小説『恋姫無双 槍兵の力を持ちし者が行く 』
作者:ACEDO()

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16話

―side 詠


ボクは今、書類整理をしている。
月に見せるべき物、又はボクで対処するもの色々ある。正直面倒だけど月の為と思えば、頑張れる。

「あー、あー。詠君、おとなしくこの縄を解きなさい」

けど、現実は厳しい。他の文官もいるけど、結局はほとんどが軍師のボクの所に集まる。
今は、紅蓮団の森羅がボクと同じぐらい出来るからまだ楽だけど、森羅も客将の部下の身だ。いなくなったら、また、ボクが全部をやら

なきゃならない。

「いや、ホント勘弁してくださいよ、詠さん。聞いてますか?聞いてますかー?」

 何か聞こえるけど、無視よ、無視。
 そういえば紅蓮団といえば彼らのおかげで兵の練度も治安も良くなっている。
 特に兵の練度についてはありがたい。賊の討伐等で生存率が上がっている。これで更に力を蓄えられる。
 訓練内容を聞いてみると「奴らは俺達を殺すつもりだ。」とか、「こんな訓練していて、賊に殺されるなんて、あり得ない。」という

評価が多数だ。
 訓練の内容を見てみたら、基本的な動きの確認→一対一の個人演習(勝った方は連戦、負けた方は追加で基礎力強化の訓練(つまり筋

トレ
)、終わったら参戦)これを休憩を行いながら。→そして、董卓軍と紅蓮団の状況を変えつつ集団演習、演習の目的が一定時間紅蓮

団に生き残れだから、紅蓮団がどれほど化け物集団かがわかる。(この演習でも勿論、目的に達していなかったら基礎力強化がある。)

→次に、将による多人数抜き。→最後に、隊別に分かれての反省会。
 これによって戦で生き残る知識を蓄える。
 この内容はかなり厳しいものだろう、普段の訓練の二倍はやっている。
 これを毎回やるならば、紅蓮団が抜けても今の兵の状態を維持出来るだろう。
 恐らく、彼らもそうやって鍛えたのだろう。

 「おーい、聞こえるか?いいから縄を解いてくださいよー。俺はそんな特殊性癖は持ってないよー。
 ……こりゃ完璧に無視されてるな。だったら……
 ちゃんと聞けよ!このボクッ娘ツンデレメガ、へぶっ」

 「誰がボクッ娘ツンデレメガネよ。ボクはそんなんじゃないし、詠って名前があるんだから。
 それに解いたら逃げるでしょ?」

 「やっぱ聞こえてんじゃねえか。
 つーか当たり前だろ?今日は休暇だし、例の件の報告書はしっかり書いた筈だぞ」

 「ど・こ・が、しっかりよ!」

 例の件というのは、蒼が街のたちの悪いならず者を一斉摘発した件についてだ。
 聞いたところによると、蒼が通っている賭場でそのならず者達がいるたまり場の情報を聞き、一人で乗り込み、摘発した。
 というのが大体のあらましらしいんだけど、その報告書の内容が「賭場って、色々情報が集まるね☆これで賭けをするのもまた一興!

皆も如何?」という内容で、これを読んで無性にコイツを殴りたくなった。(その時に霞が「おもろそうやなぁ。ウチもしてみよっか」

とか言ってたのは聞かないことにした。というかあれは幻聴よ、幻聴)

 「ちゃんと森羅とかが書いてるようにしなさいよ。アンタもたまにはちゃんと書くんだから」

 「たまにはってお前な、今回は茶目っ気を出しただけじゃねえか」

 「そんな茶目っ気は必要ないから」

 はぁ、これが紅蓮団の頭だと少し信じられない。
 蒼について、悪いけど、色々調べさせて貰った。
 李高 雲犬 真名は蒼。
 幼少期、「神童」と呼ばれ、将来を期待され洛陽の私塾に入る。しかし、私塾の勉学を怠け、更にはことあるごとに賭けをしていたこ

とから『私塾の落ちこぼれ』等呼ばれていた所謂チンピラだった。
 そして約三年前に洛陽を出て一人旅に出る。その後各地でコイツらしき姿が確認されるが、裏付ける情報はなし。
 しかしその二年後、突如として出てきた傭兵集団『紅蓮団』の上に立ち、『紅蓮団の紅の狼』と呼ばれ、賊には恐怖を、そして国を治

める者達には興味を広めた。
 性格は面倒くさがり、武に秀でているが、文も普通以上にこなす。(ただ文はほとんど部下の森羅に押しつけている。)
 ただ、紅蓮団の部下達の信頼は厚い、全員に分け隔てなく接しており、部下達も気安く接している。
 そして紅蓮団だが、部下達は優秀だ。下手をしたら一角の将になりそうなのがゴロゴロいるが、そんな実力をつけさせたのも蒼らしい


 その為、結成当時から死人が出ないという非常識なことになっているようだ。

 「ったく、やりゃいいんだろ、やりゃ」

 そう不貞腐れた様子を見て少し笑ってしまう。
 なんだかんだ言ってちゃんとやる事はやるのだが、こういう文の仕事では勉強嫌いの子供が無理矢理やってるようにしか見えない。
 けれどやってる内容は当たり前のことから新しい発想まで多岐に渡っている。
 これほど優秀だと、あり得ないけど少し馬鹿なことを考えてしまう。

 「アンタが『天の御使い』かもしれないわね」

 「はあ?」

 天の御使い、この大乱の世を平和にすると言われている。
 管輅という占い師が言った予言だ。

 「んな眉唾なもんに踊らされてんじゃねぇよ。
 俺は李高であってそれ以上でもそれ以下でもない。ただの人間だ。
 お前もちゃんと調べたんだろ?」

 「……気付いてたの?」

 「お前、俺を舐めすぎ。
 情報は大切だ、特に傭兵は……いや、もしかしたらこれぐらいなのは紅蓮団だけかもしれないが。重要になってくる。
 だから各地に少人数の隠密を放ってる。それにお前の隠密が引っ掛かったんだよ」

 つまり個人で隠密を放って、情報を集めているということだ。あと、絶対他の所はやってないわよ。

 「怒らないの?」

 「はあ、なんでだよ?」

 「だって、勝手にアンタのこと調べたのよ!」

 多分ボクなら怒る。
 誰でもそういうのは気分が悪くなる。
 だからこそ慎重に調べてたのに。

 「いや、寧ろやってくれてありがたかったよ」

 「は?」

 「いや、だってな傭兵ってのは精々いいとこ前線に立たせる数あわせみたいなところがある。悪けりゃ囮にされることもある。つまり

は死んでも構わない兵だってことだ。
 そんな死ぬ奴らの情報はいらない。そうだろ?」

 「まあ、そうだけど」

 「つまり、俺達には死んでほしくなかったってことだ」

 「それ、ちょっと短絡的じゃない?もしかしたら調べ尽くして、使い捨てするつもりかもしれないのに」

 「そうか?」

 「そう」

 「まぁ、その時はしょうがねえよ。裏をかかれ、依頼人を見誤った俺達の責任だ。最後まで諦めずにやり合って生き残るさ」

 「やっぱり、アンタ達は傭兵みたいじゃない」

 なんていうか傭兵には乱暴で金にしか興味がない印象があったせいか、紅蓮団が統率された軍の精鋭部隊に感じてしまう。裏切るとか

言わない所とかもそうだし。

 「まあ、そこいらにいる傭兵とは違うという自覚はあるがな……
 いいか詠、本当に良い傭兵ってのはな金と契約が続く限り死ぬまで従う奴のことを言うんだよ」

 「つまり、アンタ達はそういう奴等って言いたいわけ?」

 「ま、そういうことだ。っと、……報告書はこれでいいよな。じゃあ俺はこれくらいで」

 「あっ、やれば出来るじゃない。……って、ちょっと!アンタ、何時縄から抜け出したのよ?!」

 「何時って、お前と話してる最中だが……ああ、安心しろ報告書はちゃんと書いてる。」

 「だったら最初からちゃんとしなさいよ。全く。」

 そして、コイツの報告書を見るとちゃんと書いてある。だったら最初からしなさいよ。本当に子供のような奴だ。

 「ああそれとな、良い傭兵にはな、良い依頼人を選ぶ才能が必要なんだよ」

 「その良い依頼人ってのはボク?それとも月?」

 「決まってる。両方だ」

 そして、「賭けるぞー」とか言いながら飛び出していったアイツに呆れつつ、ボクは書類の束に向き合った。




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