小説『ハイスクールD×D 不屈の翼と英雄龍』
作者:サザンクロス()

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          『赤龍帝の力』




「私の名前、知ってるみたいだけど、礼儀として名乗っておくね。私はヴァンデューク・ルシフェル。愛と怒りと悲しみ、切なさと憎しみと馴れ馴れしさを込めてヴァンって呼んでね♪」

よろしくぅ! とヴァンデュークは二本指を上げる。それから隣に立つ褐色の肌の美少女を見た。

「ほら、ベティも挨拶する!」

ベティと呼ばれた美少女はちらっとヴァンデュークを一瞥し、深々とため息を吐く。視線を夜明達へと戻し、静かな声で名乗った。

「リベティア・レヴィアタン」

「レヴィアタン……まさか」

「ご想像の通りだ、グレモリー。私は旧レヴィアタンの血族。一応、カテレア・レヴィアタンは私の姉にあたる」

驚くリアスにそれがどうした、と言わんばかりに冷めた様子のリベティア。何かしらの確執がカテレアとの間にあるのか、カテレアの名を呼ぶ声に肉親の情は一切感じられなかった。

「で、お前ら何しに来たんだ? そいつらの回収か?」

夜明はルークとヤンを指差す。そんなとこかな〜、とヴァンデューク。

「やらせると思うのか?」

剥き出しの殺気と敵意を視線に込め、夜明はヴァンデュークを睨む。並の者なら多少は気圧されるであろう眼光。ヴァンデュークはそれをケラケラと笑いながら受け流した。

「もぉ〜、そんな怖い顔しちゃ駄目だよ英雄龍ちゃん。可愛い顔が台無しじゃない。ほら、笑って笑って!」

笑う門には福来るって言うでしょ? とヴァンデュークは自身の唇の端を指で持ち上げてみせる。どうやら彼女は非常にマイペースな人物らしい。その飄々とした態度に夜明は多少のやり難さを覚えた。

「そもそもその英雄龍ちゃんっての何だ? お前にそんな馴れ馴れしく呼ばれる筋合いは無いぞ」

「あり、ちゃん付けで呼ばれるの嫌? でも、白龍皇くんと違って英雄龍ちゃんは“ちゃん”のイメージなんだよね、私的には」

白龍皇くんより良い子みたいだし、と言いながら何か思い出したのか、ヴァンデュークは小さくため息を漏らす。まるでヴァーリを知っているかのような彼女の口振りに夜明は軽く眉根を寄せた。

「白龍皇くんって……ヴァーリのこと知ってるのか?」

「直接会ったのはこの間が初めてだけどね〜。それよりも聞いてよ! 白龍皇くんってば酷いんだよ! 私は少しお話がしたかっただけなのに、いきなり禁手(バランス・ブレイカー)発動して襲い掛かってきたの!」

話しながらその時のことを思い出しているのか、ヴァンデュークはフグのように頬を膨らませていた。プンプン、なんて擬音が視認出来そうな勢いだ。

(あいつらしいっちゃあいつらしいな)

どんな様子だったのか容易に想像でき、夜明は軽く苦笑する。眼前に現れた因縁の赤きライバル。それも、自分と同様に過去現在、未来永劫において最強と言われた赤龍帝。そんな状況で戦闘狂のヴァーリが我慢出来る訳も無い。夜明の脳裏には目を爛々と輝かせてヴァンデュークに突っ込むヴァーリの姿が浮かんでいた。

「ま、軽くめっ、てしておいたから少しの間は大人しくなってると思うけど」

「……ヴァーリ相手に軽くめっ、って何だそりゃ」

軽い調子で話すヴァンデュークに戦慄を覚えながら夜明は『駒王協定』の時のことを思い出す。夜明の知っている人物の中で最も強いであろう太陽が、多対一だったとはいえ本気で殺すつもりで戦っても倒せなかった者達。その内の一人が今、目の前に立っている。

『こいつは私の見立てだが……あの赤龍帝、白龍皇よりも強いぞ』

不意に太陽の台詞が脳内をよぎった。後ろを振り返り、リアス達を見る。それから自分をじっと見ているヴァンデュークへと目線を戻した。

(こいつ相手に部長達を守りながら戦えるのか?)

「ねぇ、英雄龍ちゃん。提案があるんだけど」

「……何だよ?」

僅かに体を強張らせながら夜明はヴァンデュークに視線を返す。燃える夕焼けのように赤い瞳で夜明を見つめ、ヴァンデュークは口を開いた。

「私と戦ってみない。勿論、君の仲間には一切手を出さないって約束するよ」

「何だ唐突に? ってか、そんな口約束信じられると思うのか?」

「この目が嘘をついてるように見えるのかなかな?」

くわっ! と目を見開くヴァンデューク。彼女の心意が分からず、夜明は警戒の眼差しでヴァンデュークを見ていた。少しすると、目が疲れたのかヴァンデュークは両手で両目を擦る。

「め、目が乾く……とにかく、君もこのまま私達を帰すつもりはないんでしょ? どの道、戦いは避けられないんだし、だったら後腐れのないように一対一で決着つけようよ」

どうする? 返答を待つヴァンデュークを見つめ、夜明はゆっくりと後方のリアスを振り返った。交差する視線。英雄龍の主は無言で頷く。

(貴方を信じるわ)

(分かりました)

リアスと目での会話を終え、夜明は再びヴァンデュークの方へと顔を戻す。

「その勝負、受けた」

「そうこなきゃ♪」

両手を合わせ、ヴァンデュークは楽しげに笑う。その笑顔には驚くほどに邪気が無かった。

「じゃ、ベティ。私達の戦闘の余波で周囲に被害が出ないようにしてね」

「勝手な事を……」

深々と嘆息するリベティアにお願い、と軽く頭を下げてからヴァンデュークは一歩踏み出す。同様に夜明も前へと歩み出た。

「それじゃ、始めよっか。行くよ、ドライグ!」

掛け声と共にヴァンデュークの左腕が赤く輝く。赤光が収束すると、彼女の左腕に『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』が装備されていた。

「行くぜ、皆」

夜明もブレイズハート達に呼びかけながら背中に三翼を展開させる。夜明が『英雄龍の翼(アンリミテッド・ブレイド)』を広げたのを見て、ヴァンデュークもその背から漆黒の翼を広げた。その数、二枚。

「随分と少ないんだな?」

最強の堕天使の子孫なのだから、コカビエルやアザゼル同様にヴァンデュークは複数の翼を持っていると思い込んでいた夜明は少なからず驚きの表情を浮べる。あぁ、これね、とヴァンデュークは自身の翼を摘んで引っ張った。

「本当は十二枚くらい生えてるんだけど、私の場合は一対に纏めてるんだ。ぶっちゃけ何枚もあると邪魔だし」

アザゼル辺りが聞いたら泣いてしまいそうな台詞である。どう返していいか分からず、夜明が引き攣った笑みを浮かべていると体の内側からエジソンが語りかけてきた。

〔気をつけなよ、夜明。一瞬でも気を抜いたら、多分死んじゃうよ?〕

(予想はついてたけど、そこまで実力に差があるのか?)

〔差がある、なんて生易しいレベルじゃないね。あの赤龍帝がその気になれば、君を含めてこの場にいる全員、数分も経たずに皆殺しに出来るよ〕

本当なら逃げるのが一番の得策なんだけどね〜、とエジソンはため息を吐く。

〔多分、向こうは様子見だけするつもりだろうし、最悪のパターンにはならないと思うけど〕

{今更ごちゃごちゃ言っても仕方あるまい。賽は投げられたのだ、戦う以外に道は無いぞ}

だな、とイスカンダルに返し、夜明はちら、とヴァンデュークを見てから三翼を羽ばたかせて空に目掛けて上昇した。ヴァンデュークも黒翼を動かし、少し遅れて夜明に続く。ある程度の高さまで上がると、夜明はその場に止まってヴァンデュークを見返る。ヴァンデュークも夜明のいる高度まで昇ってきた。紫色の空の中で対峙する二人。

「行くぞ」

「こっちは何時でもオッケィだよん」

夜明は両手に銀翼蒼星を、ヴァンデュークは左手に光槍を創り出す。夜明は銀翼を天に向けて掲げながら吼えた。

「彼方にこそ栄え在り(ト・フィロティモ)!!」

虚空を切り裂くように銀翼を振り下ろすと、夜明の周囲に次々と様々な種類の武具が現れ始めた。剣、槌、矛、斧、槍等の様々な武器が次々に顕現される。その数は千を越えて尚、増え続けていた。

「行け!!」

おぉ、と感嘆の声を漏らすヴァンデュークに夜明が銀翼の切っ先を向けると、彼の周囲に生まれた武器群は音も無く射出され、怒り狂う蜂の大群のようにヴァンデュークへと殺到する。

「まずは物量で私を押し潰そうって訳かな? お姉さん、受けて立っちゃおうかな!」

迫り来る武器群。壁のように迫り来る数多の武具を前にして、ヴァンデュークは物怖じするどころか不敵な笑みを浮かべて光槍を構えた。ヴァンデュークの動きに応えるようにブーステッド・ギアの宝玉が輝きを放つ。

『Boost!!』

その音声と共にヴァンデュークのオーラが激増する。ヴァンデュークは全てのオーラを光槍へと集中させた。大量のオーラを流し込まれ、光槍から目を射潰さんばかりの光が放たれる。

『Explosion!!』

「そぅれっ!!」

機械的な声がするのと同時にヴァンデュークは光槍を無造作に振り抜いた。光槍から放たれた光の波は一瞬で武器群を呑み込む。光が収まると、さっきまでヴァンデュークを押し潰すばかりの勢いだった武器群は欠片すら残っていなかった。たった一つの行動。それだけの挙動で夜明が創り出した武器群は塵も残さずに消し飛ばされていた。

「……」

眼前の光景が信じられず、夜明は唖然と口を半開きにしていた。そう簡単に目の前の敵に一撃を与えられるとは少しも考えていなかった。だが、こうもあっさりと自分の攻撃が一蹴されるなど、思ってもいなかった。

(呆けている場合ではないぞ、奏者! 向こうの攻撃が来るぞ!!)

ブレイズハートに叱咤され、夜明がハッとすると、既にヴァンデュークが光槍を投擲する体勢に入っていた。すぐさま、夜明は目の前に『復讐誓いし女神の凶星(ネメシス)』を展開させる。それに構わず、ヴァンデュークは夜明目掛け、光槍を投じた。ヴァンデュークの手元を離れた光槍は空を斬り裂き、一撃で『復讐誓いし女神の凶星(ネメシス)』を撃ち貫いた。

「っ!?」

反射的に身を仰け反らせた夜明の鼻先で光槍の穂先が輝く。一瞬でも反応が遅かったら、夜明の眼前にある穂先は彼の顔面を貫いていただろう。

「ぶち抜けなかったか。やっぱ、倍加させた方が良かったかな」

一人ぶつぶつと囁きながらヴァンデュークは再び光槍を左手に生み出す。

「さて、次は防げるかにゃ、英雄龍ちゃん?」

再度、ヴァンデュークは投げ槍の構えを取った。ブーステッド・ギアの宝玉は赤く輝き、光槍の威力を倍増させていた。それに伴い、光槍が赤く染まっていく。

「そりゃ〜!」

掛け声と共に放たれる赤い光槍。反射的に夜明は身構え、迎撃の姿勢を見える。しかし、光槍は大きく夜明の頭上を飛んでいき、遥か彼方へと消えていった。視線で光槍を追っていた夜明は無言でヴァンデュークに向き直った。

「ありゃりゃ、失敗失敗」

『相棒、どうもお前は大技をやろうとするととちる傾向がある。もう少し慎重に行け』

は〜い、とヴァンデュークが返事をしたその時、夜明の背後から光と衝撃が襲う。ぎょっとしながら振り返ると、遠方に赤い光の柱が立ち上がっていた。間違いなく、先ほどヴァンデュークが投げた光槍だ。

(あんな物、もし防ごうとしてたら)

間違いなく防御ごと消し飛ばされていただろう。背筋に冷や汗が伝う感覚を覚えながら夜明は改めてヴァンデュークを見る。ヴァーリ同様、過去現在、未来永劫において最強といわれた赤龍帝。そしてヴァーリよりも強いと言われた人物。

(生半な攻撃は通用しねぇ!!)

銀翼蒼星を放棄し、夜明はその手に最強の幻想を創り出す。おっ、とヴァンデュークは夜明が創造している物を見て、面白そうな表情を浮べていた。

「見て見てドライグ。英雄龍ちゃん、エクスカリバー創ってるよ。綺麗だね〜」

『おいおい、そんな悠長に構えてて良いのか? 相手は曲がりなりにも『最強の幻想(ラスト・ファンタズム)』だぞ』

「正面から勝負ってのも面白そうじゃない。よし、来い!!」

ガン! と両の拳を合わせ、ヴァンデュークはブーステッド・ギアを纏った左手を突き出す。片腕一本で『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』の斬撃を受け止めるつもりのようだ。

「約束された(エクス)……勝利の剣(カリバー)ぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!!!」

咆哮と共に黄金に輝く聖剣が振り下ろされた。放たれた斬撃は黄金に光りながら最強の堕天使へと迫る。堕天使は究極の斬撃を、

「そうりゃ!!」

左腕一本で受け止めて見せた。表情こそ険しいが、その場から動く様子も無く、ヴァンデュークはエクスカリバーの一撃を受け続けていた。

「そぉ〜……れっ!!」

ヴァンデュークは大きく左腕を振り抜いた。霧散する光の斬撃。信じられない、と夜明は目を見開いていた。

「エクスカリバーが、片腕で……防がれた?」

一方のヴァンデュークは薄っすらと目じりに涙を浮べながら左腕を軽く振っていた。

「いったた……やっぱ、片腕で今のを防ぐのは無理があったよ。ってかさ、英雄龍ちゃん。そろそろお遊びは止めない?」

「遊び?」

首を傾げる夜明にヴァンデュークはそ、と頷いて見せた。

「手の内を明かしたくないのか知らないけど、禁手(バランス・ブレイカー)にならないじゃん、君。流石にその状態で勝てるほど、お姉さん甘くないぞ」

ピッ、とヴァンデュークは夜明を指差す。

「なりなよ、禁手(バランス・ブレイカー)に」

「……別に遊んでたり、手の内を明かしたくなかったりって訳じゃないんだがな」

以前、ヴァーリとの戦いで夜明は圧倒的な実力差があるにも関わらず禁手(バランス・ブレイカー)無しで勝利した。今回も、もしかしたら禁手無しで勝てるのかもしれない、と少なからず思っていた。しかし、その考えは砂糖よりも甘い、と今しがた思い知らされた。全力で立ち向かわなければ、目の前の敵には勝てないとも。

「もう、そんなバカな考えは捨てた。行くぜ、ブレイズハートォォォッッ!!!!!」

『おぅさ!!』

二人の叫びに呼応し、アンリミテッド・ブレイドから極大のオーラが放たれる。三翼から放出された蒼銀のオーラは一瞬、オーロラの様に空を漂ってから夜明の全身を覆う。オーラが鎧を形成していくのを感じながら夜明はミリキャスと一緒に考えた名乗り口上を叫ぶ。

「紅蓮の誓い在りしところ、不屈の羽ばたきあり!!!!!」

『Brave Dragon Balance Breaker!!!!!!』

爆発的な光を放ちながら『英雄龍の鎧(アンリミテッド・ブレイド・スケイルメイル)』が夜明を包む。おぉ! と目を輝かせるヴァンデューク。三翼を勢い良く広げ、オーラを放出しながら英雄龍は吼えた。

「ドラゴンヒーロー、参上!!!!!」

「成るほど、英雄龍だからドラゴンヒーローね。名乗りながら変身だなんて、男の子だねぇ」

夜明の禁手を前にしても、ヴァンデュークの飄々とした態度は崩れなかった。寧ろ、その瞳は期待に満ちており、幼子のように輝いていた。夜明はヴァンデュークに見せつけるように右手を突き出す。

「これが今の俺の全力全開……エクスライズ!!」

夜明の声に応じ、黄金の光が彼の右手に宿る。その光は数秒と経たずに絢爛な長剣へと姿を変えた。全体の長さは夜明の身長ほど。鍔には黄金の宝玉が埋め込まれている。エクスライズを構えるや、夜明は背中の翼を羽ばたかせて流れ星のようにヴァンデュークへと肉薄していた。

「おぉ、中々速いね!!」

感嘆の声を上げ、ヴァンデュークは黄金の軌跡を描きながら振り下ろされた長剣を光槍で受け止める。衝撃で大気が揺れ、黄金の長剣と光の槍の鍔迫り合いは周囲に金色のオーラを撒き散らしていた。

「これは、中々……!」

圧され始めたのはヴァンデュークだった。禁手化(バランス・ブレイク)した夜明の実力を正確に測ろうとして、ブーステッド・ギアを発動させなかったのが裏目に出た。エクスライズの一撃を受け止めた左腕は震え、光槍は小さく悲鳴を上げている。

「おらぁ!!!!」

強引にエクスライズを振り抜き、夜明はヴァンデュークを大きく弾き飛ばした。吹き飛ばされながらヴァンデュークは黒翼を広げ、すぐにブレーキをかけた。体勢を立て直し、すぐに夜明を視界に収める。刀身を黄金に輝かせたエクスライズを高々と振り上げていた。

「『勝利を射殺す百頭の剣(エクスカリバー・ナインライブズ)』!!!!!!!」

刀身から撃ち出された光の斬撃は龍の咆哮の如き音を上げながらヴァンデュークに迫る。

「痛いのは勘弁!」

ヴァンデュークは迎撃の構えを見せる。斬撃を防ぐため、光槍を振りかぶった刹那、ヴァンデュークの眼前で黄金の斬撃は九発に別れた。

「っ!?」

考えるよりも先に体が動いた。ヴァンデュークは無意識の内に光槍を神速で振り、斬撃を叩き落した。しかし、彼女が防げたのは五発までだった。残りの四発は光槍の邀撃をすり抜け、ヴァンデュークの両翼、胴体と胸部に命中した。エクスライズの直撃を受け、ヴァンデュークは黒い羽と鮮血を撒きながら落下していく。

「『突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ)!!!!』

追い打ちと言わんばかりに夜明は紅の魔槍を落ちていくヴァンデューク目掛け投げ放った。主の手元を離れた魔槍は雷撃のように閃き、ヴァンデュークに襲いかかる。

「ちょっ、容赦なさ過ぎない!?」

情けない声を上げながらヴァンデュークは心臓を貫こうとするゲイ・ボルグの穂先を掴んだ。そのまま地上へと墜落、その衝撃で派手に砂塵を噴き上げる。

「……」

朦々と立ち込める土煙を油断無く睨みながら夜明はゆっくりと地面に降りた。数秒経過しても変化は見られなかった。

「夜明!」

呼び声に振り返ると、リアスを先頭にグレモリー眷属、シトリー眷属が走り寄ってくるのが見えた。リアス達から少し離れたところにはリベティアの姿もある。片手を上げ、夜明はリアス達を制する。

「何時まで狸寝入り決め込んでるつもりだ?」

「いや、狸寝入りしてる訳じゃないよ。ただ、洒落にならないくらい痛かったから悶絶してただけ」

ヴァンデュークの答えと同時に風塵が吹き飛ぶ。砂埃が晴れるとそこには小さなクレーターがあり、その中心で涙目になったヴァンデュークが自身の翼を撫でていた。

「結構痛かったよ……やるもんだねぇ。ついこの間、禁手(バランス・ブレイカー)を会得したとは思えないよ」

少し侮りすぎてたかなぁ、と独り言のように囁きながらヴァンデュークはエクスライズの直撃を受けた部分を確認する。胸部と腹部は軽く出血していた。背中の黒翼も、一部分羽が無くなっており、そこから血が流れていた。

「ねぇ、ベティ! ちょっとお願いがあるんだけど」

出し抜けにヴァンデュークは大声でリベティアに呼びかけた。

「……何だ?」

「ちょっとあれやるから私と英雄龍くんを次元の狭間に送ってくれない? 流石にここら辺一体を更地にするのも気が引けるし。あ、ついでにギャラリーの皆様もね」

「あれを使うつもりか?」

無機質な声に僅かな驚きが混じる。リベティアは一瞬だけ夜明に視線を送り、ヴァンデュークを見た。

「そいつ、死ぬぞ」

「ん〜。まぁ大丈夫っしょ。最悪、死ぬ一歩手前で止めるって。今の英雄龍ちゃんがどこまでやれるのか見ておきたいんだ」

数秒沈黙し、リベティアは小さくため息を吐く。それが承諾の証であることを長い付き合いで知っているヴァンデュークは相好を崩す。

「『皇鮫后(ティブロン)』」

リベティアの手に一本の剣が現れた。中身をくり抜いた、段平のような形状だ。リベティアは手の中でその剣を一回転させ、地面へと突き刺した。瞬間、周囲の風景がぐにゃりと歪む。

「これは!?」

「騒ぐな。次元の狭間に移動しただけだ」

警戒するリアス達に鬱陶しそうに言い放ち、リベティアは剣を引き抜く。すると、リアス達に降りかかっていた異変が唐突に終わった。そこは広大な空間だった。表現するならば荒野がぴったりだろうか。かなり広い空間で、ところどころに岩のような突起物がある。

「……こんなとこに移動して、何のつもりだ?」

「英雄龍ちゃんってさ、根性論とか好きなタイプ?」

夜明の問いを軽く受け流し、ヴァンデュークは訊ねた。ヴァンデュークの目的が分からず、夜明は押し黙った。それに構わず、ヴァンデュークは一人で話を続ける。

「私は結構好きなんだよね〜、根性論。実際、実力があっても精神が伴ってないと本来の力って発揮できないしね。グレモリーちゃんとこのヴァンパイアちゃんみたいに。ってか、英雄龍ちゃんって諦めずに戦い続ければ絶対に勝てるって思ってるタイプでしょ?」

夜明は返事をしなかったが、ヴァンデュークの質問に対する答えは「はい」だ。彼は誰が相手だろうと膝を折らず、戦い続けた。不死のフェニックス然り、古の堕天使然り、歴代最強の白龍皇然り。どの戦いでも夜明は諦めなかった。そして勝利をもぎ取ってきた。

「それ自体は悪いことじゃないよ。胸を張って誇れる素晴らしいことだ」

でもね、と言葉を続けたその瞬間、ヴァンデュークの雰囲気が一変した。飄々とした態度と入れ替わるようにとんでもない殺気と重圧が放たれ始める。そのプレッシャーたるや、夜明の身を竦ませるほどだった。

(何、だ……こりゃあ!?)

「この世界にはね、根性論だけじゃどうにもならない相手がいるんだよ」

「……へっ、それがお前だってのか?」

少なくとも今の君じゃ手も足も出ないかな〜、とヴァンデュークは口角を吊り上げた。

「一度、君はそういう相手と戦うべきだね。そしたらきっと、もっと強くなれる……じゃ、行くよ」

刹那、

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッ!!!!!!!!!!!

次元が揺れた。比喩ではない、世界その物が揺れていた。空間が振るえ、絶叫している。そしてその原因である赤龍帝は柱のように発生させた赤いオーラで周囲一体を照らし、次元を鳴動させていた。その身から放たれるオーラで周囲を破壊しながらヴァンデュークは歌うように言葉を紡ぎ始めた。

『我、目覚めるは、覇の理を神より奪いし二天龍なり』

その声はただっ広い空間に不気味なほど大きく響いていた。

『無限を嗤い、夢幻を憂う』

ヴァンデュークの姿が変化していく。いや、覆われているという方が表現としては正しいだろう。彼女の体を包んでいくそれは夜明のアンリミテッド・ブレイド・スケイルメイルに似ているが、その本質が全くの別物だということは放出されるオーラの禍々しさから容易に理解できた。

『我、赤き龍の覇王となりて』

ぎらり、と赤く輝くヴァンデュークの目が夜明を捉える。その視線に射抜かれ、夜明は自分の奥底から感情が溢れ出てくるのを感じた。それは俗に“恐怖”と呼ばれるものだった。

『汝を紅蓮の煉獄に沈めよう』

『Juggernaut Drive!!!!!!!!!!!!!』





※どうも、こんばんわ、サザンクロスでっす。最近、何事においてもやる気が出ない。寧ろ、全ての物事に対して虚無感を感じる……。思うんですよ。人間、いつ何時死ぬか分からないんだから、どれだけ頑張ろうと無駄じゃね? って。これじゃいかんのは分かってるんですが……ま、どうにか頑張っていきます。

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