快活に答える。

「そうね。単刀直入に言うと、私達は悪魔よ」

「ついでに言うなら、お前を襲った連中は堕天使と呼ばれる存在だ」

リアスの隣りに座っている太陽も口を開く。悪魔に堕天使。実に厨ニの心を刺激するワードだが、生憎夜明はそんな心を持ち合わせてはいない。

「悪魔に堕天使ね……さよなら、俺の平和な日常」

「へぇ、あっさり認めるのか」

「流石にあんなこと経験したら誰だって信じますよ」

「話は戻すけど、太陽の言ったとおりあいつ等は堕天使と呼ばれる存在。元々は神に仕えていたんだけど」

「何かしらの理由で堕ちてあんた達の敵になった?」

理解が速くて助かるわ。リアスは笑みを浮かべる。

「私達悪魔と堕天使は大昔から争っている。冥界、人間のいうところの『地獄』の覇権を巡ってな。悪魔は人間と契約して代価をもらい力を蓄える。堕天使の連中は人間を操りながら悪魔を滅ぼそうとする。そこに神の命を受けた天使を含めると三竦み。それをまぁ永いこと続けてきたのさ」

太陽の説明に夜明は何ともいえない表情を作る。正直な話、素の状態の彼が聞いたら何も言わずに席を離れて彼女たちと二度と拘わらないようにするだろう。だが、昨夜の経験がある。頭ごなしに否定するには事実を見すぎた。

「それは分かりました。で、何で連中、堕天使は俺の事を殺そうとしたんですか? あ、その前に一つ。あの天野夕麻ってのは本当に存在してたんですか?」

問う夜明にリアスは携帯の画面を開いてみせる。そこには漆黒の翼を生やした天野夕麻が映っていた。

「……夢じゃなかったってことか」

「そう。それで堕天使達が貴方を殺したがってる理由だけど、それは貴方の身体に宿ってるものが原因だわ」

そこまで聞いたところで、夜明は昨晩、助けてもらった時のことを思い出す。

「神器(セイクリッド・ギア)……」

「そう、神器(セイクリッド・ギア)よ」

「神器(セイクリッド・ギア)とは特定の人物に宿る規格外の力。例えば、歴史上に名を残した人物のほとんどが神器(セイグリッド・ギア)の所有者だったと言われているんだ」

「現代でも神器(セイグリッド・ギア)を宿している人々はいるのよ。世界中で活躍する方々の多くも神器(セイグリッド・ギア)を有しているのです」

木場に続き、朱乃も説明してくれた。なるほどな〜、と頷いていた夜明はふとあることに気付いた。

「ちょっと待った。世界中で活躍している連中の多くが神器(セイグリッド・ギア)の所有者なんだとしたら、何でそいつらは殺されないんだ?」

「それは神器(セイグリッド・ギア)の大半が人間社会でしか機能しないものばかりだからよ。でも、中には私達悪魔や堕天使、果ては神までをも脅かす程の力を持った神器(セイグリッド・ギア)があるの。夜明、悪いけど立ってくれない?」

疑問符を頭上に浮かべながらも夜明は言われたとおり立ち上がる。

「目を閉じて、貴方がこの世で一番強いと思う何かを心の中で想像してちょうだい」

(この世で一番強い……)

目を閉じ、夜明は意識を心の奥底へと放り込んだ。自分にとっての最強とは何なのか? それを捜し求め、夜明は意識を更に深みへと沈めていく。

(俺の最強……アーサー王? ではない。ヘラクレス? でも無いな。何だ、俺の最強とは一体……)

趣味で読んでいた神話や英雄譚などが走馬灯よろしく駆け巡っていく。どれも好きな話ではあるが、最強と頷けられるものは無かった。とうとう、彼は心の奥底へと辿り着いた。

(そう言えば……)

ふと、ある話を思い出す。夜明が一番最初に読んだ英雄譚だ。それは一般的な神話や伝説のような華々しい物語ではない。何度も地に伏し、何度も踏み躙られ、何度も負けた。それでも決して屈することなく立ち上がり続けた英雄の物語。何度絶望に押し潰されようとも、何度身体をズタズタにされようとも諦めなかった者の英雄譚。確か、その者はこう呼ばれていた。

「不屈の翼」

刹那、さっきまで夜明が腰を下ろしていたソファーが粉々に吹き飛んだ。何の音もなしに粉砕されたソファーにびびる夜明。

「え、何? え、何!?」

肩越しに後ろを振り返った夜明は信じられないものを目撃する。それは翼だった。天野夕麻やあの男のように背中から生えている。しかし、色は全く違った。白、蒼、蒼銀。それぞれの色が一対ずつ。形容するなら天使と言うのがピッタリだろう。

「これは……とても悪魔には見えませんね」

二メートル近い大きさの翼三対をぎこちなく動かしている夜明を木場はそう評す。ちなみに木場の評価を否定するものは誰一人としていなかった。

「それが貴方の神器(セイグリッド・ギア)よ。ここで一度発現したから、今後は貴方の意思でどこにいても出せるわよ」

とは言われても、こんなものおいそれと出せるものではない。取り敢えず消えろと心の中で念じると翼は光の粒子となって消えていった。

「その神器(セイグリッド・ギア)を危険視されて貴方は天野夕麻やあの男に殺されそうになったの」

「天野夕麻の時は偶々散歩していた私が助けに入った」

男の時は狙って割って入ったがな、と太陽は楽しそうな表情を浮かべる。はぁ、と生返事をしながら夜明は考える。目の前の連中に自分は命を助けられた。そして彼女たちは悪魔。そこから弾き出される結論は……

「魂でもあげればいいんですか、俺?」

は? 全員の目が丸くなる。

「いや、だって悪魔なんでろ? だったら、命を助けてやったんだからその魂寄越して眷族にならんかいワレぇ、みたいな感じに」

「ならないならない。っていうかどこのヤクザよ私達は。まぁ、その点なら安心して良いわ。貴方は人間のまま私の眷属となったから」

人間のまま? 夜明の表情から何を考えているのか察したのか、太陽が口を開いた。

「私の我侭だよ。少し言い方が悪くなるが、お前は私の持論を証明するためのモルモットになってもらう」

少しどころではない言い方の悪さだ。モルモットと言われて好い気はせず、夜明は少しばかり表情を顰めるが、それよりも太陽の持論というものの方が気になった。

「その持論ってのは?」

「『バケモノを殺すのは何時だって人間だ』。太陽の持論であり、口癖よ」

「数多ある神話、伝説、英雄譚の中で最も多く共通している事柄さ。バケモノを殺すのは何時だって人間。私はそれを証明したい。お前のような人間が神器(セイグリッド・ギア)を有していてくれて私は嬉しいぞ」

少女のように笑ってみせる太陽。しかし、その笑顔の中に言いようの無い獰猛さを感じたのは夜明だけではなかった。顔を微妙に引き攣らせながらリアスは太陽から夜明に視線を戻す。

「改めて紹介するわね。祐斗」

「僕は木場祐斗。同じ二年生ってことは分かってるよね? これからよろしく、月光君。えーと、僕も悪魔です」

「一年の塔城小猫です……悪魔です」

「三年生、姫島朱乃ですわ。一応、研究部の副部長をやってますわ。これからよろしくお願いしますね。皆様と同じく、悪魔です。うふふふ」

「二年、夕暮太陽。敬語も敬称もいらない、フランクに頼む。言わなくても分かると思うが悪魔だ」

「そして私が彼らの主であり、グレモリー家のリアス・グレモリーよ。家の爵位は公爵。よろしくね、夜明」

かくして、月光夜明の非日常が始まった。










オマケ

「そう言えば、太陽って部長(リアスの事)さんのことリアって呼んでたけど、仲良いのか?」

「良いも悪いも、ガキの頃からの腐れ縁さ。リアが寝小便垂れた数だって知ってるぞ」

「んなぁ! ちょっとライト、何でそんなこと知ってるのよ!」

「その名前は剥奪されたってお前は知ってるだろうが、ったく……そんなんだからお前は何時までたっても私に勝てないんだ」

「……そう。ならこの場で下克上してあげるわ! 覚悟しなさいライト!!」

「上等、返り討ちにしてやるよリア」

「おぉ〜、戦争と形容しても過言ではない喧嘩が始まったなぁ。朱乃さん。部長の言ってるライトって何なんですか?」

「あぁ、それは太陽さんの渾名です。とある理由で太陽さんは本当の名前を剥奪されているんです。太陽さんの本当の名前はトワイライト=ヘルシングなんです」

「トワイライト、それでライトか。どうでもいいけど止めなくていいんですか、あれ?」

「学食でランチ、三回おごったぞぉぉぉ!!!!」

「私は十回おごらされたわぁぁぁ!!!!」

「良いじゃないですか。喧嘩するほど仲が良いなんて言いますし」

「はぁ……(絶対楽しんでるなこの人)」

-3-
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