小説『Brave of Seritona -南の勇者の物語-』
作者:愛音()

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 暫く辺り一面の花畑が続いていた。
 シェズの魔法のせいか不思議とモンスターに出くわすことも無く、
 花のいい香りの漂う中を真っ直ぐにロゼルたちは歩いた。

 すると、湖の湖岸近くで、人影を二つ見つけた。近くには荷車があった。
 どうやら商業用の花を摘んでいるらしい。

 女の人がロゼルたちの気配に気づいて顔をあげた。
 ウェーブがかった肩までの黒髪に清楚な髪飾りをしている。

「あら、こんにちは」

「こんにちは。花を摘んでいるのですか?」

「ええ。月に一度開かれる花市に出す花を摘みに来るの。これなんかいいと思わない?」

 そう言って摘んだばかりの薄紫の花を差して微笑んだ。

「君たちは見たところ旅人みたいだけど、首都にいくのかい?」

 声のほうを向くと、少し離れた所で花を摘んでいた背の高い黒髪の男の人がこちらへと歩いてくる。
 仮面は付けていないがロゼルと同じ騎士の鎧を着ているあたりからしてどうやら傭兵のようだ。

「ああ、そうなんだ。これから湖を二人で歩いて渡るところさ」

 リオネロがふてくされた顔をしながら言うと、

「それは大変だなぁ。歩いて渡るといっても湖には、大型の肉食魚類がいる。
 運が悪けりゃ食われちまうこともある」

 男は同情したように言った。男の話にリオネロの顔が青ざめる。

「肉食魚類って……」

「でも、行くしかないでしょう。嫌なら、ここから引き返してもいいですよ」

 ロゼルはリオネロに冷たく言い放った。

 大型肉食魚類が怖くて勇者などやれるものか。

「そうだ、よかったら俺たちと一緒に行くかい? 
 花を摘み終わったら首都に戻るから、ついでに乗っけてやるよ」

「そうね。それがいいわ。荷車なら早いし」

 女の人も両手を合わせて嬉しそうに同意する。リオネロの表情がぱっと明るくなった。

「やったぜ、ロゼル。乗っけてくれるってさ!」

「本当ですか? ありがとうございます」

 ロゼルの声も自然と明るくなる。

「その代わりと言ってはなんだが、花を摘むのを手伝ってくれないか? そのほうが早く首都へ行ける」

「ええ、分かりました。乗せてくれるというのであれば、なんでもします」

「ああ、もちろんだぜ」

 ロゼルとリオネロは二つ返事で快く引き受けた。

「そうか。そうしてくれると助かる。俺はマーシー・マローム」

「あたしはソルティナ・ソリス」 

「ロゼル・ロベルタ。こっちはリオネロ・リーヴィー」

 差し出された手に握手をしながら、お互いに自己紹介をする。

「早速だけど、綺麗に咲いている花を摘んで欲しいの。
 あの荷車が一杯になるまで摘まなくっちゃならなくて。
 どの花でも、自分がいいなと思った花を摘んでくれたのでいいから。
 でもできるだけ元気なのをお願いするわ」

 ソルティナはにっこりと微笑んだ。



 それからロゼルとリオネロは二人の手伝いのため、花を摘んだ。
 荷車一杯とはたいした量だ。
 それでも、ソルティナは次々と元気に咲いている色とりどりの花を色分けして、荷車に積んでいく。

 マーシーのほうはというと、どの花を選んでいいのかあまり分からないらしく、
少ししおれかかっている花をソルティナに見せては、駄目だと首を横に振られていた。

 一方リオネロはというと、変わった草花を摘んだり、変わった昆虫を持って来ては、
ソルティナをからかって遊んでいるようだった。


「ふぅ……二人ともどうしてあんなものを持ってくるのかしら……。
 あら、ロゼルさすがね。商品になる花がよくわかってる。マーシーとは大違いね」

 一人黙々と花を摘んでいると、隣に来たソルティナがロゼルの摘んだ花を見て言った。

「そうですか? ありがとうございます。結構花とか好きなんですよ」

「ふぅん。そっか。女の子だもんねぇ」

「え? どうしてそれを?」

 仮面も付けているし、鎧は男物だ。簡単にわかるはずがない。

「なんとなく。花の選び方からして、女の子かなーって思って。当たってた?」

「その……出来るだけ秘密にしておいてくれませんか?」

 ロゼルは少し視線を落とした。その様子を見て、
何かを悟ったのかソルティナはふふっと笑みを浮かべた。

「わかった。マーシーには言わないでおく」

「ありがとうございます」

「さ、あと少しだから、がんばろー」

 ソルティナはそう言って伸びをしてから、ロゼルが摘んだ分と
自分が摘んだ分の花を荷車へと運び、また花を摘み始めた。


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