第48話『シチリアの貴公子』
前書き
バトル中に降り注いだ謎の物体。果たしてその正体は…
サトシを残り一体まで追い詰めて野望の実現まであと一歩まで近づいたバジーリオ。この話で彼は一転どん底に突き落とされることになる!?
サトシ「い、今のは一体…」
野外バトルフィールドに突如降り注いだ複数の謎の物体に、呆然となるサトシ。
デント「イッツ・ストレンジリィ・タイム。一体何が起きたというのかい?」
ヒカリ「さ、さぁ…」
サトシとバジーリオのバトルの行く末を見守っていたサトシの仲間達も、目をむいた表情を浮かべる。ただ、同じくバトルの行く末を見守っていたポケヴェールの学生諸君は、この状況を理解しているようだった。
ドリス「ようやく来たわね。いつもより遅かったからちょっと焦ったけど…」
ハルカ「ドリスさん、何か知っているんですか?」
ハルカの問いかけに、ドリスは即時に返答をする。
ドリス「みんな、上空を見てごらん」
デント「上空って…ん!? あれはサザンドラ!」
ベル「それに誰か乗っているわよ」
ドリスに言われるがまま空を見上げると、そこには大きく羽根をバタつかせるサザンドラと、そのサザンドラの上にはブロンズのショートヘアーの少年がいたのだ。
サザンドラ「シャアアアアア!」
サトシ「どうしてここにサザンドラが!? それにサザンドラに乗っている人は一体…」
バジーリオ「うぅ!? マズイ…」
サザンドラと少年の登場に、サトシも頭に疑問符を浮かべる。ただ何故か、バジーリオが先程までの余裕ある表情から一変して、そのサザンドラと少年を見た瞬間に一気に表情が青ざめている。
サザンドラ「シャアアアアア」
???「…」
サザンドラは自らの背中に乗せている少年とともに、バトルフィールドに向かってゆっくりと降り立つ。その間にヒロインズ、デント、ベルを引き連れたドリスとアリアが、サザンドラと少年のもとへと駆け寄る。サトシもそれに呼応するかのように、サザンドラと少年に近づいていく。
アリア「今回は随分と遅い来訪でしたわね」
ドリス「一体、どうしたの? いつもより遅かったから、今回はさすがに焦ったわ」
???「済まない。今日は代表合宿の休養日だったんだが、急用があってな。それに、この騒動の事を知ったのもついさっきのことなんだ。この騒動の張本人がいつも以上に手の込んだ真似をしてくれたのも理由の一つだ…」
いち早く少年に声を掛けるドリスとアリア。それに何の躊躇もなく普通に会話をする少年。どうやら、ドリスとアリアはこの少年と知り合いのようだ。
ドリス「なるほどね。それにしても、勘の鋭いあなたの目を掻い潜るなんていい度胸してるんじゃない。そこの馬鹿は…」
???「あぁ、それでもなんとかここまで来たけどな。さてと、そこの逃走を図ろうとしているバジーリオさん?」
バジーリオ「(ギクッ!?)な、なんのことかな? マルコ君」
マルコ「お前がここに来た事情は大体わかっているから敢えて聞かないけれど…。少し、O☆HA☆NA☆SHIしようか」
マルコと呼ばれる少年の威圧感ある黒い笑みに、後ずさりをするバジーリオ。
バジーリオ「君と話すことなんて何もないさ。それじゃあ…」
マルコ「アリアドス、クモのす」
バジーリオ「うわぁ!?」
バジーリオはクラウチング・スタートを決めてマルコから逃走を図ろうとするも、マルコが瞬時にアリアドスを出して敢え無く‘クモのす’の餌食となってしまった。
マルコ「さぁて、バジーリオ。今から、楽しいO☆HA☆NA☆SHIの時間ですよ。今回は沢山のギャラリーも見守っているようで…」
バジーリオ「ちょっと待った、マルコ! 話せば分か…」
マルコ「問答無用!」
バジーリオ「ギャアアアアアアアアアアアアアア!」
執行人・マルコの公開処刑により、バジーリオはそのふざけた幻想と野望とともに散って逝った。
バジーリオ「勝手に殺さないでくれよ〜(泣)」
マルコ「黙れ! この下衆が(怒)」
公開処刑の内容は、とてもここでは書き表せないくらい壮絶なものであった。整った美少年の容姿のマルコであるが、この時ばかりは般若のような美少年とはかけ離れた表情をしていた。
サトシ「……」
ヒカリ「……」
ドリス「は、はぁ…」
サトシ達は今起きた一瞬の出来事にただ呆然と突っ立っていることしか出来なかった。ドリスはこの光景を見慣れているのか、苦笑いを浮かべていた。
エリーサ「…私達が到着する前に、片が付いたようね」
カトリーナ「え、えぇ…」
ハンナ「……」
カトリーナ達はこの騒動を聞きつけてやって来たのだが、その間に解決したことを知ってサトシ達同様呆然としていた。マルコ襲来は、カトリーナ達が知ってここに到着するまでは一瞬の出来事だったと思っていただきたい。
マルコ「申し遅れてすまない、私の名前はマルコ。そこで伸びているのと同じく、バトル部門イタリア代表の一人だ。今回はウチの穀潰しが迷惑をかけた。私からも謝罪する」
バジーリオ「ちょっと、穀潰しって酷くn」
マルコ「もう一度、O☆HA☆NA☆SHIしたい?」
バジーリオ「い、いえ(泣)」
マルコは淡々とした表情で、先程までのバジーリオの愚行をサトシ達に対して心から謝罪する。バジーリオと違ってマルコはかなりの常識人のようである。
サトシ「い、いえ…」
ヒカリ「確かにソイツの要求したことには腹が立ちましたけど、あそこまでやる必要は…」
マルコ「いや、コイツの場合少しでも放っておいたら何をしでかすか分からない。それに、コイツ曰く『コミュニケーション』とやらは、ほとんど言葉のセクハラと言っても過言ではない。対処しているのが私でなければ、今頃コイツは牢屋の中だ」
ヒカリ「あぁ、そうですか…」
マルコの説明を受けて、ただ引き攣った笑みを見せるしかないヒカリ。どうやら、このバジーリオの愚行は日常茶飯事で、マルコ自身もほとほと手を焼いているとか。
マルコ「それと、野外フィールドをこんな悲惨な状態にしてしまったんだが、請求書はこの穀潰し名義で付けておいてくれ。一応、イタリア屈指の財閥の息子だから金には困らんだろう。それでもドリス達の始末書は避けられないようだけどな…」
アリア「いえ、あのようなことが実現するくらいなら何枚でも始末書は書きますわ。請求書の方はその方向で対処させていただきます」
アリアの一言にドリスやさらにはヒロインズまでも賛同する。ベルに関してはイマイチ状況がつかめていなかったようだが…
ドリス「それはそうと、せっかくの休みでここに来たんだし、ちょっと寄って行かない?」
アリア「お茶くらいしかお出しできませんが…」
マルコ「いやいや、それだけで十分だ。さすがはポケヴェールと言ったところか、フレンドリーな校風は健在だね。それじゃあ、お言葉に甘えさせて」
ドリスとアリアから休息がてら校舎内に寄っていかないかと提案されたマルコ。彼はそれを二つ返事で承諾する。
マルコ「久々にドリスやアリア、そちらの初対面の方々とも積もる話がしたいからな。あっ、代表関連のことはあまり話せないぞ。アリアの諜報のスキルは折り紙つきだからな…」
アリア「情報収集スキルとおっしゃっていただきたいのですけどね」
マルコ「ついでにだが、そこの伸びている馬鹿も上がらせてくれ。少しでも目を離すと何をしでかすか分かったものじゃないからな…」
アリア「…えぇ、それは構いませんよ。それでは皆様、早速向かいましょう」
バジーリオも一緒ということに少々怪訝な表情を浮かべる女性陣であったが、先程までの愚行を考慮してなくなく受け入れることとなった。ちなみに今のバジーリオの顔はアザとコブだらけ、少しばかりかいたるところから赤い液体が流れている。この彼の現状から、公開処刑の凄まじさが見て取れる。そんな見るも無残な物体…バジーリオも一緒に一行は、生徒会室へと向かう。
ヒカリ「それで、マルコさんは来日の際はポケヴェールに立ち寄っているんですね」
カスミ「そこまでこのポケヴェールと縁があるなんて驚きです」
マルコ「まぁな。それにドリスとは昔からの仲なんでね」
生徒会室に入って各人椅子に腰かけると、楽しい談笑の時間が始まる。ちなみにサトシは、連日のポケモンバトルでポケモン達を休ませるために仲間達とは行動を別にしており、デントもその付き添いでここにはいない。
ハルカ「マルコさんはドリスさんとどういう関係なのですか?」
アイリス「もしかして、恋人同士とか?」
ドリス「ちょ、ちょっと、ハルカさんにアイリスさん///」
マルコ「まぁ、そんなところかな」
ドリス「ちょっと、マルコまで///」
マルコ「別に隠す必要もないだろう。それに私はコソコソ隠れて行動するのがどうも苦手でね。ドリスとの関係も、もっと世間に広めたいくらいだ」
ドリス「…ば、バカ///」
アリア「ふふふ、ドリスも本当は満更でもないくせに」
ドリス「わ、私、そ、そんなんじゃ///」
ベル「うわぁ〜、お二人ともお熱いですね〜」
ドリス「も、もう///」
生徒会室にいる全員(既に知っている面々もいるが)にマルコとの関係が明るみにされ、これまでにないくらい顔を真っ赤にさせるドリス。アリアの言うとおり、口では嫌々言っているが、本心はもっとマルコに甘えたいと思っている。いわゆる、ツンデレといったところか。まぁ、2人っきりになれば夜な夜な愛の情j←言わせないし、そんなことしてないわよ! by. ドリス
エルヴィーラ「…は、入りづらい」
カトリーナ「え、えぇ(でもドリス、羨ましいですわ。わ、私もサトシ様と…)」
サトシ「? 一体何が何だっていうんだ?」
ピカチュウ「ピカァ…」
デント(サトシ、もう少し空気を読むことを考えたほうが良いと思うよ…)
午前中の授業を終えて生徒会室前に到着していたエルヴィーラとカトリーナは、扉の向こうの雰囲気に押されて立ち往生していた。ちなみに途中彼女達と合流したサトシとデントであったが、サトシはエルヴィーラとカトリーナが立ち往生している理由が分からず、デントはそんなサトシを見てピカチュウとともに苦笑とため息を吐くしかなかった。そんなこんなで、4人と1匹が生徒会室に入ったのは、それから少し経過してからのことだった。
マルコ「それにしてもサトシ君。バジーリオのポケモンを一体倒したそうじゃないか」
サトシ「いえいえ。俺、初っ端から苦戦していましたし、エルレイドを倒した後もバジーリオさんのペースに押されていました。まだまだですよ」
マルコ「エルレイドは、バジーリオの手持ちの中でもトップクラスの実力を誇るポケモンだ。それを倒すだけでも大したものだよ。そんな緊迫したバトルを中断させて本当に済まないと思っている。お詫びと言っては難だが、今度機会があれば是非バトルを頼むよ」
サトシ「こちらこそ、お願いします」
マルコはサトシとバジーリオのバトルの戦況を聞いて、マルコはサトシに対して興味を示したようだ。それもバトルの中断させたお詫びとは言え、バトルの約束を取り付けるくらいだ。
バジーリオ「サトシ君のバトルセンスの良さは、実際バトルしたボクも実感したよ。最近、日本のトレーナーがメキメキ勢力を上げてきていると聞いたけれど、ボク達イタリア代表もうかうかしていられないなぁ。あぁ、それにしても我が愛しきアンジェロ・カトリーナちゃんにさっきのバトルを見せてあげたかったなぁ…」
マルコ「はぁ…」
バジーリオはカトリーナにウィンクをしながら、こう語る。マルコはそんなバジーリオを見て、呆れて溜息を吐くしかなかった。
カトリーナ「あの、バジーリオ様。あなたの私に対して、好意的に接してくれるのはありがたいのですが…」
バジーリオ(うんうん)
突然、口を開いたカトリーナに身を乗り出してその声を聞くバジーリオであるが、
カトリーナ「わ、私、あ、あなたのこと…」
バジーリオ(…ゴクリ)
カトリーナ「た、タイプじゃないんです!」
バジーリオ「……」
カトリーナがどこぞの魚人島の人魚姫のようなセリフを放った後、バジーリオの中で何かが崩れた。
マルコ「…だとさ。悪いが、カトリーナの眼中にお前は入っていないそうだ」
バジーリオ「Nooooooooooooo(泣)」←何故に、英語!?
マルコが更なる追い打ちをバジーリオに掛けたことにより、生徒会室いや学院じゅうにバジーリオの大きな悲鳴がこだます。
カトリーナ(だって、私が今気になっているのは…)
サトシ「ん? どうしたんですか?」
カトリーナ「!? はわわわわわ、な、何でもありません///」
サトシ「?」
サトシに声を掛けられ、思わず顔を赤くさせるカトリーナ。もちろん金メダル級の鈍感力を持つサトシには、そんな彼女の心境など分かるはずもなく、今目の前で繰り広げられているこの展開も理解できるはずがなかった。
ヒカリ(ま、まさか、カトリーナさん…)
ハルカ(これは思わぬ強敵の出現かも…)
カスミ(サトシ、アンタは一体何人惚れさせれる気なのよ!)
アイリス(サトシファンクラブが存在するポケヴェール女学院、これからも目が離せないわ…)
ベル(ちょっと、サトシ君。女の子からモテすぎじゃない?)
エルヴィーラ(私にも…構ってほしい///)
今のやり取りで、彼女たちに嫉妬の念が浮かび上がったのは想像に値しないだろう。このように目まぐるしく展開が変わっていく中で時間は過ぎていき、そろそろ合宿先に帰る時間となったマルコとバジーリオはそのまま学院を後にした。その際、バジーリオから「カトリーナちゃん、ボクは諦めないからね!」という無駄な足掻きともとれる一言が発せられ、マルコが溜息を吐いて腹を押さえていたとか…
サトシ(ところで、俺とバジーリオさんがバトルをする原因ってなんだったんだろう?)
未だ、状況がつかめていないサトシであった。
続いて後書きと言う名の舞台裏
マルコ「な、なんなんだ。この終わり方は(汗)」
天の河「アハハ、思ってたのと違う終わり方になっちゃった(汗)」
バジーリオ「アハハじゃないよ。それにボクの扱い、途中から酷くなっていないかい?」
天の河「それはそうだとも。お前は途中からギャグキャラポジションに路線変更していくつもりだったから。今後もバジーリオはギャグキャラとして確立していくつもり(笑)」
バジーリオ「(笑)って、何!? それって決定事項!?」
マルコ「一々煩いやつだ。これ以上俺の手を煩わせるような面倒事は増やしてくれるなよ、ギャグキャラ君」
バジーリオ「マルコまで、酷いよ(泣)」
天の河「それと、マルコにはバジーリオのストッパー役を担ってもらうから」
マルコ「はぁ、まぁいい。コイツとは昔からの腐れ縁だからな」
天の河「さて、今回初登場のバジーリオとマルコの大まかなキャラ設定の説明が終了したところで、今回はお開きにします。ちなみにこの二人は、今後も本作に登場いたしますので是非お楽しみください」