小説『いじめ』
作者:小紗(小紗の小説部屋)

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「おはようございます。華璃様」

登校途中の同級生の声。
能野 吏子(よきの りこ)だ。
媚びへつらうような言い方で、恐れを抱いた表情をしている。
常葉 華璃(ときわ はなり)はそれに気づいていなかった。
「おはよう。吏子」
華璃はにこりと笑った。
自身は明るく笑ったつもりだったが、吏子には冷笑にしか思えない。
それほど、華璃を恐れていた。
「吏子も、様だなんてつけないでもう少し馴れ馴れしくしてほしいわ」
華璃が言う。
「とんでもありません。華璃様。私なんかが…」
吏子は冷や汗をかきながら言う。
華璃は嫌ったものは徹底して、不幸の底へおとしめる。
残酷なほどのやり口を利用して。
吏子もいつ華璃の機嫌を損ねるか分からない。
今は機嫌よくしているが、それもどうなる事か。
そんなことを考えているうちに、昇降口についた。
「く、靴くらい私が片付けますから、華璃様は教室に行ってて下さい」
いつもの様に言い、靴を片づけた。
「そう?悪いわね。吏子」
華璃はそう言って、そうそう…と付け足した。
「彼女のゴミ、一応やっておいてもらえる?」
華璃は軽蔑を込めて言う。
「市古 美久(いちご みく)の上靴に水を入れておくということですか?」
吏子は恐る恐る言った。
「もっと過激でも構わないわ!」
華璃は堂々と言い、高笑いをしながら教室へ行った。
「イチゴ…」
華璃が去ってから、吏子はつぶやいた。
(ゴメンね。イチゴ、私ここまでにとどめておくことしかできない。
やめさせることさえできない…)
吏子は泣きそうになりながら、かつての親友の上靴に水を入れる。
(わたしに何かできることはないの……?)
うつむきながら考えた。
でも…そんなことをしたらひどくなるかもしれない。
今は陰でいじめるだけですんでるけれど、表でやられたら…。
吏子は想像するだけで恐ろしい。
「吏子……」
懐かしい声が吏子の耳に入ってくる。
吏子ははっとして振り向いた。そこには美久がいた。
吏子は一瞬そこでとどまり、教室へ走って行った。
美久は1人、昇降口に残された。


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