小説『Brave of Seritona -南の勇者の物語-』
作者:愛音()

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第五章 まっすぐに……首都へ



「よし、これでいいかな」

 荷車に最後の花束を積み込んで、マーシーとリオネロで落ちないように括りつけた。

「ロゼルとリオネロが手伝ってくれたお陰で大分早く仕事が終わったわ。ありがとう」

 ソルティナが嬉しそうに礼を言う。

「どういたしまして。これでやっと首都へ行けるな」

「ええ」

「さ、荷台に乗りな。花を踏みつけないようにしてくれよ」

先に荷車の荷台にリオネロが飛び乗り、ロゼルに手を差し出す。
差し出された手をとって、ロゼルも荷台に乗り込んだ。
ソルティナとマーシーは前方に座り、ジュノを走らせた。

 道の上には十五センチほどの水があったが、嫌がることもなくすいすいと走っていく。
 このひだは水でも大丈夫のようだ。

「それにしても驚きました。またジュノにお世話になるなんて」

「こいつは子供なんだ。まだ体が小さいだろ?」

 確かに、荷車を引いているジュノはロゼルたちが乗ったものより数段小さい。
 小さいといっても牛ほどの大きさはあるのだが。

「ジュノはね、水陸両用なのよ。もしここの水が急に増水しても、ある程度なら首都まで行けるわ」

「へぇー……水陸両用で人懐っこい。こりゃいいや」

 スピードの出てきた荷車の上でリオネロがはしゃぐ。よほどジュノが気に入ったようだ。

「そういえば、どうして花を摘むなんて危ない仕事してるんですか? 
 首都を一歩出れば、モンスターの襲撃に遭うかもしれないのに」

「湖岸近くにはモンスターはあまり出ないのよ。
 花畑でも火山の方はモンスターが結構いるんだけど。
 でも女一人じゃいくらなんでも危ないでしょ? だから毎回彼に来てもらってるの。
 実際危ない目に何度か遭ったけどマーシーが撃退してくれたし」

「それに月に一回の花市は皆も楽しみにしてる。
 だから危険を冒してでもやる意味はあると思うぜ」

 ソルティナの隣でマーシーが言う。
 二人とも危険な仕事なのにどことなく楽しそうだ。

「ロゼル、あんたもリオネロに雇われてるんだろ? 
 俺も同じさ。危険が無ければ、傭兵なんて仕事必要ない。
 危険があるからこそ、俺たちは人の役に立てるって訳よ」

 誇らしげにマーシーが言ったその時、ざばっと大きな音がして右側の湖から何かが飛び出してきた。

「に、肉食魚類……」

「大きい……」

 ロゼルとリオネロはその大きさと存在感に圧倒され、思わず感嘆の声が漏れた。
 湖から飛び出してきたのは肉食大型魚類だった。

 丸く太った赤い鱗の体に青の線が一筋あり、尾びれは天女の羽衣のように透けてひらひらとしている。
 魚にしてはやけに凶暴な牙を持つそれは、唖然と眺めているロゼルたちの頭上を
弧を描くように舞い、ざばーんと左側の湖へと落ちた。
 水しぶきがきらきらとはじけた。

「あれが、大型肉食魚類……」

 大型というより最早巨大怪魚だ。

「でっけえ……。あんなのに食われたらひとたまりもないな」

「本当に……私でも倒せるかどうか……。襲われたら大変です。……お二人とも怖くないんですか?」

 ロゼルとリオネロが恐怖を感じているというのに、前に居るソルティナとマーシーは
恐怖どころか驚いたりする様子もない。

「そうね。もう慣れちゃった。始めはびっくりしたけど」

「湖の悪魔ミゼルフィッシュは、この道を通っている間は滅多に襲ってこないから大丈夫さ。
 それにいざとなれば、俺がいるから安心してな」

「まぁ、頼もしい」

 ふふふとソルティナが笑い、マーシーも笑う。
 襲われたら笑い事では済まないのだが。

「二人とも仲いいんだな」

 二人の様子を見ていたリオネロが言った。

「そうですね……」

 幸せそうに笑っている二人はまるで恋人同士のようだ。
 実際そうなのかもしれない。

 ロゼルはなんだか、複雑な面持ちで二人を眺めた。


 暫く変わり映えのしない湖と空の青い穏やかな景色が続いていた。
 ジュノのお陰で滑るように進む荷車の乗り心地はとてもよく、うとうとと眠ってしまいそうだった。
 時折、ミゼルフィッシュが跳ねたが、マーシーが言ったとおり襲ってはこなかった。

「あ、見えてきた。もう少しで首都よ」

 日が傾き夕暮れになった頃、ソルティナの声に前方に視線を凝らすと、
首都を囲む石造りの壁の下に大きな門が見えた。

「ロゼルもリオネロも通行証は持ってるよな?」

 後ろを振り返りながらマーシーが訊く。
 ロゼルとリオネロは首を横に振った。

「何? 二人とも持ってないのか。まいったなぁ」

「それは大変……どうしましょう。検問のことをすっかり忘れてたわ」

 心配する二人に対して今度はロゼルがまるであくびをするかのように呑気に答えた。

「それなら大丈夫ですよ。リオネロさえ、隠れていてくれれば」

「え?」

 全員がきょとんとロゼルに疑問の視線を向けた後、顔を見合わせた。

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