小説『東方鬼蠍独拒記』
作者:寄生木()

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うーん…アンケート(特に?)の反応がかなり不味いな…。どうしよ?
今回は早目に更新できました。それでは其の十六。どうぞ。





其の十六。大騒ぎ。スキマ妖怪との邂逅。



「さぁ野郎共!今日は自分は鬼だとか天狗だとか河童だとか、そんな事は二の次だ。今はともかく―――酒を飲めぇ!」

『おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!』

星熊さんがそう言うと、妖怪達は皆が皆酒を飲みだした。

「…はぁ」

自分でもここまで重い溜息を吐くのは久しぶりだと、ふと思う。
鬼の皆さんが使っている寝床兼宴会場となっている大きな屋敷の縁側で、胡坐を掻きながら僕はそう思った。今ぐらいの時間帯に空に居るのならば、月が掛かって綺麗な夜空が見えた事だろう。

僕は飲まない。根本的に僕が酒が嫌いという理由もある。というか、主が酒―――それも唯の酒では無く、鬼の酒である―――酒気に当てられただけで半ば酔っぱらっているような状態なので、既に意識が朦朧としていて、心配なのだ。
まあ、手加減抜きの腕相撲を勇儀さんと繰り広げてる辺り、僕の心配は杞憂に終わりそうだけど。

龍美さんは縁側の外から伸びる白い砂利の様な物―――たぶん、塔の一部を崩してここまで引っ張ってきたんだと思う。そうでも無かったらどうやってここまで来ているのかは僕には分からない―――の上に座り、ちびちびと酒を飲んで居た。その周りを、同じ服を着た河童が囲って、色々と雑談していた。

「……はぁ」

また、重い溜息を吐いてしまった。
こうなった原因を思い返そうにも、そもそも僕がこんな思いをしている原因は僕自身だ。
僕は萃香さんと戦って―――正確に説明すると、僕が天狗達の話を聞いて、鬼の皆さんに謝罪をしようとして、その場に居合わせた萃香さんが僕と戦おうと勝負を持ち出してきた訳だ。
でも、僕はその時戦う気はこれっぽっちも無かった事に加え、龍美さんが居たとはいえど、まだ眠っていた主の事が心配で早く戻りたかった。
だから、僕は萃香さんに在りのまま説明して納得してもらおうとして…

『へんっ、お前みたいな逃げ腰の奴の主って事は余程腑抜けた奴だったんだろうね!』

…その後からの事は、主に声を掛けられるまで残って無い。

今思い返すと、自分の事を殺したいほどに、自分のこの怒りを直接ぶつけたいほどに、八つ当たりでもいいからこの苛立ちを晴らしたい。

あの時の萃香さんの表情は、相手を苛立たせる様は声色はして無かったし、よくよく考えれば軽い挑発の心算で言ってたんだろう。

それなのに僕は―――

「………はぁ」

「―――うりゃ!」

「うわ!?あ、あははははははははは、ははははははははは!?ちょ、あははは、萃香さん、何するんですか!」

行き成り後ろから萃香さんに抱き着かれたと思ったら、そのまま横腹をくすぐられた。
後ろを見れば「してやったり」とでも言わんばかりの顔をした萃香さんが居た。
萃香さんの胴体に随分前に増えた四本の尻尾を巻き付け、引き剥がそうにも全然離れてくれない。寧ろより強く引っ付いて来る。
諦めて尻尾を離したら、僕から離れて僕の横に腰掛けた。…何がしたかったんだろう。

「どうしたのさ、そんなに溜息ばっかり付いて?恋煩いでも起こしたの?」

「…いえ、そんな事じゃありませんよ」

「ふーん。…あのさぁ、お前の方が私より――――というより泡沫を除いてここに居る魑魅魍魎の中で一番歳食ってて、一番強いんだから―――そんな肩っ苦しい話し方しなくてもいいんだけど?」

「いえ、僕は素の話し方がこれなんですよ。申し訳ありませんけど」

「そっかー。そりゃあ残念」

ちっとも残念そうな顔をせず、瓢箪を口に付け中に入ってる筈の酒を飲み干していく萃香さん。
萃香さんに言われて、そういえばそうだったと改めて思い出す。多分だけど、今生きている妖怪の中で―――人間だった頃を含めると―――主が一番長生きしている筈で、僕はその次にあたる筈だ。年齢なんてもう、覚えていない。永琳さんなら主と僕が離れ離れになったか秒単位で覚えてそうな気がする…何だか実際に在り得そうで不安になった。

それで、星熊さん曰く、「妖獣は歳を食えば食うほど尻尾の数が増していくらしいよ」との事だ。
…僕としては、まあ、主が眠ってから若干背が伸びたから今の所は問題ないんだけど、これ以上尻尾が増える様なら何かしらの対策を練らなければならない。

確かに、僕は大きな括りで見てしまえば猫の妖獣なんだろうけど―――細かい部分まで言えば、狩猟豹(チーター)の妖獣なのだ―――狩猟豹は、地上に生きる動物の中では最速、と永琳さんと主が言っていた。
そして、走っている最中に転んだりしない様に尻尾を回してバランスを取っている訳なんだけど…正直言った話、尻尾が増えてしまって何度か転びそうになって居るのだから、早めに解決しなきゃならない。

…うーん。本来力を表す筈の尻尾の本数が寧ろ邪魔になっているとは、ある意味皮肉かな…。

「おーい、コテツー、大丈夫?」

「へっ?―――うわわわっ!?」

考えに没頭しすぎていたのだろう。萃香さんの顔が目の前にまで来ている事に全く気が付いて無かった。

河童の方々は『キャー』とか黄色い声を出して僕と萃香さんの事を面白そうな眼で見ていた。他の種の妖怪も皆、面白そうに僕達の事を見ていた。

「ちょ、ちょちょちょ!?萃香さん離れてください!」

「おお、初々しいねえ。…顔も良いし、内面も良い奴だし…人間じゃないけど、攫っちゃおうかな…」

「や、止めてください!」

僕は確かに中性的な顔立ちをしている自覚はある。周囲から見ると、男性から見ると女に見えて、女性から見ると男に見えると言われた。そして、どちらにせよ上の上くらいには入るとの事だ。嬉しいんだけど…何か引っ掛かる。

「あはは。冗談だよ、冗談…今はね」

最後にきこえるか聞こえないかくらいの声でそう言って―――生憎、僕は元々耳が良いので結局は筒抜けだったけど―――萃香さんはまた僕の横に座った。
………何だか、今日は疲れた…。












星熊との勝負の後。勝った方が何かを貰うという話だったのだが、星熊がそれでは納得しなかった。何でも、鬼の沽券に関わるとの事だ。他の鬼達も満場一致で賛同した。一つとは言わず、二つ三つは持って行けというのだ。

その結果、悩みに悩んだ末、二つ何かを貰うという事で妥協してもらった訳だが。

一つは、オレとコテツの服。本来は二つの筈なのだが、それは一つ分でいい、と言って聞かなかった。しかも、何故か「何なら一から作ってくれてやろうじゃねぇか!」等と仕立て屋の鬼が言い出して、結局は貰う所か作ってもらう事になってしまったのだが。

二つ目は、愚者と椿の鞘の制作だ。…完全にオレは無関係なのだが。
確かに、有れば便利くらいには思った事もある。が、愚者には邪魔になり、椿は無理だろうとあたりを付けていた。
愚者も椿も、絶対に壊れない程に頑丈だ。―――いや、絶対に壊れない。今まで刃毀れ一つ起こしていないのがそれを表しているといってもいい。

そして、愚者には『本来刀に斬れぬモノを斬る』事が―――簡単にいえば対象の影を斬ってその影を無くしたり、何かしらの繋がりを断ち斬り、無関係にさせるなど、試したことは無いが、相手の肉体と魂の繋がりも恐らくは斬ることが―――出来、椿は愚者の様な力は無いが、その刃で斬る事など出来ないモノ皆無と言わんばかりの『圧倒的な切れ味』を誇る。

互いに頑丈性と、能力、切れ味で矛盾を孕んでいるが、それを解消するつもりは全く無い。武器を失いたくない事もあるし、オレの親の―――父さんから貰った唯一の形見なのだ。

失礼、話が脱線した。

つまり何が言いたいのかといえば、愚者はその長さが故に抜刀しづらく、椿はそもそも鞘を斬り裂いて落としかねないという事だ。
武器庫にしまって居る為、背に背負ったり、腰に差す必要性が皆無なのだが。

―――等とここまで長考しつつも、何だかんだ愚者と椿を貸してしまっている辺り、オレ自身が楽しみにしているのだなと実感した。

そして、今何をしているのかといえば。

「ぬううぅぅぅぅぅぅ…」

「ぐううぅぅぅぅ―――らあぁ!」

ドシンと畳に相手の手の甲を叩き付けるようとして逆に叩き付けられた。直後に、周囲から歓声が湧いた。

「強い!強すぎます!!腕相撲大会王者の座を掛けたこの戦い。勇儀さん、これにて三十三勝、快進撃が止まりません!これが、これが鬼の四天王の実力なのかあぁ!?」

天狗の少女の声が周囲に響き、続々と『今度は自分が!』と叫ばんばかりに星熊を見ていた。やはり、単純な力勝負なら星熊に―――というか鬼相手に―――勝てる気は一切しない。
周囲の酒の酒気に当てられて、既に酔っぱらって居る様な状態なのだ。非常に眠い。更に、申し訳ない話だが少し疲れた。寝起きからここまで身体を動かす事自体、結構な無理をしていたらしい。

…だが。

「―――誰だ」

今は今この身体を襲っている疲労感よりも、睡魔よりも重要な事が有る。
その一言だけで、周囲の騒ぎ声が小さくなる。星熊もオレの事をどうしたとばかりに見てくる。

オレは、少ししか流していなかった―――少しでも流さなければ右目が見えない―――妖力をある程度解放し、共に殺気を出す。
周囲から喧騒が消えていく。縁側に居たコテツと伊吹もこちらの空気の変化に気が付いた様だ。
その様な空気を作り出した上で、もう一度言った。

「もう一度聞こう。誰だ。さっきから覗き見ているのは」

武器庫から鷲爪を取り出し、右腕は妖力を流し『口』に変える。右腕を『口』に変えても、特に変化は見受けられなかった。

鷲爪は左手に持ち、何時でも発砲できるように準備をしておく。
空気がどんどん冷たくなっていくのを感じる。一部の河童や天狗は妖力と殺気に当てられ、顔色を悪くしている者もいれば、倒れてしまった者も居るらしい。

「なんだ。どうかしたのかと思えば―――紫―!出て来ておいた方が身の為だよー!」

そんな重い空間を破ったのは―――伊吹だった。
その言葉に反応するかのように―――愚者による空間切断とはまた違う方法で―――空間斬れた。

いや、裂けたと言った方が良いかもしれなかった。
裂け目の両端には帯の様な物が結び付けられている。そこから覗く、おびただしい数の目、目、目、目、目。

それを見た大多数の妖怪たちは顔を強張らせ、一部の妖怪達は『あー…』とでも言わんばかりの顔をしていた。

その裂けた空間から―――紫色の服を着て、変わった形の帽子を被った、長い金髪を持った少女が出てきた。

「―――初めまして、数多泡沫さん。私の名は八雲紫と申します。以後、お見知り置きを」

笑顔を浮かべ、こちらに挨拶をしてくる少女―――八雲。
…にしても、さっきからオレに対して何の用なのだろうか。少なくとも、オレは関わり合いになったことは一度も無い。

「もう知ってるだろうが、形式上だけでも名乗らせてくれ。数多泡沫だ」

「あら、お返事を返して下さるとは思っていませんでしたわ」

「どうでもいい。オレに何の用だ?オレとお前は一度も会った事が無い筈だが。それに、何故オレの名を知っている」

表面上だけの礼なんて、忘れる程前にされ慣れ過ぎて、嫌でも本心から言ってるのか表面上だけなのか見分けが付く。
八雲は何処からともなく取り出した扇子で口元を隠しながら話した。

「いえいえ、今は宴会中の様でしたし、また後ほど会いに来ますわ。それでは―――」

それだけ言って、八雲は再び発生した裂け目に自ら入って行った。
…結局、何をしに来たんだろうか。まあ、また会いに来るとは言っていたからその際に聞けばいい話なのだが。

「あー…泡沫、ちょっといい?」

「伊吹か。どうした」

縁側に居た伊吹は何か言いずらそうに苦笑いしながら「いや、変な事じゃないんだけどね?」と前置きして、表情を引き締めて言った。

「あいつの―――紫の友として頼む。あいつと仲良く、あわよくば―――新しい友になってやってくれないか?」











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