小説『Brave of Seritona -南の勇者の物語-』
作者:愛音()

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そして南の勇者ははじまりの大空に舞う 



 宴は三日三晩続けられた。勇者が一同に会するのはなかなかないことであったし、
この先別れれば二度と会うことがないように思われ、皆なんだかんだいって、
なかなか出発しようとはしなかった。

「これで、お別れですね」

「王女様自ら見送りとは、恐れ入ります」

 白い城壁と城壁の間にある正面の城門の前でクリスが言った。
 クリスはこれからシロムとともに北の山に篭るのだと言う。

「ランス、王女を頼みますよ。もしものことがあったなんて聞くのは嫌ですからね」

「ああ、言われなくてもわかってるよ」

「今度俺達が会うのはいつだろうな」

 柄にもなく寂しそうにオーガが言う。

「何言ってんだよ。いつだって会えるさ。寂しくなったらいつでも城に来いよ。俺が相手してやる」

 ランスが軽く拳でオーガをこづいた。

「次に勇者が会するそのときは王女様の婚礼の儀かもしれんなあ」

 シェズがのんびりと言った。

「婚礼?」

 ランス、オーガ、リオネロの声が重なった。

「そうですね。ロシェッタももう十六ですからね。いいお相手が見つかるといいですが」

「婚礼だなんて。私より先にお姉さまのほうじゃなくって?」

「ロシェッタ……。私は結婚しなくても別にいいんですよ」

「王女が十六ってことはロゼルはいくつなんだ?」

 リオネロの問いをロゼルはそっぽを向いて受け流した。

「十八です。私より二つ年上ですから」

 ロゼルの代わりに王女がさらりと言った。その言葉にリオネロが驚く。

「十八! 俺と同じじゃないか。ロゼル! 子ども扱いして俺を置いていこうとしたくせにっ」

「な、なんのことですかねー」

「あ、とぼけんなよっ。ロゼルっ!」

「仲がいいのう」

「本当に。仲がよろしいですこと」

「よくないっ」

 ロゼルとリオネロの声が重なった。

 それを見届けてからシロムがのんびりと、

「さ、そろそろ出発するとするかの」

「そうですね」クリスは荷物を背負って北の門の方へと歩き出す。

「皆さん、お世話になりました。王女様もどうかお元気で。
 ランス、オーガ、ロゼル、リオネロ、どうかご無事で」

「クリスも元気でな」

「また会いましょう」

 ロゼルとリオネロは遠ざかっていくクリスに大きく手を振った。

「それじゃ、俺も行くかな」

「途中まで一緒にいってやろう」

 いつから居たのかオーガの隣でシムワールの声がした。

「シムワール爺!」

 オーガは嬉しそうに、手を振って東の門へと歩いていく。
 それを見届けてから、ロゼルも王女とランス、シェズとシクランゼに別れを告げる。」

「また、来ます。それまでお元気で」

「ああ、いつでも来いよ」

「ロゼルお姉さま、本当にありがとう。リオネロも」

「よせやい。照れるよ」

 王女に微笑まれてリオネロの顔が赤くなる。

「それじゃ、俺たちも行こうぜ」

「行くってリオネロも一緒に来るんですか?」

 きょとんとして訊きかえすと、ばさっと大きな羽音がして、大鷹が舞い降りてきた。

「イーディー? どうして?」

「予定は未定、だろ?」

 リオネロは大鷹に乗ってにっと笑った。

「もしかして……」

「一度フロームディアに戻ろう。ロゼル。イーディーなら半日もあれば着く」

「リオネロ!」

 ロゼルの顔がぱっと輝いて、リオネロに続いて大鷹に乗り込む。

「シェズ、本当にお世話になりました。ロシェッタもお元気で」

「お姉さま、たまには遊びにいらしてくださいねー」

 金色の髪を揺らしながらロシェッタが手を振る。
 その横でシェズが微笑んでいた。

「ああ、行っておいで」

「行ってきます!」

 大鷹が力強く羽ばたくとロゼルとリオネロを乗せて飛び立った。
 見る見るうちに王女やシェズが遠くなり、城は小さくなった。

「フロームディアに戻っておばさんやセダに会って、そうしたら俺も準備をして、
 ロゼルと共に着いていく。いやだって言っても絶対着いていくからな」

 リオネロの思いがけない言葉に、一瞬思考が停止した。
 それからリオネロの背中に抱きつく。

「……リオネロ! ありがとう」

「わっ。やめろよ。ロゼルっ」


 青い空をイーディーは風を切って羽ばたく。
 はじまりの地フロームディアの空へ。


                      

                       ── 完 ──

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