小説『なんでもない詩』
作者:文月 青鈍()

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「ももいろのゆき」



あれから

何回春が訪れたろう

今でもいるのかな

一緒に舞い踊る桜をみた

あの子は



何故だろう

自分が幼かった頃

ある公園の滑り台の上で

桜がヒラヒラと舞う光景を

記憶として残していた

だが

その鮮やかで神秘的なこと以外

覚えていない

その公園の名も滑り台の色も

ただ目に映るは淡い桃色の雪

そう

桃色の雪と呼んでいたんだ




そんな表現は可笑しい

文章的にも科学的にも

でも

その表現が自分は好きだ

型にはまらず

枠に当てはめず

思うが侭に形にする



幼子がクレヨンで描くみたいに

線とも物の形ともいえぬ形状

成長するにつれ

忘れられてゆく過去の遺物は

きっと桃色の雪としてではなく

白銀の雪として足元に

降り積もっていくことだろう


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