小説『365本の花』
作者:STAYFREE()

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 そして、とうとう1年が経った。365日が経ったのだ。
 365日目の今日、僕は開店時間より2時間も早く店に来てしまった。早くあの男の子が来る時間にならないかとそわそわしていた。
 男の子はいつもの時間にやってきた。彼の顔はシャッターの前で立っていたあの時のような凛々しい表情だった。
「お花を、お花を2本ください」
「2本?今日は2本なの?」
「うん」
「はい、じゃあお花2本だね」
 すると、男の子は受け取った花のうち1本をすぐに返してよこした。
「どうしたの?これじゃあ嫌なの?」
「ちがうよ」
「いままで、いろいろと助けてくれてありがとう」
「これはお礼です」
「……」
 僕は花屋をやっているが人から花をプレゼントされたことはあまりなかった。花をもらう喜びなど忘れていた。でも、男の子からの花のプレゼントは他の誰からもらうよりも気持ちのこもったもののように感じた。
「ありがとう……。とってもうれしいよ」
 そう言った僕に男の子は照れたように笑った。その笑顔はとても、とても素敵だった。
「じゃあ、気を付けてね」 
「うん」
 男の子はいつもの方向にお母さんのお墓にむかって歩いて行った。男の子が見えなくなると、僕はすぐに店を閉めた。今日は水曜日ではないが、臨時休業の紙をシャッターに貼り付けた。そして、お墓の方に向かって歩き始めた。

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