パーティー会場に行くと、既に来客は来ており、乙は丁寧に挨拶をしていく。
パーティーに招かれた客の半分は父親の会社と何らかの関係を持つお偉いさんばかりだ。
「やぁ、乙君。お元気そうだね」
「お忙しい中、お越し頂きありがとうございます」
「おや?そちらの可愛らしいお嬢さんは、乙君のいい人かな?」
「いえ、身の回りの世話をしている使用人ですよ」
瀾は会釈をすると、乙の邪魔にならないよう本来の業務にせいをだした。
仕事の最中、乙にいつ用を頼まれてもよいように遠からず近からずの距離を保ち仕事をこなす。
たまに近くを通る事もあったが、いつになくキリリと些細な隙も見せない乙の雰囲気は、肌でビリビリ感じるほどだった。
軟らかい表情の中にも警戒と冷たい計算高さが瞳の奥で鈍く光っている。
あんな顔の乙を見るのは初めてだった。
何を考えているのかさえ悟らせる事を許さない表情と威圧感。
中年代の男性と渡り歩くに相応しい貫禄。
とても17の青年?とは思えない程だ。
政治・経済・瀾にとっては、聞いてもさっぱり解らないような内容の話まで、難なくこなしていく。
その後も、沢山の男性と話や挨拶を交わし相手を退屈させることなく冷静に振る舞う乙。
ガーデンパーティーとは名ばかりな社交の場に顔色一つ変える事もなく、プライベートルーム(用足し)に立ち、屋敷に入る時でさえ、その立ち振る舞いは変わることなく、用がないかと瀾が話し掛ける事すら躊躇うくらいだ。
ある程度、客人がはけると乙は、一度着替えるため自室に戻り、ドサッとソファーに座るとフゥっと大きくため息をついた。
「…紅茶を入れてくれるか?」
「は、はい!!」
瀾が紅茶を用意すると乙は、一口含み口を開いた。
「次からは一気に客層が変わる」
「はい…。あの、乙様…」
「…なんだ?」
チラリと視線を向ける乙に瀾は、思わず口を開く事をやめた。
「いえ、何でもありません…」
「疲れたか?」
乙は、ほんの少し表情を柔らかくして、瀾の髪をサラリと内側から撫でた。
「い・いえ…、乙様の方が…」
「俺は大丈夫だ」