小説『黄泉路への案内人』
作者:楽一()

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第二五話

 私たちがアースラに向かっている間にどうやらエイミィが座標を割り出し、武装局員を転送したみたいだ。

「葵! 母さんは、母さんはどうなるの!?」

「落ちつけ。話を聞くだけだろう。今回のことをなぜ起こしたのか」

 そうだ。なぜこのようなことを引き起こした? あの部屋の奥に何やら生命反応、あれがおそらくアリシア・テスタロッサだろう。彼女に何か関係があるのか?

「そうですよ。フェイトちゃん」

 するとエクスが人型に戻り、フェイトをなだめる。

「心配する必要はない。マスターがどうにかしてくれる」
 そういってルミルも人がだになった。

「え・・・。この人たちは?」

「私の家族だ。エクスとルミルだ」

「フェイト!」

 すると、リニスがこちらに向かって走って来た。

「無事でよかった」

「うん。ありがとう。リニス」

 リニスはそのままフェイトを抱きしめた。

「どうやらリニスも来ていたようだな」

「はい。少しでもお役にたてればと思い、リンディ提督に頼んで」

「そうか」

 すると、こちらに向かってくる人、クロノが来た、

「クロノ。現在の状況は?」

「あぁ。武装隊をプレシア・テスタロッサのいる場所に転送し、逮捕。うまくいけばの話だろうがな。とりあえずブリッジに行こう」
 
 そういってなのはとフェイト達を連れ、ブリッジに向かった。

 そしてブリッジのモニターでは武装した局員とプレシアが対峙していた。

「母親が目の前で捕まる処を見るなんて気分がいいものではないがな」


「母さん・・・」

「ん?」

 おかしい。プレシアの眼はあんな目の色だったか?

「プレシア・テスタロッサ。時空管理法違反、及び管理局艦船への攻撃容疑であなたを逮捕します」

「武装を解除してこちらへ」

 武装局員は素早くプレシアを囲むと、一人が隠し扉を発見し数人と共に中に入る。

 すると、プレシアの表情が変わった。

「こ、これは・・・・」

 その中には複数ものカプセルと、カプセルの中に入った一人の少女がいた。

 それはまるで、

「・・・・フェイトちゃん?」

 なのはがそうつぶやいた。フェイトの方を見るとフェイトも驚きを隠せない様子だった。

「〈マスター〉」

「〈あぁ、あれが、アリシアだろうな〉」

 すると、紫色の雷が庭園内で轟音を響かせたと思うと、次の瞬間には武装局員が倒れていた。

「私のアリシアに近づかないで!!!」

「いけない! すぐに転送を!」

 リンディ提督があわてて武装局員の撤退命令を下した。

「もう駄目ね。時間がないわ。たった九個のロストロギアではアルハザードにたどり着けないかもしれない。でも、もういいわ」

 すると、プレシアはアリシアの入ったカプセルを愛おしい者をなでるようにゆっくりとなで、サーチャー越しにこちらを睨む。

「この子を亡くしてからの暗鬱な時間を・・・この子の身代りの人形に記憶を与えて娘扱いするのも・・・聞いていて? 貴方のことよ、フェイト」

「!?」

「え・・・」

 フェイトとなのは驚いた。そりゃそうだろう。フェイトは自分のことを娘として扱われていなかったことに、なのははそれを、友人を物扱いされたことに。

「せっかくアリシアの記憶を上げたのに、そっくりなのは見た目だけ。役立たずでちっとも使い物にならない。私のお人形」

 すると、エイミィが、

「プレシア・テスタロッサが引き起こした事故の話はしたよね。その時に彼女は自分自身の娘アリシア・テスタロッサを亡くしているの。それで、彼女が最後に行っていた研究。使い魔とは異なる、使い魔を上回る人工生命の生成。そして死者蘇生の秘術。そしてフェイトって名前はその開発コードの名前」

 馬鹿げている。何を考えているこいつは。不の者】は!?

「死者蘇生? そんなものなど無い。死んだものは二度と生き返らない。それに使者を生き返らせることは禁術だぞ!?」

 つい声を荒げてしまう。だが、そうだ。死者は安らかに天に召され、そこで蘇りの時を待つ。死者蘇生はそれを無視した非道な術だ。

「そうね。でもそれも失敗。ちっともうまくいかなかった。作りモノの命は所詮作りモノ」

 フェイトは、それでも母親を、プレシアを見ていた。

「でも、でも! ほめてくれた! さすが私の娘だって! あの時の「黙りなさい!」え・・・・」

「バカなことを言わないで! 私の娘はアリシアだけ!」

「やめて・・・」

 なのはが呟くが、当然その言葉はプレシアには届かない。

・・・・もう我慢の限界だ

「私にとっての娘はアリシアだけ! フェイト、あなたはただ私がアリシアをよみがえらせるまでのお人形であり、わたしが必要とするモノを言われたとおりに集めるだけの駒。 でも、もうあなたはいらないわ。どこへなりと消えなさい!」

 すると、フェイトの眼から光が消えた。

「やめてよ!・・・!?」

 なのはも気づいたか。プレシアの瞳から涙が流れる。

「フェイト。私の言った言葉を忘れたか?」

「・・・・え?」

「意思を強くもて。今からプレシアの心の声を聞かせてやる」

 そういうと、フェイトの眼にわずかだが光が戻った。

「そろそろいいかな」

 そういって私は一歩皆より前に出て、プレシアの眼を見る。

 そして、足元に、ある魔法陣を展開する。これは、相手の心の中に住む本当の心を引き出す特殊な魔法陣。まぁ、モニター越しに通じるかは不安だが。

「我、汝に問う」

「ッ!?」

 すると、プレシアが頭を抱え始めた。どうやら通じたみたいだ。

「汝の思う心の声は真実か」

「う、くっ・・・・・」

「汝の心の声真実にあらず」

「あ、あぁ、あぁあ!」

 プレシアは何かに抵抗するように頭を抱える。

「心を開き、汝の真の声をこの者に聞かせろ!」

「アァアアアアアアアアア!!??!?!?!?」

 すると、プレシアの瞳の色が、赤色から紫色に戻り、

「ふぇ、フェイト、逃げなさい。こ、こに、来ては、ダメ!?」

「え・・・」 

 フェイトも動揺するだろう。いきなりわけのわからないことを聞かせられたのだ。

すると、プレシアの背中にアルフが見たといっていたレベル2の魔物が姿を現した。

―ナゼ、ジャマヲスル

―オマエハ、ダレダ?

「あ、葵、あれ、なに・・・・」

 フェイトが震えながらそう聞いてきた。

「あれが黒幕だ。まさかあちらから姿を見せてくれるとは予想外だがな。まぁ、答えるか。私は神無月葵、君に分かりやすく言えば【黄泉路への案内人】と言えば分かるか?」

―アンナイニン

―ダイエイユウ(サツジンキ)・・・カ

―オレノ、ミライヲウバッタモノ

―ワタシノ、アスヲウバッタモノ

―ボクノ、スベテヲウバッタモノ

「ッ!? そうか、あの時の生き残りか・・・・」

―オマエガ、レイシとタタカワナケレバ!

―オマエガ、セカイヲ、テキニマワサナケレバ!

―ワタシハ

―オレハ

―ボクハ

―アシタヲ、ツカメテイタ

―ミライヲ、ミテイタ

―ソレヲ、キサマハ、ウバッタ!!!

「・・・・貴様らは何をしようとしている!」

―アルハザードヘ、ムカウ

―ソコデ、モウイチド、イキル

「・・・そのための犠牲だと言うか!?」

―ソウダ

「貴様らがしていることは、私がやったこととなにも変わらない! 他人の幸せを踏みにじり、自分達が幸せをつかみそれが真の幸福だと思うのか!?」

―コレイジョウ、ハナシテモ、ムダ

―イクマエニ、オマエ、コロス

 そういってモニターが消えた。

「・・・・」

「葵。母さんの言葉は?」

「最後のが真実だ。フェイトが危険な目にあわせたくない。だから逃げろといった。今までの言葉は【不の者】、あいつらがいわせていたようなものだ。気にするなといっても無理があるかも知れんが、あれはプレシアの言葉ではないということだけは分かってやってくれ」

「・・・うん」

 すると、エイミィの声が艦中に響いた。それは、

「庭園内に魔力反応を複数確認、いずれもAクラス、数は・・・な、何これ!?百、百五十、どんどん増えていきます!!」

「ジェルシードの発動を確認!」

「小規模ながら次元震が発生! し、しかし徐々にですが、規模が拡大中!」

「プレシアは、いえ、【不の者】は何をしようとしているの!?」

「もう一度人として蘇り、新たな人生を歩むつもりだろう」

「そのために、こんなことを!?」

「そうだ」

 すると、リンディ提督が決断を下した。

「私も現場に出て次元震を抑えます。クロノは時の庭園へ突入しプレシア・テスタロッサの救出並びに【不の者】を倒してください!」

「了解」

「神無月君もクロノと一緒に出てもらえますか? 武装局員の壊滅の影響で人手が不足しているので」

「言われなくても」

「なのはさん、ユーノさん、リニスさんもお願いします!」

「「「はい(分かりました)」」」

 すると、フェイトが、

「私も、行きます!」

「フェイト。あたしも行くよ!」

「いいのですか?」

「はい。母さんを、助けます!」

 その目に揺らぎはなくまっすぐ前を向いていた。

「気持ちをくんでやれ。彼女の眼は本物だ」

「・・・そうね。では、フェイトさんとアルフさんもお願い」

「「はい!」」

 さて参るとしよう。【不の者】を黄泉路へ案内するための戦いを。

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