小説『とある魔術と科学の理論解析(セオリーアウト)』
作者:Android()

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伝達が上条を連れ去ってから12年と数ヶ月。
高校生になった上条当麻は学校の寮でダラダラと過ごしていた。
クーラーの利いた部屋で漫画を読みながら、ポテトチップスとコーラを頬張る幸せ。
生活習慣病?そんな事は夏休み初日という偉大な言葉の前では霞んで見えるらしく、ポテトチップスを取る手が止まらない。

「腹減ったなー」

健全な男子高校生は一袋のポテトチップスじゃ腹の足しにならないらしく、近くのファミリーレストランへ足を運んだ。
苦瓜と蝸牛の地獄ラザニアとドリンクバーを注文し、ドリンクバーで豪快にジンジャーエールとオレンジジュースを混ぜる。
注文した苦瓜と蝸牛の地獄ラザニアを口に放り投げようとした瞬間。聞きたくもなかった知り合いの声が聴こえてきた。

「ちょっとアンタ。こんなところで何やってんのよ」

「御坂さんこそこんなところで何やってるんですかー?」

「私はドリンクバーとパフェをね。友達と」

「ふーん……あそこの?」

「そう。ま、今日は勝負は勘弁してあげるからせいぜい余生を楽しんでおきなさい」

少女の名前は御坂美琴。学園都市で七人しかいない超能力者の一人、第三位の超電磁砲。
初めて会ったのは彼女が常盤台中学に入学した頃の最初の能力開発。AIM拡散力場の講習に来ていた上条とばったり出くわしたのが最初。
出くわしたのはシャワー室で、彼女の裸を見たことから超能力者級の電撃を浴びせられて、幻想殺しイマジンブレイカーで打ち消した所から毎日のように遭遇する
事になってしまったのだ。最近では能力開発を任されている事もあり、勝負ついでに能力開発の手伝いをしている。
しかし、今はそんなことよりも苦瓜と蝸牛の地獄ラザニアだ。
目の前でほくほくと湯気があがるラザニアが上条の食欲をさらにそそらせる。
固唾を飲んで、ラザニアを口の中に放り込んだ。

「んぐんぐ……うめぇ!」

学園都市に無数に存在するゲテモノ料理の中でもトップクラスのうまさを誇る苦瓜と蝸牛の地獄ラザニア。
期間限定という事もあり、今日は苦瓜と蝸牛の地獄ラザニア目当てで来る客も少なくない。
一口。二口と口に放り込んだ所で、どこかから悲鳴が上がった。

「ん?」

どうやら武装無能力者集団(スキルアウト)同士の喧嘩らしい。そんな事は日常茶飯事なので、どうでもいいと食べ続ける客も居る。
あまりにガチャガチャと煩いので、上条は金髪の男の腹にリバーブローをぶち込んだ。
それと同時に風紀委員が茶髪の男を無力化した。身長は150くらいの少女が180近くある男を投げ飛ばした事に感心する上条だったが、次の標的が自分だという事を
感じ取り、少女と相対した。

「風紀委員(ジャッジメント)と殴りあいとか……勘弁してくれよ」

「ならさっさとお縄についてくださいな」

「俺には苦瓜と蝸牛の地獄ラザニアが待ってるんだよ。こんなところでブタ箱なんて洒落にならないな」

「それは悪いですが苦瓜と蝸牛の地獄ラザニアは諦めてくださいまし」

「そうか――っ!」

上条は少女の懐に突っ込んだ。殴るつもりはないが、気絶させることは出来るだろう。
しかし、少女の姿は目の前にはなく背後にあった。脳が理解する前に、小さく細いつま先が上条のみぞおちを直撃する。

「ぐうっ!?」

目の前の、『少女』の能力は視覚操作系の能力……もしくは空間移動系の能力か。
上条の『木原』をこんなところで使うわけにもいかず、上条は呆気無く敗北してしまう。
しかし、このまま終わるのはプライド的にもラザニア的にも許されない。
だが……ここで『木原』を使うのかと訊かれるとあまりに条件が整ってなさすぎる。
上条の『木原』は身の回りにある全ての物質から化学式を見出す事ができる。そして、その化学式を利用し、石ころを発火させたりするのが上条の『木原』。
つまり、身の回りにある全ての電子機器を武器にできるだけの『木原』。

「なぁ、俺。何も関係ないじゃん。開放してくれよ」

「駄目ですの」

……

上条は風紀委員の詰所に連行され、白井黒子という少女の説教からやっと開放されたところだった。
どうやら白井黒子は御坂の後輩らしく、御坂が止めてくれなかったら未だに説教は続いていただろう。
開放されたのはファミレスの喧嘩事件の二時間過ぎた頃で、時刻は7時を回っていた。
腹が減ったのだが、さっきのファミレスには何か入りにくい。
という事で違うファミレスを探すことにする。

「こんな所に……」

陰気臭い飲食店が、第七学区でも開発されていない地域にあった。
客が入っている様子はなく、上条は暖簾を分けて引き戸を開けた。
中は外見とは違い、純和風な造りをされていてカウンターには女の人が居た。

「いらっしゃい、高校生?」

「あーはい」

「お酒は出せないけど、何食べる?一応、なんでも作れるよ」

「じゃあ……グラタンと卵焼きで」

「分かった、少し待ってね」

と女の人は調理場の中に入っていった。
メニューには酒しか書かれていない。居酒屋なのかもしれないが、学生が多い学園都市で居酒屋はそれ程儲からないだろう。
それにしても、静かだった。卵を焼く音がここまで聴こえてくる。いい匂いだ。
十分くらいした頃、女の人が卵焼きだけをカウンターに置いた。
グラタンは調理中らしく、少し待ってほしいという事らしい。

「君、名前は?」

「上条当麻です」

「ふーん、上条くんか。私は阪田衛里。こんな寂れた居酒屋を営んでる」

阪田は少し焦げたグラタンを持ってきて、カウンターに置く。
卵焼きもグラタンも絶妙な焼き加減で、本当に美味しそうに見える。
卵焼きを口の中に放り込むと、辛すぎず甘すぎずの卵が口の中を支配するように広がる。

「美味しい!」

「ありがと。私はね、一児の母だったの。でもね、娘は離婚した父に連れられて居なくなった。もともと私はイギリスに住んでててね」

「イギリス……?」

「そう、魔術(オカルト)っていう分野を研究してたの。その道中に元夫と出会って結婚。元夫も日本人で旅行家で本とかを書いて稼いでたらしいんだけど」

阪田は見た感じ20代後半という感じだ。
上条は早々とグラタンを食べ終わり、水を飲みながら阪田の話を聴いていた。

「離婚の原因は喧嘩別れ。稼ぎがどうとかそういうリアルな話ね。それから私は研究職を降りて、居酒屋を開いたんだけどね」

「……そうなんですか」

「上条くんは、研究者になんてなったら駄目よ?研究者なんて、一人を好む人がなるべきなの」

「俺は……研究者です」

「将来の夢が研究職なの?」

「いえ、俺は『木原一族』の一人です」

「木原一族……か。人は見かけにはよらないって言うけど狂人集団にもこんな普通の子がいるなんてね」

木原一族はその研究に対する異常なまでの熱意、成果が世間一般では『狂人』と呼ばれる程にまでなっていた。
上条はそれほど凄い、と言われる程の成果もあげていないし、学会なんて参加した事もない。
研究者としては未熟の一言である。

「ご馳走様、お代は?」

「お代はもう貰ったわよ。愚痴を聴いてくれたでしょ?」

「……ありがとうございます」

「じゃあね、上条くん」

「はい、また縁があったら」

引き戸を開けて、暖簾をくぐった。この辺は暗いが、見渡せば第七学区の中心街の光が夜空を照らしている。
時刻は八時前後。
明日も早いと思いながら、上条は自分の寮に戻る道中。
怪しげな男が上条を囲んだ。
スキルアウトじゃない。風貌が『殺し慣れた』裏の人間だ。
しかし上条も一応は『裏』という物を理解している。そして、『裏』の人間を返り討ちに出来るだけの実力も持ち合わせている。

「お前、さっき阪田衛里の居酒屋から出てきたな」

「だから?」

「悪いな、何を吹きこまれたか知らないが死んでもらう」


男は木の棒を取り出した。
上条は構えるが、男は先に動く。
男は木の棒を上条に突きつけ、その木の棒の先端から、真っ赤な炎が放射される。
何の能力なのかは分からないが、火力はない。
人を焼き殺す事もできないような炎が上条を襲うが、上条は右手で打ち消した。
男は次は包丁のような刀を取り出して、『人間の数倍の速さ』で上条の体を斬り裂く。
地面には、土で描かれた六芒星の紋章があり、それを糧にして速度を倍増していると上条は予測する。
しかし、それが分かったとしても対処するのは至難の業だ。

「これが『魔術(オカルト)』だよ」

「クソっ!」

上条の足を何度も何度も斬り裂いた。傷自体は大きくないが数が多い。
あの六芒星の紋章をどうにかしなければ、勝ち目は無いと見て良い。

「そうかっ!」

足で六芒星の紋章を崩す。その途端に速かった男は減速し上条の右ストレートが綺麗にきまる。
弱点丸出しの襲撃者。刺客にしては弱すぎる奴だが、もしかしたらその魔術(オカルト)を使う組織があるのかもしれない。
そして阪田もその魔術(オカルト)を研究していたという事。
まさか、阪田は何らかの秘密を知ってその組織に追われてるのではないか?

「弱点が丸出しなんだぜ」

「くくっ残念だなぁ。俺は所詮さ、捨て駒だからよー。自爆しろって言われてんのさぁ」

男が触った場所には『さっきとは角度が違う六芒星の紋章』があった。

「六芒星の紋章に意味は無い。これは六芒星に形を似せただけの全く別の霊装さ」

「霊装……?」

「そうだ。本物は俺たち『夕暮れを覆う暗闇』の拠点にあってだな、俺達は『偶像の理論』によって魔術を行使しているって……ベラベラ喋りすぎたなぁ」

六芒星の紋章の光が一層強くなる。そして、光が上条と男を覆い暗闇の夜空が真っ赤な爆炎に包まれた。

-2-
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