八月十四日。彼女は目を覚ます。
額に流れる汗を拭いもせず、ただ、猫を抱きしめながら、
「まただめだったよ」
と、暗い暗い部屋の中、一人涙を流しながら呟いていた。
八月十五日。
彼と約束した時間に急いで向かったが、彼はいなかった。
公園の、木陰近くのベンチにも誰もいない。電話をしたけれど、通じなかった。
本当に、彼は死んで……。そんなことはない。そんなの嘘だ。嘘に決まってる。
「嘘じゃないよ」
私の後ろで、声が聞こえる。
恐る恐る振り向くと、揺らぎながら存在する陽炎が、私を苛む様に立っていた。
「嘘じゃないよ」
「嘘、よ」
「嘘じゃない」
陽炎の言葉に、彼の笑顔が蜉蝣の様に儚くなっていくのが、わかる。
私は、その場でうずくまり、涙を流して叫ぶしかできなかった。