小説『なんでもない詩』
作者:文月 青鈍()

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「らぶれたー」



昔一人の子供が詩を書いた

それは、悲しくもなく笑えるものでもなかった

だが、決して嘆きを与えるものでもない

悲しみ、絶望、怒り、混沌・・・・

何も無い詩は、ただの言葉の羅列でしかなかった

子供は気づいた

詩って一体何だろう

焦がれる気持ちを描くものだろうか

それとも世界平和のものだろうか

単に自己満足のためだけのものだろうか

否、どれも違った

唯一子供が興味を示した詩

それは、自分に対する遺書




これからの自分へ

おそらく世界に対して無関心を抱いている自分へ

そして自分自身が大嫌いな自分へ

子供にとって遺書というものは

自分に対するラブレターだ

書き殴られていく文字には感情が無い

きっと無になってしまったんだろう

それでも子供は書き続けた



幾年か経ち

子供は大人になっていた

大人になった子供は詩を読んだ

幼い頃の自分が

今の自分に宛てた遺書

内容は無機質なものだった




みらいのじぶんへ

きっと、きみはなくだろう

きっと、きみはなげくだろう

きっと、きみはなみだをながさないだろう

きっと、きみはじぶんがきらいだろう

・・・・・・・・きっと、きみはそらをみあげるだろう



短い文章が書かれていた

ソレを呼んだ大人は動かなかった

いや、動けなかった



大人は空を見上げた

空には何一つ無く広かった

大人は遺書を心の中にしまった

-2-
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