小説『恋姫無双 槍兵の力を持ちし者が行く 』
作者:ACEDO()

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15話


「あー、やっと終わった」

今、俺は今日の兵の鍛練を終え、街をぶらついている。
なぜぶらついているのかというと、街の様子を見るためという建前で賭場を探しているわけだが。

「なんで、あんなとこにいるんだ?」

目の前の茶屋に月がいた。なんだか詠もいないし、お忍びか?
だったら無視した方がいいのか、それとも声をかけるべきか?
お忍びといってもなんかあったら一大事なわけだから普通に声をかけるか。

「よお月、詠もいないのにこんな所でなにしてんだ?」

「あ、蒼さん。茶葉を買おうと思って来たのですが、何か好きな種類とかありますか?」

「いや好みとかはないからなんでもいいんだが……
このことは詠は知ってんのか?」

 それを聞いて、月は気まずそうに首を振る。
 やっぱりお忍びだったか。

 「まあ、息抜きしたい気持ちもわかるがな、もう少し自分の立場を理解しといた方がいい」

 「……すいません」

 そのまま落ち込む月の周りの空気が重くなる。
 ったく、こんな感じにする為に声をかけたんじゃないってのに。

 「あー、まあ、その、なんだ?ただ立場が立場だから出る時はちゃんと言ってから出ろってことでだな。
 ずっと閉じこもってろ。って言ってるわけじゃないからな。変に誤解すんなよ?」

 くそっ、女の機嫌取るのは柄じゃないんだよ。
 こういう時はどう言えばいいんだ?

 「ふふ、はい。分かってます」

 雰囲気が変わったから機嫌が良くなったと思い顔を見ると笑っている。

 「分かってんならいいんだが、笑わないでくれるか」

 「すいません。けど焦っている蒼さんがなんだかおかしくて」

 そう言いながらも笑う月に怒ろうとするも、なんだか怒りづらい。
 一気に話しを終わらせるか。

 「まあ、とにかく!皆に心配かけんなよ。それが言いたいだけだからな」

 頷きつつも笑う月を見ながら、諦め、この話を切り替えることにする。

 「まあいいや月、お前まだ時間あんのか?」

 「あ、はい。今日のお仕事はもう全部終わってますので」

 「ならいいや。月、ちょいっと街の案内をしてくれねえか?」

 まあ、実際は賭場がどこら辺にあるのか把握したいんだがな。
 月はこういうのは眉をしかめそうだしな。

 「はい。いいですよ」

 さあ、行きましょうと言って、此方の手を取りながら案内をとる。
 さすがに、ただこの街に興味を持ったわけじゃなく、賭場を知りたかった俺としてはなんだか後ろめたいんだが……
 ま、期間限定とはいえ此処の客将としているんだ。
 街の様子とかも見ないとな。(結局はなんだかんだ言って、楽しみそうだが)
 そう思考を切り替えて月の案内に従った。

―side 月


 「此処が街を一望出来る場所です」

 今、私は蒼さんに街を案内している。
 蒼さん。霞さんや椿さん恋ちゃんにも勝った人。
 そして、誰でも分け隔てなく人と接することが出来る人。

 「スゲーな。本当に街全体が見える」

 蒼さんはそう言いつつ眼下にある街を見ながらはしゃいでいる。
 まるで子供がそのまま大きくなったようにも感じられる。
 けど、彼は傭兵だ。恐らく大陸一の。つまり酸いも甘いも知っている。しかも一人ではなく、一部隊を率いる立場にある。
 多分、森羅さん達は彼の武と性格に惹かれたんだろう。

 「すげーよ、こんないい街はそうないぜ。頑張ったんだな月」

 「いえ、頑張ったのは詠ちゃん達であって、私じゃないんです」

 そう、私は何も優れていない。
 頑張ったのは詠ちゃん達で、私は当たり前のことをしただけ。

 「あのな月、」

 そう言いつつ頭を撫でる
 その撫で方は不快になるものではなく、どこか胸の奥が熱くなるような落ち着く感じで。

 「お前は少し考えすぎだ。お前はちゃんと自分のしなきゃいけないことをちゃんとしたんだろ?ならいいじゃねえか」

 「けど、詠ちゃん達は私より優れていて、私は当たり前のことしかできない」

 蒼さんに今まで閉まってきた感情を曝け出す。

 「それに、私は血を被ることに慣れてません。
 だから、私なんかより優れて、覚悟を持っている人に仕えた方がいいんです」

 いつも考えてしまうことを喋ってしまう。
 失うのは怖い。けど大切な人が私のせいでその才能を活かせず、後悔するのはもっと怖い。
 それを客将の蒼さんにぶつけている。

 「月、ごめんな」

 それを言った蒼さんは撫でていた手で、私を叩いた。その顔は何処か怒った顔で。

 「月、お前はバカか?アイツらをなめるな!お前の元から去るつもりならもうとっくに去ってる筈だ。主が部下を選ぶように、部下も主を選ぶんだよ。
 当たり前のことしか出来ない?いいじゃねえか。それが出来ない奴もいるし、それで民が安心して暮らせてるじゃねえか。
 血を被ることに慣れてない?いいじゃねえか。お前はその重荷を自覚してるってことだ。その重荷の分自分の民を幸せにしてやれ。
 それにな、アイツらはお前だからこそ頑張んだよ。お前だから仕えんだよ。こんな良い街作って、当たり前のことするお前だからいるんだよ」

 蒼さんの言葉は怒っているけど、何処か励ましていて、私の不安をかき消してくれるもので、思わず涙が出てしまうぐらい安心させるものでした。
 だから、あんなことを言ったから謝らないと。

 「グスッ、ごめんなさい」

 「あのな、月、簡単に謝んな。んで泣くな。
 こういう時は笑え、口の端釣り上げてニコーって」

 「こ、こうですか?」

 蒼さんにいわれ、泣くのをこらえ、自分なりに笑ってみる。
 それを見た蒼さんは頷きながら笑みを浮かべていました。

 「やりゃあ出来んじゃねえか。
 いいか、泣くことがあってもいい、歯をくいしばることもあってもいい、でもそれ以外の時は笑っていろ。
 なにかあったら心で考えろ、今はどうするべきかをな。
 そうして笑うべきだとわかった時は、泣くべきじゃないんだよ」

 そういう風に言い放つ蒼さんは、何処か飄々としていて、今まで悩んでいたのが馬鹿らしくなるくらい、晴れやかな気分になりました。

 「さてと、そろそろ帰るか。あんまり暗くなると詠とかがさらに心配するならな」

 「あの、蒼さん」
 
 「あの、すいませんでした。案内するのはこっちなのに……」

 「月、俺、簡単に謝んなって言ったよな」

 そう言った顔は少し呆れたような笑いを浮かべていて、すぐに下げようとしていた頭を止めてさっきの言葉を思い出す。
 そして、蒼さんに私は教えて貰った笑みを浮かべながら…… 

 「ありがとうございます。」

 お礼をした。自分の悩みを聞き、そして諭してくれたお礼として。

 「及第点だ。
 ほら、帰るぞ。」

 そう返してくれた蒼さんは嬉しそうに笑いながら、先に進み、私はそれに着いていきながら帰りました。




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