水曜日のある日、花屋の店の前に一人の男の子が呆然と立ち尽くしていた。
店はシャッターが閉まり、本日定休日の札がかかっている。男の子はそれに気付かないのか、それとも無視しているのか、開くはずのない店の前にただ立ち尽していた。
やがて、雨が降ってきた。それでも男の子は店の前から動こうとはしなかった。隣の八百屋の主人が怪訝な顔で男の子に話しかける。
「ぼく、どうしたんだい?今日は花屋さんお休みだよ」
「お花、どうしてもお花がほしいんです」
「駅前のお花屋さんなら今日はやってるはずだよ」
「ここのお店の花じゃないとだめなんです」
「どうして?」
「……」
「でも、今日はお休みだからお店の人は来ないよ」
「どうしてもこのお店のお花がほしいんです」
意地でも店の前を動こうとしない男の子に八百屋の主人は困り果ててしまった。
「ちょっと、待っててね。花屋さんに電話してみるから」
八百屋の主人は一度店に入り、傘を持ってきて男の子に渡した。そして電話をかけ始めた。
――僕の携帯電話の着信音が鳴った。八百屋の主人からだった。
なんだろう? 八百屋の主人から携帯に電話が来るなんて初めてだよな。店でなにかあったのかな……。
戸惑いながらも、僕は携帯電話の通話のボタンを押した。
「あっ、斉藤さん?お休みのところ悪いね。君の店にいつも花を買いに来る男の子がね、さっきから雨が降っているのにずぶぬれになって、君の店の前に立っているんだよ。どうしても君の店の花が欲しいみたいなんだ。何を言っても帰ろうとしないんだよ。もし来られるなら、ちょっとだけ店を開けてやってくれないか」
「わかりました。今すぐ行きます。」
僕はすぐに自宅を出て、自分の店へと向かった。