§ § §
城の一番高い塔の上──。
窓から検問の様子が見えていた。
南の門。そこで悪魔の紋章を感じた。間違いないだろう。
「やっと来たか。南の勇者よ……」
濃紺のローブを被った男はほくそ笑んだ。
「これで勇者全員が首都に集まったという訳だ?」
背後から声がした。
部屋の椅子に腰掛けて、林檎を投げて遊んでいる少年の方に視線を向ける。
黒髪の少年という人間の姿をしているが、そこに座っているのは四方の離れ小島に棲む悪魔だった。
「こちらとしては一人か二人、消しておきたかったのだけれども」
ちらと視線を送りつつ口を噤む。
「なに? 俺のせいだと言いたい訳? 仕方ないじゃん。
あんたんとこのモンスターが弱すぎるんだから」
男は小さくため息を吐き出した。
「まあ、いい。宴は多いほうが楽しいものだ」
「一体何をするつもりだ?
つまんないことのためにあいつらに力を貸したわけじゃないんだぜえ?」
「王女と、王族の血を引く勇者……。姉妹の戦いとはどうかね?」
「王女を操って戦わせるのか。そりゃ見ものだな……。くくくく」
片手で林檎を弄んで、悪魔は嗤う。
「お前はどうする? ただ見ているだけじゃつまらんだろう」
「……なあ、賭けをしようじゃねえか」
悪魔は林檎を一口かじって身を乗り出すようにして言った。
「賭け?」
男は眉を吊り上げた。何を言い出すかと思えば。
「お前の魔法と、俺の紋章の力。どちらが勝つか」
「いいだろう。だが、賭けの対象はもちろん王女同士の一騎打ちであろうな?」
「そうでなくちゃ、賭ける意味がねえだろ?
まあ、うちの紋章の方が強くとも勇者が軟弱じゃ勝負にはならねえだろうけどなあ」
「賭けるのはなんだ?」
「そうだなあ……命といいたいところだが、生憎悪魔は殺されても死なないんでね。
ああそうだ。お互いにお互いの望みを賭けようじゃないか。
そうだ、あの目障りなモンスター、消してくれる? 恐怖の対象は俺一人で十分だ。
俺が勝ったら、お前のモンスターを全部消すのと、公的にお前の存在も消せ」
「私が勝ったら?」
「なんでも好きな望みをどうぞ。今まで通りの独裁でも、国外逃亡でもなんでも。
なんなら綺麗な娘でもさらってこようか? それとも俺の力が欲しいか? くくくくく」
男は少し考えて口を開いた。
「……好きな望み、なんでもいいんだな?」
「ああ。……悪いこと考えてそうだな。くくくく」
悪魔は嬉しそうににたーっと笑みを浮かべた。
「考えておく」
男もまた、いびつな笑みを見せた。