乙は朝食をすませるとスーツに着替え、ネクタイを締め始めた。
普段着もクールに着こなしているが、スーツ姿の乙も中々のものだった。
勿論、堅苦しい印象はなく年相応のワンポイトの若々しさを残し、きっちり着こなしている。
「乙様…///」
「ん?どうした?」
瀾は顔を赤く染めて見つめていたが、そんな瀾をよそに乙は何か思い出したように口を開いた。
「瀾…そのメイド服を脱いで」
「え!!!!」
「ほら…早く」
乙は瀾のエプロンの紐を解く。
「き、乙様!!お止めください!!」
「こら、抵抗するな!!」
激しく抵抗する瀾のエプロンをシュルリと引き剥がした。
「ア、アレェ〜!!」
「…なっ!!変な声を出すな!!
お前が今日着るメイド服はこっちだ!!」
慌てながら乙が差し出したのは、紺色の可愛らしいメイド服だった。
ベストタイプに首襟が胸の近くまで細く伸びている。
カチューシャも白と紺のレースが施されメイド服というよりは、何かの衣装にさえ見える。
「これを私が着るんですか?」
「ああ、パーティーやゲストを招く時用の物だ。
月影の品位を乱さない為とはいえ、メイドにまでそれを押しつけるなんて面倒なシステムだ…。
窮屈だろうが我慢してくれ。
…すまない、苦労をかけるな…」
「そんな…素敵なメイド服です」
瀾が着替え終わるのを見届けると、満足そうに抱き締めた。
「似合うな…」
「私、浮いてないですか?」
「浮いてなんかいない」
「本当ですか?」
「俺の言うことが信じられないのか?
そんなに不安なら鏡で確認するといい」
クローゼットルームのドアを開けると大きな全身鏡が現れ、瀾の等身大の自身を写した。
「わぁ!!」
瀾は、ヒラヒラと鏡の前でメイド服を見つめる。
「さて、そろそろ来客がくる時間だ。
行くぞ、瀾」
「はい!!」
二人は部屋をあとにする。