小説『とある孤独な吸血鬼』
作者:不知魚()

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「ふあああああ〜……」
能天気に夜の街を歩く一人の少年。
「――全く、ゆーくんがそんなことだから補習なんてことになるのですよ!? って、聞いているのですか!!」
「聞いてる聞いてる」
目の前を歩く一人の少女に苦笑しながら少年は言う。
「のんちゃん様、ひじょうにおっかないであります!」
「……」
おちゃらけたように言う少年は、雑賀悠(さいがゆう)という。
無能力者(レベル0)のそのへんにいるバカ生徒1である。
現在8時過ぎ、学校の補習と題した、盛大ないたずらをしに忍び込み、幼馴染に見つかってバカ仲間と一緒にぶっ飛ばされてしょっぴかれた。
今年で16にもなるくせに、今だにやんちゃ坊主のようにいたずらをしまくっては風紀委員(ジャッジメント)やその他色々に目を付けられている馬鹿である。
見るからに幼い顔がけらけら反省もせずに笑っている。
小柄な150センチの身長もあり、全身が笑っている感じがする。
「……。お灸が必要ですね、ゆーくんというひとは」
対する少女はぷるぷると拳を握らせて紅い顔で怒っているぞと表現していた。
見た感じ彼女も幼い。中学生に見える。
顔立ちも可愛らしい少女だ。ライトブラウンの制服は某有名な女学院の物だ。
癖っ毛の茶髪もピリピリ音を立てて――音を立てる?
「げっ!?」
悠がヤバイと感じたときにはもう遅かった。
凄まじい金色の輝きが彼女から発せられた。
「ゆーくん、今日は怒りましたよわたしはぁ!」
可愛らしい怒鳴り声が夜の住宅街に響く。
悠が最後に見たのは金色の雷撃の翼で自分が黒こげの魚よろしく調理されるところだけだった。
「ぎゃああああああああああ!!」
悠はあっさり調理された。




意識を取り戻したのは近くの公園だった。
彼は痺れる体を、まさかのブランコの天井に逆さにして吊るされていた。
多分体の中で電気を流されて自分は電磁石にでもされているんだろう。
「……」
それを見上げる幼馴染。完全に怒っている。
ピリピリした電気が彼女の怒りに反応して火花を散らしているのだから。
「のんちゃんさま、ご慈悲を」
「ダメです」
一蹴された。
悠はシクシク泣き出した。
彼女にあらゆるもので悠が勝てる道理はまずない。
小さい頃からこうして悪さするだけで10万ボルトを食らわされて生きてきた。
どこの電気ネズミのような彼女の能力のせいだ。
この学園都市では能力開発しているのは有名な話だ。
開発には、個人差で失敗例と成功例というのもがあるのだ。
で、悠は失敗作。彼女――神奈のの(かんののの)、通称のんちゃんさまは成功例である。
普通ここまで実力差があれば関係に亀裂が入るのは当たり前の場所だ。
現実にこの能力の強さでランク付けされるこの場所では悠は失敗作として、ののは成功例として扱われる。
だが。ののは失敗作扱いされた彼のそばにいることを選び、今もこうして馬鹿騒ぎに付き合ってくれている。
本当ならいいところのお嬢様学校に通うはずだったのに、無理して普通の中流学校に通っているのである。
「体がっ、体がぁぁ〜」
悠はビリビリする体の異常を訴える。
「無駄ですよ? 何なら、神経ビリビリして欲しいですか?」
「やめてくださいお願いします」
能力にはそれぞれレベルというものがある。
悠は底辺の無能力者。つまり、ない。
何も出なかったのである。
計測不可なほど微量、ではなく、全く何も出なかったのである。皆無だったのだ。
頭に電極を差して行うこの取り組み、悠のような何にも出ない例も稀だとか言われて呆れられた。
対するののは、大能力者(レベル4)という上から二番目のエリートだ。
本人曰くあまり強い能力ではないらしいが、便利である。
『電極の翼』(サンダーバード)という風に名付けられたこの能力は歩く発電機という情けない二つ名をののに与えた。
原理はののが説明しても、半分も聞き流していたバカ悠には理解できなかったが要するにデンキウナギとおんなじようなものらしい。適当にざっくり言うと。
「もう、いい加減にしてくださいね?」
「……はい」
ニッコリと笑うと電気を流すのをやめる。
途端、ブランコの上からたたき落とされた。
悶絶する悠にののは「いい罰ですね」とか笑っていた。
このときまだ二人には危機は迫っていなかった。
――そう、このときはまだ。

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