小説『アールグレイの昼下がり』
作者:silence(Ameba)

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瀾は、グラスを受け取ると青年が口を開く。

「こんなに美しい女性が壁の花を飾っているなんて勿体ないなぁ」
「あの…」
「もし良ければ、僕と…」

青年がそこまで言い終えると、ホールにはセレブな女性達の憧れに対する甘い吐息と声が響く。

声の先を見ると用事を終えた乙が、踊り場の階段から降りてくるところだった。
ホールに着くと、あっという間に女性達に囲まれる。
一人一人に笑顔で挨拶しながら前に進んでくる。

すると、それを横目に青年は、嫌味を込めて

「やれやれ、相変わらずおモテになりますね。
もしかして君も乙君を見に来た一人かな?
悪いことは言わないよ。
止めておいた方が良い。
あんな奴どうせ一緒に居たって、ただ顔だけの奴で詰まらないさ」

楽しそうに自分と同じくらいの娘達と話し、笑っている。

『どうせ、乙様なんて!』

やけになりグラスの飲み物を一気に空ける。
すると、ほんのり体が熱くなる。
青年は壁に片腕を着き、瀾の手をすくい上げる。

「僕と踊らない?
もちろん、この先もずっと…
あんな奴に憧れていたって、ろくな事がないよ。
だから…」
「あの…!!」

青年は瀾ににじり寄ってきた。


パシッ!!!



不意に青年の頬を鞭のようにしならせ白い手袋が容赦なく叩いた。
瀾がビックリして手袋が飛んできた方向を見ると目の前に乙がいる。

「…社交場はナンパスポットじゃない。
もっと紳士に振る舞ったらどうだ?」

青年は、乙に向け睨みつけ口を開く。

「何!!」
「それとも…」

クールにそう言うと、瀾の腰をグイっと自分の腰元まで片手で抱き寄せると相手を威圧するような鋭い眼光で青年に言い放つ。

「俺の女に何か用か!?」
「ッ////」

青年はたじろぐと、カーッと顔を赤くし悔しそうにその場を後にする。
とたんに観衆から安堵とその振る舞いに声が上がった。
瀾は顔を真っ赤にして俯いた。

「こっちへ」

瀾の手を引き、すれ違うホールスタッフからシャンパングラスをスルリとさらうとオープンテラスへと連れていく。
乙は手摺りに片肘を付き、背中を凭れ無言でグラスを口に含んだ。

先程の乙の言葉が耳から離れない。
ドキンドキンと胸が高く音を鳴らし熱を誘う。

「あ、あの…乙様
ありがとうございました…」
「…当然の事をしたまでだ」

何故だろうか…。
こんなに冷たくされているのに、体の熱はドンドン増していく気がする。
乙の持っているグラスの粒が、キラキラと自分を誘う。
瀾は、熱くなる体温とゴールドの粒の魅惑に吸い込まれるように何となく、そうっと乙の持っているグラスに手を伸ばす。

あと少し…。
と言うところで乙はグラスを高く上げる。

「駄ぁ目だ!」
「…ぁ」

思わず、残念そうに声が出る。

「[あ]じゃない。
だいたいお前は、まだ飲める歳じゃないだろう」

途端に上目遣いに少し膨れると、乙に言葉を投げる。

「乙様だって飲んでるじゃないですかぁ!!」
「何!?」

明らかに少し態度の違う瀾に、嫌な予感が走る。

「…お前…さっき何を飲んでた…」
「お前じゃないですぅ!!」
「……。まさか…お前…」
「瀾って呼んでくださいぃ!!」

はぁっとため息を吐くともう一度、瀾に問う。

「…瀾、さっき何を飲んでいたんだ?」
「分かりません」

そう言いながら瀾は背伸びをして再び手を伸ばす。

「駄目だと言っているだろう!!」

乙は更に腕を高く上げる。
瀾は、ぷぅと膨れると上目遣いに乙をにらむ。

「そんな顔したって駄目だ。
これはお前が飲めるような代物じゃない!!」

乙が飲んでいたもの。
それは、雛羽の伯父が好んで客人に振る舞い、口にするビール。
[オーシャン エール]というものだった。
アルコール度数18〜20℃

ビールと言ってもシャンパンと同じ感覚で飲めるもので、シャンパンゴールドに引けを取らない代物だ。

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