「私が、使用人だからですかぁ?」
膨れっ面で口を尖らせる。
「そういう事じゃない。
アルコール初心者があんな飲み方をしていたからだ」
「初心者じゃないもん!!」
ホールで瀾が一気飲みをしているのを見ていた乙は、今だに背伸びをして手を伸ばす瀾にグラスを奪われたら最後だと踏んだ。
「ガキか!お前はー!!」
乙の言葉に途端にシュンとすると微かに俯き、おとなしく口を開いた。
「…ズルいですぅ…乙様…」
「は?」
ジワリと瀾の瞳には涙が溜まっていく。
「仕方ないだろ。これはお前には強すぎ…」
「そういう事じゃないですぅ!!」
「…じゃあ、なんだ」
怪訝そうに顔をしかめ瀾に問う。
「乙様、すぐ怖い顔するぅ…ウッ
最初はあんなに優しかったのに、急に冷たくなったり…ヒクッ」
「…それは、お前が…」
「お前じゃないもん!!!!ウッ…ヒクッ」
「……」
途端に瀾は子供のように、涙を手で拭きながら続けた。
「昨日だって…冷たかった…ウッ
なのにこんな所…連れてきたり…なのに…。
今だって名前で呼んでくれないもん!!
私の事…アクセサリーって・・言ったり…ヒクッ…。
解んな…いよぉ…ウッ・ヒクッ」
「…瀾…」
「私ばっかりズルい…。
乙様の事考えてるだけで…ウッ
ドキドキしたり…胸が痛くなったり…ヒクッ
ズルいよぉお!!! 」
瀾は泣きじゃくりながら乙の胸に飛び込んだ。
急に飛び込んできた瀾にビックリしながらも、腰を支える。
ヒクヒクと子供のように泣きじゃくる瀾を見て少女が今まで、どれくらい口にする事無く耐えてきたかが伺える。
酒の力を借りて、初めて発した瀾の言葉に乙は答えた。
「俺はてっきり、避けられているのは自分の方だと思っていた…。
だから、無理に近づくよりと…
でも、違うのか?」
瀾は乙の胸の中でフルフルと頭を振った。
乙は、瀾を優しく少し抱き締める。
「そうか…。
逆に瀾を傷つけていたんだな、悪かった」
ハァっと反省のため息を吐き、片方の手で瀾の顔をあげさせヒクヒクとしている少女に優しい笑顔を送った。
「少しだけだぞ…」
ほんの少量を酒を口に含み、口付けをした。
「んっ////」
唇が離れると「ふむぁ〜」と潤んだ瞳で可愛く乙を見つめる。
乙はスッと瀾から離れ、一歩後退る。
瀾はまた少し淋しそうな顔を見せた。
「ここからが本当のエスコートだ」
と、乙が口にするとその場にひざまずき、瀾の手にソッとキスをする。
「今宵は俺と一緒に時をすごしていただけますか?」
瀾を見上げた乙の顔は優しく、そして誰よりもセクシーに格好よく、本当の王子様のように映ったのだ。
瀾は胸をドキッと鳴らすと、あどけなく恥ずかしそうに照れながら、こう答えたのだった。
「え?…はい…。
…喜んで…///」