「それで……皆、今後のことは決めたのか?」
少し笑いがおさまるとランスが真剣な面持ちで言った。
皆、少し視線を落として、ランスの問いに答える。
始めに答えたのはクリスだった。
「私は……シロムのところで魔法を学ぼうと思っちょります」
「それは、悪魔の紋章なしで?」
「いえ、悪魔の紋章の力です」
「じゃあ……」
「ええ。私はもう暫くこの紋章と共に生きようと思うちょります」
「そうか……」
少し重い空気が漂っていた。
シーラを生かしているのはシーラが唯一、悪魔の紋章を取り除く力を持っているためだ。
だが、クリスは紋章と生きる道を選んだ。
「俺はここで騎士達を鍛えようと思う。
今の騎士達はシーラの魔法で操られていた期間が長いからな。
体もなまっているし、とても国防をまかせられねぇ。
俺も、騎士や兵士達が立派に強くなるまで紋章と共に生きようと思うんだ。
紋章があれば俺一人でも十分戦えるからな」
「それじゃ、ランスも……」
ランスは頷いた。オーガは腕を組んで俯いたまま、
「……俺は村に戻る。俺の育った村は一際貧しくてな。老人と子供しかいねえ。
もしモンスターでも来ようものなら、村はすぐに潰されてしまう。
俺は、一人ででもその村を守りたい。もちろん、子供たちが大きくなるまでだが、
紋章の力に頼ることになると思う」
「オーガ……」
「私は……旅をしようと思っています。旅をしながら多くの村や町の手伝いをしたい。
そのためには少なからず力が必要となってくるでしょう」
「お姉さま? 王宮で暮らすのではないのですか……?」
ロシェッタ王女が寂しげな顔を見せる。
「それじゃ、ロゼル……? ロゼル、君は女なんだぞ?
それなのにその額の紋章と共に生きるって言うのかい?」
リオネロがロゼルの額に視線を向けた。
今はティアラ代わりの飾りで隠されてはいるが、これから先も隠し通さなくてはならないだろう。
「リオネロ、この国が本当の意味で平和になるまでの間だけですよ」
「でも……。ロゼル、君は本当にそれでいいのか? 普通の暮らしがしたいんじゃなかったのかよ」
リオネロが真剣にロゼルのことを思って言ってくれているのがわかる。
だけれども、ロゼルの心は変わらなかった。
「普通の暮らしがしたいと思っていたことは事実です。
でも、この力で誰かの役に立てるのなら、私はもう少しこの忌々しい力と生きてみようと思うのです。
……これもリオネロが気づかせてくれたことなんですよ。
だからそんな顔しないでください」
リオネロは何か言いたげな複雑な表情をしてから、「わかった」とだけ呟いた。
「ほおー……珍しいことになったもんじゃな。勇者全員が紋章と共に生きるか」
シロムが感心したように言った。
「だがまあ、シーラが生きている限りいつでも紋章の力は消すことができる。
お前さんがたはまだ若いし、好きなようにするといい」
シェズが微笑む。まるで初めからこうなることがわかっていたかのような笑みだった。
「なあに、あいつもそう簡単には死なんじゃろうて」
「全くだ」
シクランゼが言うとシムワールが同意した。
「それでは……皆さんの今後の活躍を祝して、乾杯でも」
寂しげだが、それでも嬉しそうに微笑んで王女は言った。
「そうだな。……って爺さんたちもう飲んでるのかよ」
ランスの言葉に魔法使いたちのほうへ視線を向けると、皆、ワインやらビールに口を付けていた。
「まぁまぁ、めでたい席なんですからいいじゃないですか」
「とりあえず、乾杯だ。乾杯」
オーガがビールの入った杯を掲げる。
「リオネロ、お酒飲めますか?」
「あったり前だろ。もう十八なんだぜ」
リオネロも杯を手にして得意げに笑った。
「それでは、皆さんよろしいかの?」
なぜかシェズがしきり、それに対してランスが「王女に言わせてやれよ」と口を挟んだ。
「それもそうじゃの。では、王女、どうぞ」
「ふふふっ。それでは皆さんいいですか。皆に多くの祝福があらんことを! 乾杯!」
「乾杯!」
皆の杯が掲げられた。
王女の音頭の祝福の言葉は勇者としての絆であり、誇りであり、
栄誉であり、何よりも嬉しい言葉であった。