小説『なんでもない詩』
作者:文月 青鈍()

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「 さむい 」





暖かい日差しが恋しい


笑いあえた仲間が恋しい


懐かしいあの空間が恋しい


恋しい気持ちだけが空回りしてる


あぁ、なんて寒いんだろう







疑心に満ち溢れた人間関係が寒い


意思の疎通が図れないことに心が寒い


心の拠り所がなくて寒い


寒いと感じる心が凍り始めている


あぁ、なんて冷たいんだろう






昔聞いたことだけど


手が冷たい人は心が温かい


だけど 例外はあった







ほら、ボクの手はこんなにも冷たい


ほら、ボクの心はこんなにも冷たい





泣きながら笑っている仮面をつけて


笑いながら泣いている本心を隠して


乗れもしない大玉に乗ってクラウンの真似をする


温かみは求めないよ


返せないから





いつか 氷山のようになるのかな?


いつか、万年雪みたいになるのかな?


いつか、ううん……


きっと、溶けることはないんだろうな






「 さむいね 」


君は、ボクに話しかけてきた


「 さむいね、きみの手は冷たいね 」


ならば話しかけなければいいのに


ならば手を握らなければいいのに


「 そして、きみは優しい人だね 」


何を言ってるんだろう


こんなボクが優しいわけないじゃないか


「 手が冷たい人は優しい心を持ってるんだよ 」


嘘だ、ボクだけは例外だ


「 だって、君はこんなにもボクの話を聞いてくれる 」


何だ、何を言っているんだ君は


「 ボクは、君に酷いことをするんだ、今から 」





そう言って、ボクの冷たい手を掴んだ





「 ごめんね、 むりやり君の手を掴んで引っ張って 」


嫌だ、そっちには行きたくない


嫌だ、そっちに行けば戻れなくなる





ボクは、ボクは、まだ溶けたくない






「 ごめんね、 むりやり君を温かい場所に連れ出して 」


そう言って、君は笑った


「 ほらね、ボクは君に酷いことをした 」


どうして、そんなにつらそうなの?


どうして、そんなにくるしそうなの?


「 君の手は、まだ冷たいね 」


「 ボクのことなんか、放っておけばいいのに 」


「 大丈夫、ここにいれば心は温かくなるから 」


「 嘘だ、もう諦めてるから 」


「 嘘だ、まだ諦めてないくせに 」


「 君に何がわかるのさ 」


「 君だからこそわかるのさ 」


「 ボクは君がわからない 」






「 ボクは、凍ってしまった君の心の一部だよ 」







そういって、君は笑った


なぜか、涙がこみ上げてきて、見られたくなくて


君に背中を向けて涙をぬぐった



「 大丈夫、心ってのは簡単に凍らないよ」



背中を押して陽だまりに送り出してくれた


涙を拭いて振り返ると


温かい笑顔をくれた君は、もういなかった

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