東方鬼蠍独拒記
「…あーぢぃ、絶対去年より暑くなってるだろ、これ」
オレは意識せずともそうぼやく。と言うかぼやきたくなってしまう。何せ一昨年より去年、去年より今年のほうが熱くなってきてるんだ。熱中症患者も増えてるし。
「頼むから友人関係の奴らで『熱中症で死にました、テヘッ☆ミ』みたいなのは出てこないだろうけど…だめだ、本気で出てきそうで怖い…」
いろんな意味で戦々恐々しつつ、信号が青になるのを待っていた矢先、
「やあ、泡沫君」
いきなり声を掛けられた。この声は…
「よう、グル。お前は暑さにやられて無いか?」
「大丈夫だよ。ここより暑い場所知ってるから、そこに比べちゃえば、全然。君こそ、今日は通り魔に遭遇してない?」
「今のところは、な…」
こいつはオレの誇るべき友人、グル。大学に入ってすぐに出来た友だ。
ただ、金髪で顔立ちも何と言うか、こう…エキゾチック?で、天然の女誑しだ。しかし、何故か誰もこいつの生まれの国も知らないし、本人も言わない。何故だろうか?
因みにオレの名前は数多 泡沫。一応働きながら大学に行ってるあと三日で二十歳の青年だ。…はいそこー、名前が中二病とか言わない。
そして、今こいつが言ったこの発言、分かりづらいと思うので簡単に言うと、オレは恐ろしいくらいに不幸なのだ。警察官に勘違いで逮捕されかける事もあれば、通り魔に一日二回以上遭遇するなんてざらにある。
よって、今日は今のところそういった不幸に遭遇していないのだが、逆にそれが不安になる。
「あ、信号が青になったよ?渡ろうか」
「ん?おお、そうだな」
そういって二人そろって歩道を渡っていた時―――
ギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥイイ!!!
「え?」
「ッ!馬鹿危ねえ!!」
車が信号無視して突っ切ってきやがった!そう思いながらオレは反射的にグルを突き飛ばす。そうして―――
ゴシャァァァァァン!!!
思いっきり車に跳ね飛ばされ、路上を二、三回と飛び跳ねながら転がる。転がっていく最中、大量の赤い液体が見えた。恐らく、オレの血だろう。
…あいつは、無事か?
そう思い残りわずかな力を振り絞り首を動かす。そこには、無傷の、泣きながら走り寄ってくる友人がいた。
「――――!―――!!」
「…悪い、なに言ってるか、分かんねえや。でもさ…」
オレは一呼吸おいて、
「オレの分まで生きろよ?友人?」
「!――――!―――――!!」
そこまで言って、オレの意識は、途絶えた―――――――――
――――――――――――――筈だったんだが
「で、ココ、どこよ?」
「えーと、何にもない部屋?」
おいおい、そのままじゃ無いか…ていうか!
「グル!何でお前がここに居るんだよ?!……いや、『何でそんな事聞くの?』みたいな顔すんな!」
「んーとね、まずここに君が居る理由だけど、君の魂をここに留めているから、かな?」
…え?は?ちょ、ちょっと待て?
「てことは何だ、これは夢オチか?グルも魔法使いみたいな格好してるし」
「?よくわからないけど、夢ではないよ」
…そこはそうだよと言ってもらいたかった…
「それでね、僕のこの格好だけど、ちゃんと理由があるからね?」
「理由?何だそりゃ」
「『グルスキャップ』って聞いたk「グルスキャップ?確か…北米の?」あ、その反応は聞いたことあるみたいだね?」
グルスキャップといえば、確か北米民族の神話に登場する、『世界で最初に生まれた男』で、怪物を倒し、鯨に乗り、けど赤子に負けた伝説の魔法使いじゃなかったっけか?
「そうだよ?」
「人の心を読むなよ!?」
「あ、そうなの?ゴメンね。それで、君をここに呼んだ理由だけど、恩返しが出来てなかったからね」
「…恩返し?なんのことだ?オレはお前にそんな恩を売るようなマネはしてないぞ?」
「いや、してくれたよ。僕が初めてこの国に来たとき、知識はあっても環境に慣れてなかったからね。そんな中、僕と友達になってくれたのは君だけだった。君はいろんなことを教えてくれたし、僕は君に何度も助けられた。そして、僕はいつか君に恩返しがしたいと思ってた。でも、それを為す前に君が死んでしまったから、せめて、それ位はと思ってね」
…オレは、本当にいい友人を得たらしい。こいつは本当に―――
「―――馬鹿、んなこと、気にしなくて良かったんだよ」
「な!?馬鹿はひどくないかな?」
「今のお前は馬鹿で十分だ。オレは押しつけ善意でやってたつもりだったんだ。だから、お前に感謝される筋合いはあっても、お前が恩返しする必要性はねえよ」
これは偽りなき本音だ。逆にオレにとって気にしなくていい程度の認識だったのにそこまで言われると、凄まじく背中がムズ痒くなる。
「だからよ、気にする必要なんt「気にするさ!」」
「初めてできた友達が目の前で死なれたんだよ!だったら、力を持つ者として、ほっておけるわけないじゃないか!そもそも君は―――」
「んだと!?それを言ったらテメエだって―――」
しばらくお待ちください…
「はあ、分かったかい?とにかく、僕は君に恩返しがしたいんだ」
「…ああ、よく分かったよ」
結果、オレのほうが折れ、転生する羽目になりましたよ、畜生め。
「それで、思いつく範囲内で、転生って言うのがあったんだけど…」
「転生?記憶を持ったまま来世を生きるってヤツか?」
「そういうのも含めるし、所謂『ちーと』って言うのもつけられるよ?あ、ゲームとかの世界でもいいよ?」
「そんな世界もありなのかよ…」
…こりゃあ、腹ぁ括るしか無いか。
「…じゃあよ、オレが考えたオリジナルでもいいのか?」
「全く問題ないよ。むしろ、僕の方がそうしてほしいくらい」
「満面の笑みでそんなこと言うな。じゃあ…そうだな、『刀を扱う才能』『動物に好かれる体質』『人並みの幸運』…それに『他者に何もしていなくても嫌われる能力』が欲しい。良いか?」
「…ねえ、ちょっと待って?三つ目まではともかく、四つ目は何?僕に喧嘩売ってるの?」
「そう言う意味じゃ無い。ただ、新しい人間関係を築くのはもうこりごりだ。特に、関係を築き上げた奴を目の前で置いて逝っちまうようになるなら余計に、だ」
「…わかったよ、じゃあそれだけでいいのかい?」
「…あー、あと、その、なんだ…」
「?」
「オレが高校の時にこんな武器があったら良いなっていう想像の産物だった二振りの刀があるんだが…そういうのも大丈夫か?」
「ああ、そういう事。なら全然大丈夫だよ」
「…そっか、ありがとな」
そこまで言って、グルに笑いかける。でもな、正直、こいつにもう会えないと考えると、精神的に辛いところがある。
「大丈夫、僕はその気になれば世界を越えることもできるから、会いに行けるようなら、会いに行くさ」
「ナチュラルに人の心を読むな」
「ふふ、ゴメンね?さて、準備はいいかい?そろそろ君をここに留めるのも限界みたいだ。君を別の世界に転生させるけど、最後に何か言って置きたいこと、ある?」
言って置きたいこと、か…
「オレたちは、離れ離れでも、友達、だからな?」
「―――うん!そうだね。その通りだ。それじゃあ、あの扉を潜ってね?」
「ああ、分かった」
オレは、扉のドアノブに手を掛ける。そして、振り返らずに、
「それじゃあ、また会おうな、グル?」
「うん、バイバイ、泡沫君」
互いにそういってオレはドアノブを回しながら押す。そして扉を潜った直後、
「あ、そうそう。言い忘れてたけど、転生先は『東方Project』って言う世界だからねー?」
「……全くどういう世界だか分からないぞ?」
そう愚痴りながら、オレは光に包まれた。
「…どうか、君の未来に幸在らん事を、願ってるよ――――」