小説『365本の花』
作者:STAYFREE()

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 八百屋の主人の言うとおり、男の子は自分の店の前で雨に濡れたまま、真剣な目でシャッターを見つめていた。その表情には何か決意のようなものが感じられた。
「ぼく、どうしたの?今日は花屋さんお休みなんだ」
「お花、お花売ってくれませんか?」
「構わないけど、他にもお花屋さんはあるのにどうして僕の店の前で待っていたの?」
「お母さんが、お母さんがいつもこのお店で花を買っていたから」
「君がお母さんの代わりに毎日花を買いに来ているの?お母さんはどうしたの?」
「……」
 男の子はその問いかけには答えなかった。
「まあ、いい。そのままじゃ風邪を引いちゃう。今すぐに店を開けるから。さあ、中に入って。濡れた服を乾かさなきゃ」
「ありがとう。でも、時間がないの。」
 時計は11時30分を指している
「急いでいるの?」
「うん、午前中のうちにこの花を持って行かなくちゃいけないの」
「どこに?」
「……」
 さっきと同じように男の子はその問いかけには答えなかった。
「じゃあ、ちょっと大きいけど、これを着ていきな」
 僕はずぶぬれになった男の子のシャツを脱がせて、店に置いていた自分の着替え用のシャツを着せた。小さい男の子の身体にはダブダブだったが、余った生地を絞って腰のところで片結びをし、何とか格好をつけた。
「お花……」
「そうだったね、じゃあこれ100円です」
「お店、開けてくれてありがとう。じゃあ、行ってきます」
 男の子がどこに行くのかはわからなかったが、いってらっしゃいと声をかけ見送った。

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