小説『東方鬼蠍独拒記』
作者:寄生木()

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其の一。分からなくなることってよくあることだと思いたい

(…どこだ、ここ?)

グルに別の世界(グル曰く東方の世界。全くわからん)に転生したらしいオレは、気が付くと周りが真っ暗――いや、違う。オレがまぶたを閉じてるのか。そのことに気が付きまぶたを開こうとするが―――

(あ…れ?開かない?)

どういうわけかまぶたが開かない。そして、さらにおかしいことに気付かされた。

自分が、水のようなモノの中を漂っているような感覚がする―――

(オイオイ…転生させるとか言ってたけどさ…)

そのことに関して心の中で文句を言おうとした直後、

(ここまで戻さなくてもい、い、痛たたたたたただあ!!!!???)

頭が締め付けられている様な激痛が襲う。そして今この場所がどこなのかハッキリ分かっているオレは正直眼が開かなかったことを素直に喜んだ。

そして―――

「おぎゃ、おぎゃあ!おぎゃあ!」

オレは母となる女性の腹から、外へと産み落とされた。

「―――!―――!」

「!―――!―――!?」

(…だめだ、何言ってるのか全くわからない)

そう思いながら、微睡みの中に溶けていくかのようにオレは眠った。







この世界に生を受けて早くも二十四年、特に変わったことはなかったので――強いて言うなら養子が一人できた事か――詳しい記述はさせないでおく。
…と言うか、完全にオレの意識が戻ったのは四歳になった頃辺りで、それより前のことは全くと言っていいほど覚えていない。例外があるとすれば、生まれる前の感覚と、生まれた直後の今となっても何と言っていたか分からない言葉だけだ。

前世の記憶にある『二次創作』に登場する主人公は、だいたい零歳からずっと記憶があるから俺もそんな感じかと思っていたら、そんなこともなかった。

ともかく、オレはきっちり転生したんだが―――まあ、オレが『特典』に頼んだ能力のせいでもあるんだが―――十歳になって直ぐ、オレは親に捨てられた。
いや、『捨てられた』は正しくない。正確には『家族にオレがそれを申し出た』だ。

オレが頼んだ能力、名前が少し変わって『他者に嫌われる程度の能力』と、何故か『程度の』が加わっているが、今はどうでもいい。これが原因で家族は周りからけむたがれるようになった。
両親はその原因がオレにあることにとっくに気が付いていた。だからこそ、オレは家族がそんな風にみられて、それでも耐える姿は見たくなかった。

だから、この家を出ていくことを申し出た。ただ、それだけの話。
その際、『何も渡してやることが出来ないのは父親としてごめんだ』との刀鍛冶をやっている父さんからの餞別―――オレがグルに言っておいた刀―――として二振りの刀『愚者』と『椿』を貰った。

『愚者』は刃渡り三尺七寸(約140センチ)、柄も含めると五尺一分(約190センチ)にもなる巨大な、反りの浅い大太刀で、特別な力―――本来刀に断ち切れぬモノをも断ち切ることが出来る。それこそ、他者との関係性等も―――を持つ。

『椿』は刃渡り一尺四寸(約53センチ)、全長一尺九寸(約72センチ)。『愚者』と違いそれほど巨大でも特別な力も無いが、圧倒的な切れ味―――刃先を下に向けて落とせば、その先に何があろうとも切り裂くほどの鋭さ―――を誇る。
また、この二つの刀の共通した点として、鍔が無く、絶対に錆びず、刃こぼれすることもない。


…設定上オレが考えたとはいえ、父さんはよくこんな刀を打てたな。

そんな、バケモノ染みた二振りを受け取り、オレが家を出て早十四年。何をしているかと言えば―――




















舞台は夜。今、オレは熊の姿をした妖怪と対峙している。妖怪はこの辺りの妖怪の頭みたいなヤツで、正直あまり戦いたくはなかった。が、別に勝てないわけでもない。

「―――ふッ!」

掛け声とともに『愚者』を振るう。狙うは前足。それを分かっていたかのように妖怪はオレに飛びかかりながらそれを躱す。そのままオレをその鋭い牙をもつ口で食い殺そうとしたのだろう。口を開きながら、こちらにそのまま飛びかかってくる。
しかし残念。口が閉じるが、その口が、牙が、オレを捉えることは無かった。何故なら、

「…こっちだ!!」

オレがジャンプし、妖怪の真上に居たからに他ならない。そのままオレは『愚者』の刃を上向きに、刃先を妖怪の頭に突き出し、

「はッ!!」

――――ズシュッ!!

そのまま妖怪の頭を貫き、

―――ザシュッ!!

刃を上に上げれば、顔が縦に裂けるのは当たり前だ。

流石の妖怪もこれには耐え切れなかったようで、呻き声一つ上げずに絶命したようだ。


―――オレが今何をしているかと聞かれれば、所謂『賞金稼ぎ』とたまに『研究者である娘の護衛』をしている、としか答えようがない。

何せ、妖怪と戦って戦闘経験を増やす、金が手に入る、その日その日の生活を繋ぐ、等など、オレにとって利点ばかりが浮かんでくるからだ…問題があるとすれば、オレではなくむしろ町のほうにあると言っても過言ではない。

たった四年前まで、それこそ江戸時代のようだった町が、今ではすっかり未来都市だ。全くもってビックリである。

…とは言えそんな偉業にして異業を為したのはオレの養子にあたる娘に他ならないのだが。


殺した妖怪の身体を引きずりながら、オレは少し前のことを思い出す。






十年程前、十九になった女性が、子作りをして好きな男とくっ付いて、子を生した。そこまではよかったんだが…実は妖怪の大群がほぼ定期的に町を襲撃しに来る。その際、偶然町の中にまで妖怪が入り込んできた。そんでもって、その近辺に居た例の妻と夫が自分たちの子を守りきって死んじまったわけだ。

そんで、その子は孤児院に保護されたが、その話を聞いたオレが娘としてその子を引き取ったわけだ。
いやー最初の一か月くらいは本当に警戒されっぱなしで、胃に穴が開くかと本気で思った。その子の名前は『八意 永琳』。拾った当時が五つと自分で言っていたから、今年で十五になる筈だ。

ま、それも時間の経過と共に無くなっていき、今では『養父さん』などと呼ばれている。
あと、オレの能力、能力のことを知っている奴らには効果は半減し、絶対的な信頼関係を結んだ相手には無効化されるらしい。

「にしても、町から随分離れたな…」

冗談でも何でもなく、町に着くのに歩いて確実に半日以上掛かる距離がある。おまけに妖怪の身体も背負っているので、余計に時間がかかる

「全く、依頼書の内容だと歩いて三時間程だって書いてあったのに、依頼主にもうちょい報酬請求するか」

そんなことを愚痴りながら、オレは町へ向かい歩き続けた。

-2-
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