小説『くっだんねー!』
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にじゅうはちわ  ただの馬鹿よね



「あぁだりぃ、疲れた」

ゴロリとリビングに腰を下ろしながら何時ものように愚痴をつぶやく零、今日の学校では文化祭の企画がお化け屋敷に決まった、その後の椎名のテンションに着いていくことなど零には、もといついて行く気もさらさらないが、無理な話だった。

「それにしてもビックリしたねぇ、中学の時ゼロに友達がいたなんて、蔵野君だっけ?」

なんてことのない動作でルナは台所に行くと、自然な動作でエプロンを付ける、一様止めようかどうか迷った零だが、夕食を作ってくれるなら止めはしない、それよりもさっきからポケットでブーブーブーブー五月蝿い携帯をどうするかが先だと思い、それを開く。

件名、うらやましい、本文、死ね

が×5通。

「あぁ、まあそうだな、明日からあいつにはもう会わねーと思うけど」

「どういう事?」

「言葉通りだ、あいつ消す」

「うわ、さらっと恐ろしいこと言ったね今」

うんざりしたように零は携帯を放り投げる、綺麗に放物線を描いて学校指定のバックに音も無く吸い込まれていく。

「それにしても、明日から文化祭準備か……思っていたより面倒くさいな」

「またまた、楽しみなくせに」

「なっ、誰が」

「ほかに誰がいるの?」

不服そうにそっぽを向く零をみてルナは微笑む。

「でもまーそうねー、少し安心したかな」

「はぁ?」

何をだとは言わず、零は視線をルナの方へと向ける、ルナは手元を見て、こちらには向かない。

「ゼロにも友達が出来たみたいで安心したってこと」

「別に……あいつらが勝手に絡んでくるだけだ」

「そう、じゃーゼロが中学のときしでかしたこと全部、言っても構わないわけ?」

「お前、マジで言ってんのか?」

ルナが顔を上げる、零と視線がぶつかって、静かな沈黙、台所の炒め物だけが規則正しく油を弾く、とルナの顔が綻ぶ。

「やぁーねー、何本気にしてんのよ、冗談に決まってんでしょ?」

「……ふん、どうだか」

零が視線を外して、気づく。

「って、なんでお前が俺の中学時代知ってんだよ!」

「あれ? 私の情報網の巨大さ知らないの?」

「知るか!」

「私の情報網はもはやインターネットをはるかに凌駕するよ、私が知らない物はない!」

「あーっそ」

「なによその興味なさげな頷きは」

「事実興味ねーよ」

「私が本気出せば一国を壊滅させることもできるのよ!」

「するな、ややこしくなる」

「むー、今日はいつになくテンション低いねゼロ、ツッコミマンがツッコミしないとただの馬鹿よ?」

「待て、お前今なんて言った?」

「え? ゼロは救いようのないツンデレ?」

「どこがだ!」

「自覚なし、本当に救いようないただの馬鹿よね」

「お前、何も考えないで適当に喋てんだろ?」

「うん、私も途中から変だとは思ったけど、どこで止めればいいかわからくなっちゃった」

料理ができたのか、ルナが皿に盛って運んでくる、適当な野菜の炒め物、作ってくれるのだから文句は言うまい、と零は思いながら、ハシとお椀など揃え二人揃って食事に手を付け始める。

「ねぇ、こんなことしてるの他人から見たら、やっぱり夫婦に見えると思う?」

口端に加えたハシが上下に揺らしながら、零は目を細めて心底嫌そうに顔を顰める。

「さぁな、知るか」

「肯定も否定もしないってことは、少しは思ってるってことでいいのかしらね?」

「うるせぇ」

ジト目で睨むと零は再び口を開く。

「そんなことより、まだ言わねぇのかよ」

「うん、言わない」

零は嘆息するとハシを炒め物へともっていく、質素ながら味は自分よりいい。

零がルナへと聞いたことは、なぜ彼女が自分の家に押しかけてきたのかということ、なぜ居候しているのかということ。

「まぁ、大方予想は付いてんだけどな」

零の言葉にルナは目を見開くと、すぐに細める。

「……へぇ、聞かせてよ」

「家の事情か何かだろ。別にお前、社交性は問題なさそうだからな、学校での問題ってわけでもないだろうし」

「社交性有無をゼロに言われるのは癪よね、でもま、そんな単純なことだったらどんなにいいか」

「違うのか?」

「さぁ、ね」

済ました顔でそう言う、どこか寂しげなその表情。

「くだんねー、さっさと言わねぇと追い出すぞ」

「それ昨日も聞いたし一昨日も言ってた、そんなこと出来ないくせに」

「あぁ?」

「でもそういう優しいところ、嫌いじゃないわよ」

「は、はぁ? 優しい? 俺が」

「まぁ甘いっていう言い方も出来なくはないけど、それ言うと零怒るしねぇ」

「わざとだよな、お前」

「まぁねー、あ、食べ終わったならおわん片付けるわよ」

「お、おう」

わずかな動揺を声音に含む零は差し出されて手にお椀を渡す、洗い物までさせてしまうのはどうかと思うのだが、居候だ、それくらいやれ……とまではさすがに思えない。

「洗い物ぐらい、俺がやるぞ」

「え? いいわよ私居候なんだし」

「うっせー、お前は部屋出てく準備してろ」

「もぉー強引なんだから」

どこか嬉しそうにルナは自室へと戻っていく、無論出ていく準備などしないのも、許容はしている。

少しづつ冷たくなっていく気温に比例して、食器を洗う水も手がしびれるぐらいになりはじめた、零は少しばかりお湯を足して、ぬるま湯にしてから食器洗いに取り掛かる。


そうして食器を洗いながら、ふと零は思い出す、ルナに言われた優しいと言う言葉、零自身、その言葉はくすぐったい。

(そういや、前にも言われたっけな、椎名の野郎に、そんなこと)

自覚などない、自分はその言葉とは正反対の道を進んできたクズ野郎だ、気に食わない奴は拳で、足で破壊し尽くしてきたような馬鹿野郎だ、そんなことを言われる権利すらない。

―お前は俺と同類だ、こういう道しか歩めない―

「くだんねー」

だけど今はまだ……このぬるま湯にいてもいいのだろうか?





「ええ、問題ないです、今のところバレていません」

声を潜めてつぶやくように囁くひとつの声すると、携帯からひとりの男の声がかすかに響いた。

「そうか……零のやつ、んなやわい奴になっちまったか、だちなんて作ってよぉ」

その声の主は薄く笑う、まるでバカにしたように、罵り侮蔑するように。

「あいつは俺と同類なんだ、歩める道は俺の隣しかねぇってこと、少し分からせないといけねぇかもな」

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