小説『365本の花』
作者:STAYFREE()

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 本屋に着いて、僕はまず自分の目的の本を手に取った。そして絵本のコーナーへ行った。あの子が読んでいた本はと、あった。これだ。
「おはながよぶきせき」
 そういうことだったのか……。
僕はこの本を読んで、男の子が毎日欠かさずにお墓参りに行かなければいけない理由がわかった。
 お母さんに蘇って欲しい――。1年間365日、毎日墓参りに行って花を手向ければお母さんが蘇る。そのことを誰かに知られてしまうと奇跡は起きなくなる。絵本にはそう書かれていた。お花が呼ぶ奇跡を彼は信じているのだ。
 シャッターが閉まった店の前で雨に濡れて待っていたのも、熱があってふらふらなのに墓参りに行こうとしたことも、友達に馬鹿にされて怒ったことも、すべて死んでしまったお母さんに蘇ってほしいからだった。
 僕は2冊の本をレジに持って行った。絵本を買ってしまったのは涙でページを濡らしてしまったからではない。僕もこの本が好きになってしまったからだ。

 月日は流れた。
 男の子は1日も欠かさずに花を買いに来た。そしていつもの方向に歩いて行った。風が強い日も、雷が鳴っている日も、大雪の日も、墓参りを欠かすことはなかった。
 このまま365日経っても、実際に男の子のお母さんが蘇ることはない。でも、僕はその事実を教えてあげることはできなかった。
 大人として、絵本の物語を信じて学校にも行かずに毎日を過ごしている男の子に何も言わないのは非常識なのかもしれない。でも、男の子の決心をつぶすようなことはできなかった、

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