小説『アールグレイの昼下がり』
作者:silence(Ameba)

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昼食もそこそこに眼鏡を掛け、ある書物を片手に紅茶を飲んでいると乙の部屋のドアにノックが鳴った。

「?」

いつもならば、何らかの反応があるのにドアの向こう側は人の気配を残し静まっている。

「…なんだ?」

乙は、ドアに向かい静かにドアを開ける。
そこには弟の聖慈が少し気まずそうに立っていた。

「聖慈?」
「あの…」
「そんな所で立ってないで入れよ」

少し俯いている聖慈に、完全にドアを開き部屋へいざなった。
室内電話で飲み物を頼み、ソファーへ座らせると程なくして聖慈のココアが届いた。
2人きりの部屋には何となく沈黙が流れる。
いつまでも口を開かない聖慈に乙が先に口を開いた。

「勉強はいいのか?」
「……」

フゥと息をつくと眼鏡を外し、また口を開いた。

「俺に用があったから来たんじゃないのか?」

しばしの沈黙の後、言いにくそうに上目遣いにやっと聖慈が口を開いた。

「……。
…ね、姉様は‥留奈の事が好きなの?」
「え?」
「留奈は…僕の…メィ…から…」

段々と声が小さくなって聞こえなくなる。
歳の離れた姉に意見をすると言うことは相当の勇気がいるであろうと言うのに、それでも一生懸命に言おうとする聖慈に思わず優しく目を細める。

「クス…」
「何がおかしいんですか!!」

勢いよくスクッと立ち上がると、その反動でココアがカタリと揺れた。

『これは思わぬ所に小さなナイトがいたものだな…♪面白い…』

乙はスッとソファーから腰を離すと、フッと笑顔で一瞬目を伏せ
次の瞬間…!!

今までにない程の冷たい形相へと変貌させた。
姉のあまりの表情の豹変に聖慈は凍り付き固まった。

「…ッ!!!!」
「たかだか産まれて5・6年しか生きていない弟のお前が!!
この俺に意見するつもりか!?」
「…あ‥あぁ…」
「フッ…面白い。言ってみろ…」

感情など全くこもっていない無機質な声…。
下等なものでも見るような、人を落しめる蔑んだ冷たい瞳…。

ゆっくりと聖慈に近づいてくる。
思わず聖慈は一歩後退った。
トンと軽く聖慈の胸に乙の指が突いた。

「…どうした?言えないのか?」
「……ぁ…」

絶対的な恐怖を与える支配に満ちた威圧感。
全身の血の気が引き、毛穴が全開に開き大粒の冷や汗が湧き出てくる。
目を合わせているだけで腰が砕けそうになる程に足はガクガクと震え、立っていることすら、やっとになっているのが聖慈自身が身を持って自覚した。

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