小説『とある魔術と科学の理論解析(セオリーアウト)』
作者:Android()

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「あぁ?なんだお前」

金髪で左半分の顔に刺青がある男は自分の後ろをついてまわる汚らしい少年を見ていった。
服はボロボロで、寝癖なのか癖毛なのか所どころ跳ねている髪の毛。
第一印象は汚いガキ。踵を返した男は再び歩き始める。
ふと立ち止まってしまう。研究者としての勘というかセンサーがついて回る少年に対しアラートしている。
再び頭からつま先まで観察する。年齢は小学生か、それともまだ未就学児か。
どちらにしても男は子供が嫌いなので、保護するなんていう選択肢には至らない。

「……」

その時だった。少年の踏んだ小石がばっ!と音を立てて発火する。
それ程大きくない発火だったのだが、それでも異能力者の発火能力者ぐらいの発火か。
まだ小学生か未就学児か判断できないような容姿をした少年で異能力者はいない。
貝積継敏が躍起になって探している『原石』とやらのジャンルなのか。
しかし男は、原石なんて解明されていないトンデモ科学ではなく同族のジャンルだという事を理解した。

「おい、ガキ。今のどうやったか認識してるか?っていうか俺の言ってる事、わかるかぁ?」

「……わかんない」

(このガキ……『木原』かよ。突発性かもしんねぇな。木原血族か?)

「お前、名前は?」

「当麻。上条当麻」

聴いたことがない名前だ。それに上条……木原血族は例え女だったとしても『木原』という名前は受け継ぐものだ。
『木原』としてもプライドがそうしているのだが、血縁じゃないのか。
第二学区のDNA研究所があった筈。そこに木原伝達という女がいる。
その女は、この男とはそれ程懇意ではないが、殺し合いをする仲じゃない。

「おじさん……名前は」

「木原数多。上条当麻……だっけか、俺と一緒についてこい」


                             *


「うーん、木原血族じゃないわね」

木原伝達という女性は上半身裸の上条と眼の前に言った。
隣では、腕を組んで木原数多がその様子を見守っている。

「数多さん、この子は書庫によると親に捨てたれた置き去りよ。どこで拾ってきたの?」

「そのへんでウロウロしてたんだよ」

「そう。で、『木原』の可能性がある――でしたっけ?突発性の木原で間違いない」

突発性――、それは二歳から三歳頃の子供が科学という子供にとって未知数の数式に囲まれた環境で一定時間過ごした場合、極希にできる木原一族じゃない『木原』
能力開発は本人の才能によりレベル、能力が決まるがそれを人工的に変化させる方法の一つがこの突発性木原にあるとか。
しかし木原伝達はあることを木原数多に伝えていなかった。最近、能力開発部門で注目されつつあるAIM拡散力場の数値が上条当麻の入室と共に大幅に変動した。
AIM拡散力場の遮断機は未だ完成しておらず、上条の『木原』である可能性があると。
しかし一概にもそう言えないのも事実。
伝達は眉をひそめ、木原数多に言った。

「数多さん、ついでに健康診断を受けてはいかが?」

「んな事やってる時間なんてねぇよ」

「いえ、数多さんには健康診断を受けてもらいます」

部屋の空気が一気に変動する。彼女は自分の白衣から数本の注射器を出して、戦闘態勢をとる木原数多の頸動脈に突き刺した。
中に入っていたのは液体ではなく、微粒子カプセルだった。
彼の頸動脈で電子顕微鏡じゃないと見れないような大きさの微粒子カプセルが弾け、彼の身体機能を阻害する。
これが彼女の『木原』。息、眼、動脈、心臓の音。それら全てを数式にし、解析する『木原』であり、木原一族でも優秀な木原の一人である。

「あなたの『木原』は私には通用しない」

木原数多は筋肉を動かすことすら許されず、その場に倒れ込んだ。
きょとん、とした表情で彼らを見る上条当麻を抱きかかえしばらくは動けない木原数多を適当な空き病室に放り込んだ。
上条当麻が利用されるのをみすみす見逃せなかった木原伝達は上条当麻を第七学区の自室へ招いた。
木原伝達は長点上機学園の一年生であり、木原数多は昨年、長点上機学園を卒業した男。
先輩後輩の仲だったが、自分の信じる正義を侵害するものを許さない彼女のポリシーが木原数多を攻撃させた。

「大丈夫、大丈夫」

そういって、上条当麻をあやす。
自分に言い聞かせるように。あれで一応、木原数多は木原一族でも発言権がある方で木原伝達はそれほど発言権を持っていない女子高生だ。
木原数多が他の木原に伝達が新しい『木原』を連れて逃げた、と言ったら木原一族総出で伝達を殺しに来るだろう。
そんな怖さもあるが、自分の正義に逃げるわけにはいかなかった。
置き去りだからってなんでもしていい訳じゃない。実験動物ではないのだ。
木原数多は突発性の木原である上条を人体実験するつもりだった。それが勘違いだとしてもいずれそうなる筈だ。
自分の研究のためなら、他人の犠牲も厭わない木原も居る。
その犠牲の中に、上条当麻と木原伝達という名前も含まれるかもしれないのだ。

「私は大変なことをしてしまったのかもね」

伝達は呟いた。
 

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